非認知能力とは?:大学受験での重要性、鍛え方、おすすめの本は?

 

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非認知能力とは?:大学受験での重要性、鍛え方、おすすめの本は?

 

・非認知能力とは?

・非認知能力の具体例は?

・大学受験における非認知能力の重要性

・非認知能力の鍛えかた

・非認知能力の研究の歴史

・非認知能力のオススメの本

 

「非認知能力」とは?言い換えると?

IQや学力テストで計測される認知能力とは違い、「忍耐力がある」とか「社会性がある」とか「意欲的である」といった、人間の気質や性格的な特徴のようなもの
(『学力の経済学』(ディスカヴァー、中室牧子慶應義塾大学教授)より引用)

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塾長による書評

です。

 

非認知能力の具体例は?

・自己認識(自分に対する自信がある、やり抜く力がある)
・意欲(やる気がある、意欲的である)
・忍耐力(忍耐強い、粘り強い、根気がある、気概がある)
・自制心(意志力が強い、精神力が強い、自制心がある)
・メタ認知ストラテジー(理解度を把握する、自分の状況を把握する)
・社会的適性(リーダーシップがある、社会性がある)
・回復力と対処能力(すぐに立ち直る、うまく対応する)
・創造性(創造性に富む、工夫する)
・性格的な特性(神経質、外交的、好奇心が強い、協調性がある、誠実)
(『学力の経済学』(ディスカヴァー、中室牧子慶應義塾大学教授)より引用)
といったものが挙げられます。

 

大学受験における非認知能力の重要性

 ノーベル経済学賞も受賞したヘックマン教授らの研究によると、「非認知能力」は学校卒業後のみならず、「学歴」にも大きく影響を与えることが明らかになっています。

 

自信、自己効力感

 自信、自己効力感も、非認知能力の1つとされます。「成功」との相関係数は、「技術的なもの」より「自己効力感」、つまり自信のほうが高いことが大学の研究で明らかになっています。

やる気が上がる8つのスイッチ(ディスカヴァー)

大学受験も、自分に対する自信がある人のほうが、成功しやすい、ということになりそうです。

 

やり抜く力、GRIT

 やり抜く力、GRITも非認知能力の1つとされます。大学受験は、短距離走ではなく、マラソンのようなものです。「やり抜く力」を持つ受験生は、目標達成のために必要な努力と苦労を惜しまないため、大学入試で成功する可能性が高くなります。また、挫折から立ち直り、困難な状況でも前進し続けることができます。

 

意欲

 意欲も非認知能力の1つとされます。意欲がある人のほうが、最高の力を発揮するために、必要な時間と労力を費やす可能性が高くなります。また、課題に直面しても集中力を維持し、努力を続ける可能性が高くなります。
 また、近年の大学入試は、いわゆる2月ごろのペーパーテストの前に、合格が決まることが多いです。このような場合、大学は、意欲があり、大学に貢献する学生を合格させたいと思っています。

 

忍耐力

 忍耐力も非認知能力の1つとされます。大学受験は難しいものであり、学生は諦めたくなるような時が来るでしょう。しかし、忍耐力があれば、目標を達成する可能性が高くなります。
 学生が集中してモチベーションを維持するのに役立ちます。困難な状況に直面しても、それを乗り越える可能性が高くなります。
 学生が課題を克服するのに役立ちます。学生が挫折に直面した場合、忍耐力を使って前進し、最終的には目標を達成することができます。

 

自制心

 自制心も非認知能力の1つとされます。自制心は、困難な状況でも集中力とモチベーションを維持するのに役立つため、大学受験の勉強において重要です。また、それは、勉強を妨げるものから離れて、勉強の進捗状況を把握するのにも役立ちます。
 勉強に集中し、気を散らすものを避けることができます。これは、多くの集中力と注意力を必要とする大学入学試験で成功するために不可欠です。
 疲れていても退屈していても勉強を続けるのに役立ちます。これは重要です。なぜなら、大学入学試験は多くの努力と献身を必要とするからです。
 大学入学試験に対するストレスと不安を軽減するのに役立ちます。落ち着いて集中していれば、試験で最高のパフォーマンスを発揮することができます。

 

理解度を把握する、メタ認知

 メタ認知も非認知能力の1つとされます。自分の理解度を把握していると、最も勉強が必要な分野に勉強を集中させることができます。「知らないことを知らない」場合、すでに知っている内容を勉強することになり、時間の無駄になるかもしれません。または改善する必要がある分野を特定できないかもしれません。
 理解度を評価する方法はいくつかあります。1つは、テストを受けることです。これは、実際の試験でどのような出題がされるかの理解を助け、また、強化する必要がある分野を特定するのにも役立ちます。理解度を評価する別の方法は、個別指導塾の先生に相談することです。先生は、あなたが苦労している分野を特定し、あなたを助けるために必要な支援を提供することができます。
 理解度がわかったら、個人に合わせて作られた学習計画を作成してもらうことができます。これは、あなたの時間を最大限に活用し、試験に備えることを助けます。

 

社会性

 社会性も非認知能力の1つとされます。同じ試験勉強をしている他の学生と関係を築くのに役立ちます。これにより、サポートとモチベーションを得られるだけでなく、大学受験に必要な情報を得られる可能性もあります。
 先生と効果的にコミュニケーションするのに役立ちます。これにより、より良い指導とより個別化されたサポートを受けることができます。たとえば、ある概念やスキルに苦労している場合は、先生に伝えることが重要です。これにより、必要な支援を受けることができます。
 大学入学試験の大きな障害となる可能性のあるストレスや不安を管理するのに役立ちます。たとえば、友人や家族に自分の気持ちを伝えることにより、必要な励ましを得られるでしょう。

 

回復力、レジリエンス

 回復力、レジリエンスも非認知能力の1つとされます。挫折や困難から立ち直る能力です。大学受験では、途中で多くの障害に直面することになります。たとえば、

・教材に圧倒される
・勉強に遅れをとる
・テストの不安に対処する
・病気や家族の問題などの個人的な問題に直面する

回復力は、これらの課題を克服し、勉強を続けるのに役立ちます。

 

