【感想・書評】小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス):非認知能力(自己肯定感、共感力)を育む

 

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【感想・書評】小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス):非認知能力(自己肯定感、共感力)を育む

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『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』の著者の実績と信頼性

 2018年9月の新刊です。
 慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄先生の著書です。高橋孝雄先生は1957年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業です。アメリカのマサチューセッツ総合病院小児神経科で勤務したり、ハーバード大学医学部の神経学講師を務められたりもしました。
 特に論文が引用されているわけでも、エビデンスに基づいているわけでもありません。しかし、高橋孝雄先生は、慶應義塾大学医学部小児科教授という地位のある人なので、デタラメなことは書けないでしょう。高橋孝雄先生の経験と意見の書かれた本ではありますが、それは、医学部小児科教授として、多くのお子さんを見てきた経験と意見なので、信頼度は高い本だと思います。

 

『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』の書評、感想

 

まえがき

 まず、何より最初に、小児科医として子どものしあわせを願っていることが書かれています。
 これは、塾長も同じ思いです。受験というものは、子どもの幸せのための手段です。しかし、それが目的化してしまい、親子の断絶が生じ、幸せになるための手段であるはずの受験で、家庭が不幸になってしまう。あってはならないことが、世の中では多く起きていることに、悲しみを覚えます。

 

「トンビがタカを産む」は遺伝的にありえない?

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』では、「トンビがタカを産」んだように見える場合、実は、両親も「タカ」だった可能性が高い、と述べています。家庭の事情や時代状況などで、表に出なかった、と。「突然変異」にみえるものも、遺伝子の振り幅の範囲内にすぎない、と。

 一方、たとえば、同じ慶應義塾大学で行動遺伝学がご専門の文学部教授の安藤寿康先生は、著書『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』 (講談社現代新書)

テストの成績などは、遺伝50%、遺伝に還元されない家庭環境30%、教え方や本人の変化20%

と述べています。安藤寿康先生も、遺伝の影響が大きい、というニュアンスで述べているようです。しかし、遺伝以外の要因が残り半分もあるのに、あきらめていいのでしょうか?家庭に介入して、きちんとした勉強のしかたを教えれば、いいだけではありませんか。

 また、フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授の、巻末に引用論文、文献などがたくさん載っている、ちゃんとした著書『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋)では、現在の自分を少しだけ超える「限界的練習」を課すことにより、脳の神経回路は、かなり書き換えることができる、能力を伸ばすことができる、としています。

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』でも、後ろの方のページで、
・「遺伝子はON(発現)、OFFがあ」り、環境に順応することができる
・苦手なことも努力で克服できる余地がある
といったことを述べられています。
 高橋孝雄先生も、何事も遺伝の影響が大きいから、あきらめろ、と言いたいのではないのだと思います。

 

非認知能力:共感力、自己肯定感、意思決定力を育む

まず、「共感力」、「意思決定力」(自分のことは自分で決める)、「自己肯定感」が大事、などとおっしゃっています。これらは、学術的にも、認知能力(ペーパーテストで計測される能力)に対し、「非認知能力」と言われるものです。非認知能力が認知能力、学歴にも大きく影響することは、ノーベル経済学賞も受賞したヘックマン教授らの研究で明らかになっています。
 「意思決定力」については、世界陸上400mハードルで銅メダルを2回獲った、為末大さんは「自分の人生を生きている、という感覚が一番の才能で、後天的に最も与えにくい」と述べています。塾長も、いい歳をして塾に親が出てくる学業不振の高校生を見て、そうなのだろうな、と思います。今までの人生のどこかで、すでに「意思決定力」を喪失してしまったのだろう、と。
 「自己肯定感」と「自己効力感」は、似ていて、やや非なるものかと思いますが、「成功」との相関係数は、技術的なものよりも、自己効力感のほうが高いことが、数多くの研究から明らかになっています。

 

結局、高橋孝雄先生の言いたいことは?

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』のまえがきにあるように、子どものしあわせを願っているのだと思います。
 そのために、加熱しがちな早期教育や、保護者の方の過剰な不安をたしなめているのだと思います。

 全体として、子どもの個性、能力、才能は、多少のゆとり、揺らぎはあるものの、両親から受け継いだ遺伝子によるものだから、他人と比べて一喜一憂せず、成長を見守ることが大切だ、ということだと思います。

 「情報に振り回されるのは無意味」、「勉強しなさい」は逆効果、などともおっしゃっています。親が不安になって、早期教育に走ったり、口うるさく「勉強しなさい」とくり返しても、意味がない、むしろ、逆効果、ということですね。

 また、親は頑張りすぎない、きつかったらSOSを発する、といったこともおっしゃっています。お子さんが健全であるためには、何より、親が心身ともに健全であることが大切ですからね。

 塾長の経験からの私見ですが、受験で成功することを最優先に考えたとしても、上記のようなことは大切です。上記のようなご家庭であれば、大学受験塾チーム番町の技術があれば、ビックリするほど成績が伸びると思います。

 高橋孝雄先生は、4歳のときに、お父様を脳腫瘍で亡くされたそうです。その後は、母子家庭で、生活保護帯。慶應医学部と言えば、私大医学部で、授業料は高額のはずですが、学費免除の奨学金をもらったそうです。
 お母様は、「勉強しろ」とは一度も言わなかったそうです。だから、慶應医学部で授業料免除になる学力をつけることができたのでしょうね。現在、受験や学校の現場の先鋭的な指導者の中でも「勉強しなさい」は逆効果、というのは通説になっています。

 

書評、感想

 子育てとは、親と子が共に成長していく過程であり、その中での親の役割とは何か。この問いに対し、『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』は、独自の視点から鋭く迫ります。

 この本は、小児科医、大学教授としての視点から子育て論を展開し、親や教育者がどのように子どもと向き合うべきかを示します。遺伝や環境、才能や努力といった要素が子どもの成長にどのように影響するのか。そして、どのような育て方が子どもの可能性を最大限に引き出すのか。これらについて、具体的な事例とともに解説しています。

 子どもの成長においては遺伝子が大きな役割を果たすとともに、遺伝子がどのように発現するかは環境によっても変わります。つまり、親の影響が大きいのですが、その影響は必ずしも学業指導のみに限定されません。むしろ、共感力や意思決定力、自己肯定感といった非認知能力の育成が重要であると述べています。

 本書は、子育てに対する新たな視点を提供してくれます。遺伝子から環境、努力まで、子どもの成長に影響を与えるさまざまな要素について考察し、具体的な指導法を提示します。この本を読むことで、子どもの成長を支える親として、また教育者として、自身の役割を再認識し、適切なアプローチを見つけることができます。

 高橋先生の子育て論は、遺伝的な要素と環境、教育の要素が複雑に絡み合っていることを理解し、その全体像を見つめ直すきっかけを提供してくれます。さらに、遺伝と環境、それぞれが子どもの成長に及ぼす影響について理解し、子ども一人ひとりの個性や能力を最大限に引き出すための指導法を提示しています。

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』は、遺伝子、環境、教育といった多角的な視点から子育てを見つめ直すための一冊です。子どもの可能性を最大限に引き出すために、親や教育者がどのように関わるべきかを深く考えさせてくれる一冊で、これからの子育てに活かすことができることでしょう。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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