大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導
【感想・書評】ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(早川書房):大学受験に応用する
『ファスト&スロー』の著者の実績と信頼性
著者は、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、行動経済学者のダニエル・カーネマン教授です。巻末に、引用した論文がたくさん載っている、大学での研究に基づいたちゃんとした本です。
著者の信頼性は、絶大と言えます。
『ファスト&スロー』の感想、書評
全体として、人間の脳が犯す判断のエラー、バイアスについて述べられています。
まあ、大学受験についても、人生の一大事と考えている割には、理性的な判断を続けられる人は非常に少なく、感情論で動いている人が多いようですね。
慶應義塾大学薬学部入試では、2018年に本書の原書が出題されています。また、近年、大学入試の英文で、本書のテーマである「バイアス」に関する英文が増えています。
『ファスト&スロー』を大学受験に応用すると?
当塾は大学受験の塾なので、本書で述べられるエラー、バイアスそのものというよりは、その原因となっている脳のシステムを、大学受験の点数を伸ばすことと関係づけて、書いてみたいと思います。
『ファスト&スロー』では、脳の中のシステムを「システム1」「システム2」と名付けます。これは、心理学では広く使われているそうです。
・「システム1」は自動的に高速で働き、努力は全く不要か、必要であってもわずかである。自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。
たとえば、「おぞましい写真を見せられて顔をしかめる」といった本能的なものや、「2+2の答えを言う」といった反射的にまで高められた知的作業です。
本書で述べられるエラー、バイアスの原因は、「システム1」が先走ってしまうことです。
・「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければ困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。
たとえば「17×24を計算する」などです。
「システム2」を使う作業は、集中力を使うので、瞳孔が開き、心拍数が上がります。高校生物で習うところの、交感神経優位になる、ということでしょう。これはストレスで、消耗します。また、集中力を使うので、他の作業に集中力を向けることが困難になります。
ここで大学受験と結びつけましょう。大学受験塾チーム番町では、大学受験の数学を
教科書
↓
チャート式、Focus Goldなどの学校採用教材
↓
東大などで合否を分ける問題
と階層に分けて考えています。
教科書の組み合わせ、応用がチャート式。チャート式をマスターするためには、教科書が「システム1」に入ってなければいけない。
チャート式の組み合わせ、応用が東大などで合否を分ける問題。東大などで合否を分ける問題を解けるためには、チャート式が「システム1」に入ってなければいけない。
ということでしょう。
大学受験のコツは、とにかく、基本的なことを「システム1」に入れる、集中力をほぼ使わずに反射的にできるようにする、ことだと考えます。そうすることにより、「システム2」を動員し、より難しいことに取り組むことができると考えます。
ただし、数学や理科で大学受験で使いそうな技法を反射的にすることと、大学卒業後、創造性を発揮することは、かなり別の話だと思います。ですが、基本知識を反射的にすることにより、より高いレベルで「システム2」を動員することができる、つまり、創造性を解き放つ、という面もあると思います。
チェスのグランドマスターは、膨大な数の「駒のパターン」を記憶している、という研究があります。つまり、大学受験でも、ある程度の「詰め込み」は必要だ、ということですね。
この件について、本書自体の感想も書きます。
『ファスト&スロー』の理論に基づいて、私たちの思考と行動について深く考察してみると、人間の思考と判断の仕組みについて新たな視点が得られることに驚きます。この本は私たちの心理的な動作を二つのシステム、すなわち「システム1」と「システム2」に分けて考察しています。
この二つのシステムの存在を理解することで、自分自身の思考や判断のパターンをより深く理解することができると思います。特に、システム1による直感的な判断と、システム2による論理的な思考とがどのように絡み合って私たちの行動を形成しているかを理解することは、自己理解や自己改善の視点から見ても非常に価値のあることだと感じました。この本は、私たちが日々の生活の中でどのように判断を下し、行動を選択するかについて、非常に洞察力のある視点を提供してくれると思います。
まとめ
『ファスト&スロー』で説明されている人間の思考システムの特徴は、大学受験の場面にも大いに関連するでしょう。
大学受験の勉強では、多くの知識を効率的に習得し、試験で正確に解答することが求められます。このとき、システム2の論理的で意識的な思考を十分に働かせる必要があります。しかし、長時間の集中は難しく、知らず知らずのうちにシステム1の直感的な思考に頼ってしまいがちです。
例えば、問題文を疎かに読んで、直感で選択肢を選んでしまうことがあります。これはシステム1の影響によるミスです。本来はシステム2を使って、問題文を注意深く読み、与えられた情報から論理的に解答を導く必要があります。
また、受験勉強では似たタイプの問題を反復して解くことが多いため、システム1が強化されます。パターンを覚えるのは効率的ですが、応用問題や初見の問題に弱くなる恐れがあります。システム2の力を養い、未知の問題にも対応できる柔軟な思考力を身につけることが大切です。
加えて、システム1の影響は受験者の心理面でも現れます。過去の失敗体験から「この科目は苦手だ」と直感的に決めつけたり、周囲との比較で「自分にはできない」と思い込んだりするのは、システム1の働きによるものです。システム2を意識的に用いて、客観的にデータを分析し、建設的な大学受験戦略を立てることが求められます。
以上のように、大学受験では思考のシステム1とシステム2のバランスが重要になります。意識的にシステム2を働かせ、論理的に考える力を鍛えつつ、システム1に引きずられない冷静さも必要です。『ファスト&スロー』の知見を活かし、メタ認知力を高めることが、大学受験の勉強の質を上げることにつながるでしょう。
ただし、システム1の直感力も決して無視できません。豊富な知識と経験に裏打ちされた直感は、素早く正確な判断を下す助けになります。理想的なのは、鍛えられたシステム1の直感と、それを補正し深める働きをするシステム2の論理性を併せ持つことです。
『ファスト&スロー』の学びを通して、大学受験生は自らの思考を客観視し、強みと弱みを知ることができます。意識的に思考のクセを改善し、システム1とシステム2を上手く活用する方法を編み出していくことが、大学合格への近道となるはずです。
この記事を書いた人
大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。