創造性、クリエイティビティ

 創造性、クリエイティビティも非認知能力の1つとされます。創造性により、既存の考え方を離れて、問題に対して新しい、革新的な解決策を考え出すのを助けることができます。これは、新しい状況に知識を適用したり、複雑な問題について批判的に考えることを要求する試験において、特に役立ちます。
 たとえば、賛否両論ありそうなトピックについて小論文、英作文を書くように求められた場合、創造性は、独特で説得力のある議論を展開するのに役立ちます。
 勉強にモチベーションを高め、関与させ続けるのに役立ちます。創造的な計画に取り組んでいるとき、勉強に興味を持ち、最善を尽くすために、より努力をする可能性が高くなります。これにより、より良い成績を獲得し、希望の大学に入学する可能性が高くなります。

 

好奇心

 好奇心も非認知能力の1つとされます。好奇心は、学習に集中しモチベーションを維持するのに役立ちます。何かについて好奇心を抱いている場合、それについてもっと学びたいと思う可能性が高くなります。これは、より深い理解につながり、試験でより良い成績を収めるのに役立ちます。
 より批判的に考えるのにも役立ちます。好奇心を抱いている場合、質問をしたり、提示された情報に疑問を呈したりする可能性が高くなります。これは、より深い理解につながり、試験の準備をよりよくするのに役立ちます。
 より効果的に学ぶのに役立ちます。好奇心を抱いている場合、学んだ情報はより記憶に残る可能性があります。これは、情報に興味を持ち、もっと学びたいと思う可能性が高くなるためです。

 

誠実さ

 誠実さも非認知能力の1つとされます。学生が有意義な方法で学び成長することができます。学生が誠実に行動すると、自分自身と他人に対して正直になり、自分の学習に責任を持ちます。これは、教材をより深く理解することにつながり、大学受験で成功するために不可欠です。
 受験生が強い学習倫理を身につけるのに役立ちます。学生が自分の能力と弱点について正直に話すと、成功するために必要な努力をする可能性が高くなります。
 誠実さは、学生が批判的思考能力を身につけるのに役立ちます。学生が自分で考え、自分のアイデアを思いつくことができるとき、彼らは大学入学試験で難しい質問に答える準備ができています。
 誠実さは学生に自信を築くのに役立ちます。学生が成功した場合、彼らは自分自身の能力を信じる可能性が高くなります。

 

非認知能力と大学受験についての当サイトのページ

 

与えすぎると教育に失敗する?:個別指導塾と意欲を奪わない教育
意欲、好奇心(非認知能力の一部ですね)といったものが、一番の才能であり、与えすぎると、逆に、これらの最も大切なものを奪ってしまうことになりかねない、という話です。

お子さんが主体的に東大・医学部受験に挑む秘訣:自主性を引き出す方法
主体性や高い目標にチャレンジする、といったことも、非認知能力の一部と言っていいでしょう。

 

非認知能力の鍛えかた:習い事なんていらない!

 

 「非認知能力」は鍛えることができるとされます。
 そもそも、脳が適切なトレーニングにより成長することが科学的に明らかになっているので、「非認知能力」も鍛えることができるでしょう。小学生、中学生、高校生、社会人、いずれも高めることができます。

 

自信、自己効力感の鍛えかた

 自信、自己効力感も非認知能力の1つとされます。上記で、以下の本を紹介しました。

『やる気が上がる8つのスイッチ』(ディスカヴァー)

著者は、コロンビア大学モチベーション・サイエンス・センター副所長のハイディ・グラント・ハルバーソン先生です。大学の研究に基づく、ちゃんとした本です。この中で、自信を高めるには

「成功体験を積むこと。社会人ならば、職場でのオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)で成功体験を積むこと。」

と述べられています。大学受験を目指す高校生ならば、実際に、高校の定期テストや、模擬試験で、いい点数を取る、ということになります。大学受験で良い点数を取るための手段が、テストや模擬試験で良い点数を取る、というのが難しいところですが、少しずつ成績が上がることにより、少しずつ自信、自己効力感も高まり、正のスパイラルが生まれる、ということだと思います。

 

やり抜く力、GRITの鍛えかた

 やり抜く力、GRITも非認知能力の1つとされます。『GRIT やり抜く力』という有名な本があります。ペンシルベニア大学心理学部のアンジェラ・ダックワース教授の著書です。大学での研究、調査に基く話がたくさん出てくる、ちゃんとした本です。アンジェラ・ダックワース教授の研究は、他の多くの本で引用されています。
 『GRIT やり抜く力』には、「やり抜く力」を鍛えるための、様々な方法が述べられています。一部を挙げると

・最上位の目標を設定する
たとえば、東大、医学部受験であれば、大学合格そのものかもしれませんし、その後の社会貢献かもしれません。

・中、下位の目標を設定する
たとえば、大学受験であれば、1日1日、教材をこなしていく、といったことでしょう。

・さまざまなことに挑戦する
金メダリストなどの「やり抜く力の鉄人」も、意外と、最初から「最上位の目標」が決まっていたわけではないケースが多いようです。さまざまなことに挑戦した上で、自分が「やり抜くこと」がきまった、ということです。まあ、挑戦のうちに、習い事を入れてもいいかもしれません。

・実際にやり抜く
本書では、課外活動を1年以上続けることをオススメしています。実際に何かをやり抜くことにより、他のことをやり抜く力も高まる、ということです。

・人の役に立つと考える
教会を作っているレンガ職人に「何をしているんですか?」と聞くと、「レンガを積んでいるんだよ」と言った人と、「歴史に残る大聖堂を作っているんだ」と言った人がいた、という有名な話があります。後者のほうが、やり抜く力は高そうですよね。

 

また、『やり抜く人の9つの習慣』(ディスカヴァー)という本があります。著者は、上記の『やる気が上がる8つのスイッチ』(ディスカヴァー)と同じ、コロンビア大学モチベーション・サイエンス・センター副所長のハイディ・グラント・ハルバーソン先生です。大学の研究に基づく、ちゃんとした本です。「やり抜く力」の背景よりも、「やり抜く力」を鍛える具体的な方法に、より焦点を当てています。目次を挙げると

・目標に具体性を与える

・目標達成への行動計画をつくる

・目標までの距離を意識する
たとえば、大学受験生なら、模試を受けて、自分なり指導者なりがフィードバックを行う、ということです。

・現実的楽観主義者になる
単なる「ポジティブシンキング」ではなく、目標を達成することは簡単ではないことを自覚した上で、困難に立ち向かう自分をイメージする、ということです。

・「成長すること」に集中する
先述のハイディ・グラント・ハルバーソン先生の著書『やる気が上がる8つのスイッチ』の大テーマである、「自分の能力を証明するため」ではなく「自分を成長させるため」に勉強するということです。

・「やり抜く力」を持つ

・筋肉を鍛えるように意志力を鍛える

・自分を追い込まない

・「やめるべきこと」より「やるべきこと」に集中する
たとえば、「夜更かししない」ではなく「早く寝る」という表現にする、といったことです。

 

意欲の鍛えかた

 意欲も非認知能力の1つとされます。

・現実的な目標を設定する
毎日取り組むことができる小さな、達成可能な目標を設定します。

・勉強仲間を見つける
誰かと勉強することで、やる気を維持し、責任を果たすことができます。

・努力に報酬を与える
目標を達成したら、自分自身に小さな報酬を与えましょう。これは、やる気を維持し、軌道に乗るのに役立ちます。

・前向きな勉強環境を作る
集中でき、気を散らすものがない静かな場所を見つけましょう。

・休憩する
休憩せずに何時間も勉強しようとしないでください。燃え尽き症候群を避けるために、20〜30分ごとに立ち上がって動き回ってください。

・自分を信じる
試験で上手にできるということを忘れないでください。やる気を維持し、集中力を維持すれば、目標を達成することができます。

試験に成功することのメリットを考える
どんな大学に入学できますか?どんなキャリアが開かれていますか?

・すでに試験を受けた人に話を聞く
彼らは、あなたにアドバイスを与えることができます。ただし、単なる個人的経験は、普遍的でないことも多いので注意が必要です。

・諦めない
落胆する時があるでしょう。しかし、誰もがどこかで苦労していることを忘れないでください。頑張っていれば、最終的には目標を達成できます。

 

 上記で『やる気が上がる8つのスイッチ』(ディスカヴァー)を紹介しました。やる気、つまり、意欲ですね。自分の能力を証明するのではなく、成長を目指す。自信をつける。自分が獲得型か回避型かを見極め、強みを活かす。ことを意識しましょう。

 下記の原田隆史先生の目標設定用紙には、「自分がなぜその目標を達成しなければならないのか」の理由を「公私」「物心」をxy軸にした平面にたくさん書き上げる欄があります。理由をたくさん上げることで、目標達成への意欲が高まる、ということだと思います。

 

回復力、レジリエンスの鍛えかた

 回復力、レジリエンスも非認知能力の1つとされます。

・休憩する
何時間も勉強を続けるのではなく、休憩してください。立ち上がって動き回るか、頭をクリアするために数分間何か別のことをしてください。

・諦めない
誰もが挫折や困難を経験します。立ち上がって続けることが重要です。

・自分を信じる
どんな困難も克服できる自信を持ってください。

・ポジティブに考える
人生の良いことに焦点を当て、ネガティブなことに固執しないでください。

・自分を大事にする
十分な睡眠をとる、健康的な食事を食べる、定期的に運動する。好きなことをしたり、リラックスしたりする時間を取ることも大切です。

・ポジティブな人々に囲まれる
あなたを支え、あなたを気分良くさせてくれる人々と時間を過ごしてください。

・自分の強みに目を向ける
自分の長所や能力を認め、自分を信じるようにしましょう。

・他人の助けを借りる
困難に直面しているときは、他人の助けを借りることを恐れないでください。信頼できる人に相談したり、サポートを求めたりしましょう。

 

創造性の鍛えかた

 創造性も非認知能力の1つとされます。

・既存の考え方を離れて考える
新しい、革新的なアイデアを思いつくことを恐れないでください。創造性が高いほど、群衆から際立つ可能性が高くなります。

・新しい経験にオープンであること
新しいことに挑戦し、あなたの快適ゾーンから出てください。これは、あなたの創造性を開発し、新しい考え方を学ぶのに役立ちます。

・間違いを恐れない
間違いは創造的プロセスの自然な部分です。間違いで落胆しないでください。代わりに、間違いから学び、それらをあなたの仕事に改善するために使用してください。「私は決して失望などしない。なぜなら、どんな失敗も新たな一歩となるからだ。」(エジソン)

・楽しむこと!
学習は楽しいはずです。もしあなたが楽しいと感じているなら、あなたは創造的になり、最高の学習をする可能性が高くなります。

 

好奇心の鍛えかた

 好奇心も非認知能力の1つとされます。

・質問する
学習している内容について、先生に質問することを恐れないでください。質問すればするほど、学ぶことができます。

・研究する
何かについて好奇心を抱いている場合は、それについて研究してください。インターネット、書籍、雑誌など、多くのリソースが利用できます。

・人と話す
学んでいることを友達、家族、教師と話してください。これは、学んでいることをより良く理解し、異なる視点を得るのに役立ちます。

・オープンマインドであること
新しいアイデアや視点にオープンであること。これは、より多くのことを学び、より批判的に考えるのに役立ちます。

 

誠実さの高め方

 誠実さも非認知能力の1つとされます。

・自分の長所と短所を正直に評価する。
・自分のために現実的な目標を設定し、それらを達成するために一生懸命勉強する。
・不正行為や盗用をしない。

 

その他、非認知能力の鍛えかた

 神戸大学の西村教授や山形大学の窪田准教授の研究によると、いわゆる「しつけ」が「勤勉性」という非認知能力に因果関係を持つことが明らかになった、とのことです。(『学力の経済学』(ディスカヴァー)より)。「しつけ」により「忍耐力」「自制心」といったことを司る脳の部位が成長する、のではないか、というのが塾長の私見です。

 「細かく計画を立て、記録し、達成度を自分で管理する」ことが、「自制心」を鍛えるのに有効であるという研究が多数あるそうです(『学力の経済学』(ディスカヴァー)より)。
 普通の公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された、原田隆史先生は、生徒に「日誌」をつけるよう指導していました。つれづれに、思ったことを書く「日記」ではありません。1日のうちに、すべきことをあらかじめ書いておき、実際に実行できたかをチェックし、毎日、段差の小さい階段を登っていく。それを続けると、結局は、とんでもないところに到達できる、というものです。塾長は、「自制心」のみならず、「自分の状況を把握する力」も鍛えられるのではないか、と考えています。

 課外活動の継続を奨める研究者も多いようです(『GRIT やり抜く力』(ダイヤモンド社)、『学力の経済学』(ディスカヴァー))。普通の公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された原田隆史先生は、「1000日間続けることを決めなさい。」と指導するそうです。たとえば、家庭での皿洗い、風呂掃除などです。それにより、原田先生の生徒は、やり抜く力が高まったのかもしれません。上記でも、「やり抜く力」を高めるには、実際に課外活動を1年以上やり抜く、と書きました。

 スタンフォード大学の心理学者、キャロル・S・ドゥエック教授は、「能力は努力によって後天的に伸ばすことができる」という「しなやかマインドセット(心の持ちよう)」を持つことが大切であると著書で述べています(マインドセット「やればできる!」の研究(草思社))。

 

非認知能力を高める指導者は「非認知能力」を語らない?

 下記、ポール・タフさんの著書『成功する子 失敗する子』(英知出版)『私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む』(英知出版)では、非認知能力は、教え込まれるものではなく、「子供をとりまく環境の産物」と考えたほうが、より正確であり、有益である、としています。ということは、子供本人よりも、環境に働きかけなければならない。そして、子供にとって、もっとも大きな環境は、家庭、保護者です。ということは、大人が非認知能力を育むことが、最も大切、ということになりそうです。
 また、ポール・タフさんの著書では、「生徒から非認知能力を上手く引き出すことのできる教育者たちは、非認知能力の話を教室ですることはない」と述べられています。たとえば、チェスクラブの顧問であれば、生徒のチェスの対局の検討を通して、
・チームへの帰属意識

・目標を高く持つこと
・自身を持つこと
・粘り強く難題に取り組む
・失敗やストレスに対処するレジリエンス
なども教えていた、と考察しています。彼女は、生徒の対局を生徒と一緒に熱心に分析し、生徒のミスを率直に話し、どうしたら良かったかを理解させることにより、生徒の生活全般の取り組みまでを変えた、と考察しています。

 大学受験塾チーム番町では、生徒の学校のテストや模試の反省を通して、上記のチェスの先生と同じような反省をしています。たとえば、数学なら、どの教材の何ページをマスターできていればこの問題が解けたか。共通テスト型現代文なら、どのように考えれば、正しい選択肢にたどり着けたのか。これにより、生徒の非認知能力をも育むことができているのなら、素晴らしいことだな、と思います。

 

好奇心、社会性は「好奇心、社会性の高い人のマネ」で鍛えられる!:大学の研究に基いて

  『運の方程式 チャンスを引き寄せ結果に結びつける科学的な方法』(アスコム)という本があります。著者は、鈴木祐さんという、論文マニアの方です。大学などの研究論文、エビデンスに基づいてパフォーマンスを上げよう、といった趣旨の本を何冊か出しています。
 本書では、ウィスコンシン大学などが行った、約8,000人のデータに基づいたメタ分析によると、「天才と凡人を分けるのは好奇心の有無」としています。そして、南メソジスト大学が開発した、好奇心を高めるためのアクションリストが載っています。アクションリストからいくつか選んで、4ヶ月ほど続けると、好奇心の向上が見られたそうです。おおむね、現在、日常で行っていないような行動をすればいい、つまり、好奇心の高い人の行動のマネをすればいいと思います。
 社会性についても同様で、社会性を高めるためのアクションリストが載っています。
 好奇心、社会性ともに、非認知能力の1つとされます。

 

創造性を鍛えるには、深い経験と幅広い経験が大切!:大学の研究に基いて

 創造性も非認知能力の1つとされます。『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(三笠書房)という本があります。

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 著者は、ペンシルベニア大学ウォートン校の心理学者のアダム・グラント教授です。大学の研究に基づいたちゃんとした本です。本書では、ノーベル賞を受賞した科学者と、一般的な科学者を比較した考察があります。両者とも、専門分野の深い専門性を有することについては、共通しています。一方、ノーベル賞受賞者は、芸術に携わる割合が、並外れて高かったとのことです。
 本書では、「深い経験と幅広い経験が独特に組み合わさることで創造性は発揮される」と考察しています。
 「幅広い経験」を芸術に限ると、楽器、バレエなど、習い事が必要のようにも思えますが、それ以外の幅広い経験でもいいかもしれません。

 

非認知能力研究の歴史

 非認知能力は、もともとアメリカの経済学者であるサミュエル・ボウルズとハーバート・ギンタスによって、1976年に「非認知的個人特性」として提唱されたといわれています(岡山大学サイト)

 1962年から1967年にかけてアメリカで「ペリー就学前プロジェクト」が行われました。これを研究したのが、ノーベル経済学賞も受賞した、ジェームズ・J・ヘックマン教授です。非認知能力が、学歴、収入、健康管理、犯罪率などに影響すると結論づけました。ヘックマン教授には『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社、アメリカでは2013年出版)という著書があります。本の内容自体が薄く、非認知能力を高めるための具体的なノウハウなどは皆無ですが、この情報が玉石混交の時代に、大学の研究者の本を紹介することは、意義があると考えます。本書は、ヘックマン教授の研究内容に対し、学者や教育関係者が意見を述べ、それに対し、ヘックマン教授が返信する、という内容になっています。

 日本では、2000年前後に、普通の公立中学校の先生である、原田隆史先生が、陸上部の顧問として、7年間で13回の日本一を達成されました。そのエッセンスを著書にしたのが『成功の教科書』(小学館)です。

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 原田隆史先生は、「非認知能力」という言葉は使っていません。2000年代に、日本で「非認知能力」という言葉を使っていた人は、ほとんどいなかったでしょう。しかし、原田隆史先生の指導メソッドは、まさに、非認知能力に重きを置いたものと言えます。現在、「非認知能力」とされているものを育むための具体的な方法が語られています。古今東西の成功者を分析して指導に生かされたそうです。
 成功は、人間の生まれ持った質ではなく、つくるものである。
 物事の結果を決める要因は「心・技・体・生活」で、特に「技」の前に「心」が大切だとおっしゃいます。「心」の内容として「やり抜く力」「意欲」「自信」といった「非認知能力」のかなりの部分がカバーされています。日誌(その日すべき事の予定と実績)をつけ、毎日少しづつ、目標への階段を登る、といった目標達成の技法も、「やり抜く力」「自分の現在の状況を把握する力」などを育む方法と言ってもいいでしょう。

 下で紹介している、スタンフォード大学の心理学のキャロル・S・ドゥエック教授の著書『マインドセット「やればできる!」の研究』(草思社)がアメリカで出版されたのが、2006年です。本書でも「非認知能力」という言葉は使われていませんが、内容は、非認知能力を育むための本と言ってよく、大学の研究に基づく書籍ということで歴史的意義があるでしょう。

 アメリカでは、2012年にジャーナリストのポールタフさんの著書で、おおむね、大学の研究やリサーチに基づいた『成功する子 失敗する子』(英知出版)が出版されました。本書の、少なくとも日本語版序章には「非認知スキル」という言葉が使われています。そして、ヘックマン教授の研究についても述べられています。ポールタフさんは2016年に『私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む』(英知出版)を出版しました。

 

 

非認知能力についてのおすすめの本

 

SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法(祥伝社)

世界最高の子育て 「全米最優秀女子高生」)を育てた教育法(ダイヤモンド社

 娘さんが全米最優秀女子高生に選ばれた、ボーク重子さんの著書です。メディアで「パッション、パッション」言っている人ですね。一見、ちょっと変ですが、非認知能力の面から言うと、パッション(情熱)は非常に大切です。
 大学教授の先生の本ではありませんが、ボーク重子さんは大学の研究などを詳細にリサーチされているそうす。内容は、大学教授の先生が研究に基づいて書いた本や、ビジネスですでに有名な手法などと、かなり重複し、ボーク重子さんの独りよがりというわけではないと思います。
 ボーク重子さんは「非認知能力」を重視しています。
「自分からやる力」「問題解決能力」「自信」「回復力」といった力は、どのようにすれば育むことができるか、親のあり方の科学的結論は「民主型」、といった内容が書かれています。
 親のあり方の科学的結論について、ペンシルベニア大学心理学部教授が書いた『GRIT やり抜く力』(ダイヤモンド社)では、「要求は厳しいが、暖かく支援し、子供の自主性を尊重する」としており、ほぼ一致します。

 

マインドセット「やればできる!」の研究(草思社)

 スタンフォード大学の心理学のキャロル・S・ドゥエック教授の著書です。おおむね、大学での研究、調査に基づく、ちゃんとした本です。
 多くのページが「こちこちマインドセット」と「しなやかマインドセット」について書かれています。
 「こちこちマインドセット」とは、自分の能力は固定的で変わらないという心の持ちようです。また、自分の能力を証明せずにはいられないタイプです。自分が他人からどう評価されるかを非常に気にします。
 「しなやかマインドセット」とは、人間の基本的資質は、努力次第で伸ばすことができるという心の持ちようです。自分の成長に関心を向けるタイプです。
 上に、「自信」は非認知能力の1つだと書きました。一方、本書では、「自信などいらない」とします。なぜなら、「しなやか」な人は、失敗しようが、ただただ自分の成長に関心を向け、やり抜いてしまうからです。このような「しなやかさ」も非認知能力の1つと言うことができるでしょう。

 

スタンフォードのストレスを力に変える教科書(大和書房)

 『スタンフォードの自分を変える教室』(大和書房)がベストセラーになった、スタンフォード大学の心理学者、ケニー・マクゴニガルさんの著書です。実験や研究の裏づけがある、ちゃんとした本です。
 回復力、レジリエンスも非認知能力の1つと書きました。
 本書は、ストレスは、ストレスは力に変えることができる、役に立つ、ということを、科学的根拠とともに、説明した本です。ストレスは、現代社会では慢性化しがちなので、負の側面が顕在化しているだけで、本来は、人類に必要だから、備わっているのです。

 

小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス)

 慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄先生の著書です。
 全体として、「子育てを頑張りすぎるな」という趣旨だと思います。ここで「子育て」とは、表面的なペーパーテストの点数を目指した教育だと思います。
 本書では、「共感力」、「意思決定力」(自分のことは自分で決める)、「自己肯定感」が大事、などと述べられています。つまり、非認知能力ですね。
 医学部教授という責任ある立場の人が、小児科医の目線から述べた、教育への提言、という内容だと思います。

 

職場(大学卒業後)における非認知能力の重要性

 当塾は、大学受験塾なので、大学受験における非認知能力の重要性と鍛え方を解説しました。
 一方、非認知的能力は、社会人が持つ認知能力や技術的スキルを補完するものとして、職場において極めて重要です。非認知能力のうち、コミュニケーション能力、チームワーク、適応力といったものは、大学受験よりも、むしろ、社会に出てから重要になります。
 以下のリンク記事では、これらの非認知能力が職場で重要視される理由と、その非認知能力の鍛え方について解説しています。

職場(大学卒業後)における非認知能力の重要性と鍛えかた

 

大学受験生と非認知能力とカント

 カントは、人間の理性的能力を信じ、自律的な思考と行動を重視しました。非認知能力、すなわち、知識や技能以外の能力を高めることは、まさにこの自律性を育むことにつながるでしょう。

 カントの道徳哲学の中心となる概念の一つに、定言命法があります。これは、「自分の意志の格率が、普遍的法則となることを常に望むことができるように行為せよ」という道徳的行為の最高原理です。非認知能力を高めることは、受験生が自分自身の内なる道徳法則に従って行動することを助け、この定言命法の実践につながると言えるかもしれません。

 また、カントは啓蒙思想の提唱者でもありました。「自分の悟性を使う勇気を持つこと」を啓蒙のスローガンとし、人間の理性的能力を信じました。非認知能力を高めることは、単に知識を詰め込むだけではなく、自分自身で考え、判断し、行動する力を育てることにつながります。これは、カントの言う啓蒙の理念の実現に資するものと言えるでしょう。

 さらに、カントの先験的観念論の観点からすると、私たちの認識は、経験に先立つ先天的な認識形式によって構成されています。非認知能力を高めることは、これらの先天的な認識形式を豊かにし、世界をより深く理解することにつながるかもしれません。それは、単に受験のためだけではなく、人生を通じて重要な意味を持つことになるでしょう。

 ただし、カントの思想からすると、非認知能力を高めることを単なる手段と見なすことには慎重でなければなりません。カントは、人間を手段としてではなく、目的として扱うべきだと主張しました。非認知能力の向上は、あくまでも受験生一人一人の人格的な成長と自己実現のために行われるべきなのです。

 以上のように、カントの思想を通して大学受験生の非認知能力の必要性を見つめ直すと、そこには単なる受験対策以上の深い意義が隠されていることがわかります。非認知能力を高めることは、自律性、道徳性、理性的能力など、カントの哲学の核心に通じるものがあります。受験生は、単に知識を詰め込むだけではなく、一人の理性的存在として、自らの人生を切り開いていく力を身につける必要があるのです。

 

大学受験生と非認知能力とニーチェ

 大学受験生が非認知能力を高める必要性は、ニーチェの思想を通して見ると、単なる受験対策の問題ではなく、より深い人間形成の課題として捉えることができます。

 ニーチェは、「力への意志」を重視しました。これは、自らの潜在能力を最大限に発揮し、困難に立ち向かう勇気と情熱を意味します。大学受験という試練に立ち向かうために、受験生は自分自身の内なる力を引き出さなければなりません。そして、その力の源泉となるのが、非認知能力なのです。

 非認知能力とは、粘り強さ、自制心、協調性など、知識や技能とは異なる資質を指します。これらの能力は、受験勉強という困難な過程を乗り越えるための重要な武器となります。ニーチェは、「困難への愛」の重要性を説きましたが、まさに非認知能力こそが、この「困難への愛」を支える基盤なのです。

 また、ニーチェは「超人」の概念を提唱しました。これは、既存の価値観に囚われず、自ら新たな価値を創造する人間像を指します。大学受験は、既存の教育システムの中で競争に勝ち抜くことを求められる場面です。しかし、真の意味での「超人」となるためには、単に受験に合格するだけでは不十分なのです。非認知能力を高めることで、受験生は自分自身の価値観を確立し、将来の人生を主体的に切り拓く力を身につけることができます。

 ニーチェは、「教育」の在り方についても独自の見解を示しました。彼は、既存の教育システムを批判し、個人の潜在能力を引き出す教育の必要性を訴えました。非認知能力を重視することは、まさにこの考え方に合致しています。知識の詰め込みだけでなく、生徒の内面的な成長を促すことが、真の意味での教育なのです。

 さらに、ニーチェは「パースペクティヴィズム」の重要性を説きました。これは、物事には多様な見方があり、絶対的な真理などないという考え方です。大学受験という狭い枠組みの中で競争するだけでは、視野が限定されてしまいます。非認知能力を高めることで、受験生は物事を多角的に捉える目を養うことができるのです。これは、大学入学後の学びにおいても、大きな意味を持つはずです。

 ただし、非認知能力の育成には、一定の危険性も伴います。ニーチェは「ニヒリズム」の脅威についても警鐘を鳴らしました。過度な競争意識や、自己肯定感の低下は、受験生を虚無感に陥れる可能性があります。非認知能力を高める過程で、心のケアを怠ってはならないのです。

 大学受験という試練は、受験生にとって大きな転機となります。この転機を乗り越えるために、非認知能力を高めることは不可欠です。それは、単なる受験対策ではなく、人生を主体的に生きるための基盤を築く営みなのです。ニーチェの言葉を借りるなら、「自分自身を乗り越えていくこと、それが生きるということだ」のです。

 受験生の皆さんには、非認知能力を高める努力を怠らないでほしいと思います。それは、目先の合格だけでなく、将来の人生を豊かにする糧となるはずです。ニーチェの思想を胸に、自らの内なる力を信じて、試練に立ち向かってください。皆さんの成長と飛躍を心から祈っています。

 

大学受験生と非認知能力とフランクフルト学派

 大学受験生が非認知能力を高める必要性を説くことは、一見すると個人の全人格的な発達を促すポジティブなメッセージのようですが、実は「新自由主義」という支配的なイデオロギーを再生産する言説だと言えるでしょう。

 まず、「非認知能力」という概念そのものが、人間の能力を「資本」として捉える功利主義的な発想と結びついています。アドルノとホルクハイマーが指摘したように、啓蒙の理念は逆説的に「道具的理性」を生み出し、人間を手段化します。「非認知能力」の重視もまた、そうした「道具化」の圧力の一部なのです。

 また、「受験生」という存在は、教育を「競争」の場として捉える、資本主義の論理の表れだと言えましょう。ハーバーマスが批判したように、「システム」の論理は「生活世界」を植民地化し、人間的な営みを歪めてしまいます。受験競争もまた、そうした「システム」の拡大の産物なのです。

 さらに、「必要性」という言葉には、社会の要請に個人を従属させるイデオロギー的な力学が潜んでいます。マルクーゼが論じたように、現代社会における「抑圧的寛容」は、個人の自由を「体制への適応」へと導くのです。非認知能力の獲得も、そうした「適応」の強制の一形態と見ることができるでしょう。

 ただし、こうした状況は受験生個人の責任ではありません。むしろ、彼らこそが「新自由主義」の抑圧的なシステムの犠牲者なのです。フロムが指摘したように、現代人は自らのアイデンティティを市場の要請に合わせることを求められ、疎外された状態に置かれているのです。

 問題の核心は、教育を「人的資本」への投資として捉える発想そのものにあります。これは、人間の成長を経済的な価値に還元してしまう、功利主義の論理なのです。アドルノが「否定弁証法」で示唆したように、私たちは既存の価値観を絶えず乗り越えていく批判的精神を持たねばなりません。

 非認知能力の必要性を説く言説は、私たち自身が「新自由主義」の価値観を内面化している状況を反映しています。受験生の姿を通して、私たちは自らが「人的資本」として対象化されていることを自覚せねばなりません。そのとき初めて、「教育」の新たな地平が開かれるでしょう。

 私たちは、「非認知能力」という言葉に潜む「イデオロギー」を批判的に読み解くことで、「新自由主義」の呪縛から自由になる道を模索せねばなりません。受験生の抱える問題の背後には、私たち自身の「疎外」された状況が透けて見えるのです。教育の「解放」は、私たち自身の解放でもあるのです。

 大学受験という「テクスト」を批判的に読み解くことは、私たち自身の「意識」を問い直す営為でもあります。そこに潜む「亀裂」を手がかりに、私たちは新たな希望を紡ぎ出すことができるのかもしれません。非認知能力という「呪文」の背後には、私たちの「解放」への地図が隠されているのです。

 

大学受験生と非認知能力とプラグマティズム

 大学受験生が非認知能力を高める必要性は、単なる入試対策の域を超えて、これからの社会を生き抜くために不可欠な実践的な課題だと言えます。

 非認知能力、すなわち、コミュニケーション能力、問題解決力、忍耐力、リーダーシップなどの資質は、大学入試という限定的な文脈だけでなく、社会のあらゆる場面で求められる汎用的なスキルです。これらの能力は、急速に変化する現代社会を生き抜く上で、専門的な知識以上に重要な役割を果たすと考えられるのです。

 また、非認知能力は、机上の学習だけでは身につきません。部活動やボランティア活動、アルバイトなど、多様な経験の中で試行錯誤を重ねることで初めて習得されるものです。大学受験生には、こうした実践的な活動に積極的に取り組み、自らの非認知能力を磨く機会を創出することが求められるでしょう。

 さらに、現代社会は、かつてないスピードで変化しています。そうした中で求められるのは、既存の枠組みにとらわれない適応力と創造力です。非認知能力は、まさにこうした資質の基盤となるものだと言えるでしょう。大学受験生には、自らの非認知能力を高めることで、予測不可能な未来に立ち向かう心構えを養うことが期待されるのです。

 加えて、非認知能力は、個人の資質であると同時に、社会的な相互作用の中で発揮されるものでもあります。つまり、非認知能力の習得は、個人の成長だけでなく、より良い社会の実現にも寄与するのです。大学受験生には、自らの非認知能力を高めることで、社会の一員としての責任を果たす意識を培うことが求められるでしょう。

 ただし、非認知能力の重要性を認識することは大切ですが、それが全ての学生に画一的に当てはまるわけではありません。受験生一人一人が、自分の個性や適性に合わせて、必要な非認知能力を見極め、伸ばしていくことが肝要です。プラグマティズムの精神に則るならば、画一的な指標に従うのではなく、各自が主体的に自らの能力を開発していく姿勢が求められるのです。

 以上のように、大学受験生が非認知能力を高める必要性は、これからの社会を生き抜くために不可欠な実践的な課題だと言えます。非認知能力は、専門知識の習得と並んで、あるいはそれ以上に、現代社会で求められる汎用的なスキルだと考えられるのです。大学受験生には、多様な経験の中で非認知能力を磨き、予測不可能な未来に立ち向かう心構えを養うことが期待されます。また、非認知能力の習得は、個人の成長だけでなく、より良い社会の実現にも寄与するものだと認識することが大切でしょう。ただし、画一的な指標に従うのではなく、各自が主体的に自らの能力を開発していく姿勢が何より重要です。プラグマティズムの思想に照らすならば、大学受験生には、自らの経験に即して実践的な知恵を磨き、時代の要請に応えられる人材へと成長していくことが求められているのかもしれません。

 

大学受験生と非認知能力と構造主義

 大学受験生が非認知能力を高める必要性は、教育制度という構造の中で生じる主体の問題として捉えることができます。

 現代社会において、大学受験は個人の将来を大きく左右する重要な関門となっています。受験生は、知識の習得と再生産という役割を担う存在として位置づけられ、その能力は主に認知的な側面から評価されてきました。しかし、近年、非認知能力の重要性が注目されるようになっています。これは、社会の構造が変化し、単なる知識の再生産だけでは対応できない複雑な問題が増えてきたことを反映しているのです。

 非認知能力とは、自己制御力、協調性、忍耐力、リーダーシップなど、認知的な能力とは異なる資質を指します。これらの能力は、社会の中で他者と協働し、困難な状況に適応していくために不可欠なものです。大学受験という構造の中で、非認知能力の重要性が高まっているということは、社会構造の変化に対応するために、教育制度そのものが変革を迫られていることを示唆しています。

 しかし、非認知能力の育成は、従来の教育制度の枠組みでは捉えきれない側面があります。なぜなら、非認知能力は、知識の習得という明確な目標に向けて訓練できるものではなく、個人の内面的な成長と深く関わっているからです。受験生は、与えられた役割を超えて、自らの人格的な成長を追求していく必要があるのです。

 ここで重要なのは、受験生一人一人が主体としての自覚を持つことです。非認知能力の育成は、外部から与えられるものではなく、自らの内面と向き合い、自己を変革していく営みだからです。受験生は、構造に規定された受動的な存在ではなく、自らの可能性を切り開いていく能動的な主体として、非認知能力の育成に取り組まなければなりません。

 以上のように、大学受験生が非認知能力を高める必要性は、教育制度という構造の変革と、受験生一人一人の主体的な成長の問題として捉えることができます。社会構造の変化に対応するためには、教育制度そのものの変革が不可欠ですが、同時に、受験生自身が自らの内面と向き合い、主体的に成長していくことが求められているのです。

 

大学受験生と非認知能力とハイデガー

 大学受験生が非認知能力を高める必要性は、ハイデガーの思想の観点から見ると、現存在(Dasein)としての人間の本来的な在り方をめぐる問題として捉えることができます。

 ハイデガーは、現存在が世界の中で出会うものを「道具(Zeug)」と呼び、それが現存在の存在可能性を開示していくと考えました。大学受験もまた、受験生にとっての「道具」であり、彼らの存在の可能性を切り開いていく媒体となり得るのです。しかし、その可能性は、単に知識を詰め込むことで実現されるものではありません。むしろ、非認知能力を高めることこそが、受験生が自らの存在の本来性を追求するための鍵となるのです。

 非認知能力とは、いわゆる学力とは異なる、人間の内面的な資質を指します。それは、粘り強さ、協調性、好奇心、自制心などの、社会生活を送る上で不可欠な能力です。ハイデガーの言葉で言えば、それは現存在が世界の中で他者と共に在ることを可能にする「気遣い(Sorge)」の能力に他なりません。大学受験という「道具」を通じて非認知能力を高めることは、受験生が自らの存在を世界に開いていくための重要な契機なのです。

 また、ハイデガーは、現存在が本来的な在り方を取り戻すためには、「死への先駆的決意性(Vorlaufen zum Tode)」が必要だと説きました。これは、自らの有限性を直視し、そこから逆照的に自らの存在の意味を見出すことを意味します。大学受験もまた、人生の有限性を浮き彫りにする出来事です。受験生は、この限られた時間の中で、自らの将来の可能性を決定づける選択を迫られているのです。そうした状況の中で、非認知能力を高めることは、自らの有限性に真摯に向き合い、その中で本来的な在り方を追求していくための重要な手がかりとなります。

 ただし、非認知能力の育成は、単に個人の内面の問題に収束するものではありません。ハイデガーが強調したのは、現存在が世界の中で他者と共に在ることの重要性です。非認知能力を高めることは、受験生が他者との関わりの中で自らの存在の意味を見出していくための基盤となるのです。それは、単に受験という文脈に限定されるものではなく、人生という長い旅路の中で、他者と共に生きていくための土台となるのです。

 このように、大学受験生が非認知能力を高める必要性は、現存在としての人間の本来的な在り方をめぐる問題として理解することができます。それは、受験という「道具」を通じて自らの存在可能性を切り開いていくための重要な契機であり、同時に、自らの有限性に直面しつつ、他者との関わりの中で本来的な在り方を追求していくための土台なのです。非認知能力の育成は、単なる受験対策ではなく、人間としてのあるべき姿を追求する営みなのだと言えるでしょう。

 

大学受験生と非認知能力とデリダ

 大学受験生が非認知能力を高める必要性は、一見、教育における新たな課題や目標として捉えられがちです。知識の習得だけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力などの汎用的なスキルを身につけることが、現代社会で求められているかのように見えます。しかし、この言説の背後には、「能力」や「教育」という概念そのものの脱構築を促す様々な力学が潜んでいます。

 まず、「非認知能力」という言葉が示唆するのは、能力を可視化し、測定可能なものとして捉える権力の作用です。非認知能力は、知識とは異なる形で学習者の資質を評価し、序列化します。しかし、果たして人間の能力とは、そのように数値化され、比較可能なものなのでしょうか。能力を可視化することは、学習者の多様性や個別性を抑圧し、画一的な基準に従わせる危険性をはらんでいるのです。

 また、大学受験生と非認知能力というテーマは、教育を特定の目的に従属させる思考の表れとも言えます。非認知能力を高めることが、大学受験や社会的成功のために不可欠であるかのように語られます。しかし、教育の目的とは本来、もっと多様で柔軟なものであるはずです。特定の能力の育成に教育を収斂させることは、学習者の可能性を狭め、教育の本質的な意味を見失わせてしまうのではないでしょうか。

 さらに、「大学受験生」という主体の設定自体が、教育のあり方を規定してしまう危険性があります。大学受験という目的に従属した学習者像が、暗黙のうちに前提とされているのです。しかし、学習者は本来、もっと多様な欲望や関心を持った存在ではないでしょうか。大学受験という限定的な文脈に学習者を閉じ込めてしまうことは、教育の可能性を大きく制約してしまいます。

 以上のように、大学受験生が非認知能力を高める必要性という言説は、能力の可視化、教育の目的化、学習者像の限定など、様々な問題系を孕んでいます。これらの問題系を脱構築的に読み解くことで、教育の在り方の根源的な問い直しが可能になります。能力を固定的で測定可能なものとしてではなく、絶え間ない生成変化の中で捉え直すこと。教育の目的を特定のスキルの育成ではなく、学習者の主体性の解放に見出すこと。大学受験という文脈を相対化し、学習者の多様な可能性に開かれた教育を構想すること。そのような方向性の中に、教育の新たな地平が拓かれるのではないでしょうか。

 非認知能力という言葉は、教育の在り方を根底から問い直すための契機となります。それは、私たちを教育の脱構築へと誘い、その営みの意味をより深く探求する道を開くのです。一つの能力をめぐる言説の中に、教育の脆弱性と可能性が同時に宿っています。そこにこそ、脱構築の生産的な力が潜んでいるのかもしれません。

 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

 

大学受験塾チーム番町
 夢をかなえる科学的な指導

 

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