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大学受験の勉強法の本:超一流になるのは才能か努力か?(文藝春秋)

 

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

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大学受験の勉強法の本:超一流になるのは才能か努力か?(文藝春秋)

 

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『超一流になるのは才能か努力か?』の感想・書評

2016年7月29日発売。
フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授の著書です。

巻末に引用した論文、文献などがたくさん載っている、ちゃんとした本です。
エリクソン教授の研究は、他の本でも引用されています。

 

東大、医学部に合格する超一流の脳の回路を構築

 物事が上達する、勉強すれば大学受験で点数を取れる、超一流になれるメカニズムはこれだと思います。

 かつては、脳に絶対音感の回路があるかないかはすでに決まっており、変えようにも変えられない、と考えられていました。
 しかし、1990年代以降、脳には、たとえ成人でも、それまでの想定をはるかに超える適応性があり、脳の能力を自らの意思でかなり変えられる、ということが明らかになってきました。脳は適切なきっかけに反応し、自らの回路を書き換えていく。ニューロン(神経単位)の間に新たな結びつきが生じる一方、既存の結びつきは強まったり弱まったりし、脳の一部では新たなニューロンが育つこともある。
 生まれ持った才能と思われていた、絶対音感が、大人でも習得できることがわかりました。
そして、これは、絶対音感だけではなく、他の能力にも当てはまります。

 ロンドン大学の研究では、ロンドンのタクシー運転手とバス運転手の脳を比較しました。タクシー運転手は、常に、最適なルートを考える必要があるのに対し、バス運転手は、同じルートを繰り返し走るだけ、という違いがあります。
 タクシー運転手のほうが、空間把握にかかわるとされる、脳の海馬がはるかに大きかったそうです。

 東大・医学部受験生も、『超一流になるのは才能か努力か?』に書かれているような方法で、適切に、脳の神経回路を形成するようなトレーニングをすることが、超一流の大学受験生になるための努力だと思います。

 

東大、医学部に合格する超一流の最強の努力は?

 『超一流になるのは才能か努力か?』で筆者(翻訳者)は「限界的練習」と名付けています。限界を少し超える負荷を自分にかけ続けるこれが超一流になるための努力であると。

 短期記憶では数字を7ケタほど覚えるのが限界、とよく言われます。
しかし、筆者が行った実験で、被験者に、ちょうどできるかできないかの境界あたりの数を与えるトレーニングセッションを続けたところ、82ケタまで覚えられるようになったとのことです。

 東大・医学部受験生も、「現在の自分よりも少し上」の内容を適切に把握し、勉強すれば、効果的に成績を上げることができると思います。極端に言えば、数学、理科は小学校の教科書から用意し、理解していなかった部分にチェックをつけ、ひたすら復習してマスターする、という方法が超一流への努力だと思います。
 教科書が完璧になったら、入試によく出る技法がほぼ網羅されている教材に進む、限界を少し超える負荷を自分にかけます。数学なら『Focus   Gold』。物理なら『物理のエッセンス』。化学なら『化学の新標準演習』。これらが完璧になれば、進研模試や河合全統記述模試などの標準的な模試では、東大、国立医学部級の偏差値になり、実際に合格する一歩手前くらいにはなっています。
 仕上げに、実際の入試で合否を分けているレベルの入試問題で、上記の技法を使いこなす練習をする、限界を少し超える負荷を自分にかければ、合格点に達します。
 英語も、文法なら、中学レベル→高校基礎→高校標準などと限界を少し超える負荷を自分にかけ続けることができます。長文も、公立高校入試レベル→高校基礎レベル→共通テストレベル→地方国公立大レベル→東大レベルなどと、限界を少し超える負荷を自分にかけ続けることができます。
 現代文も、最初は、中学国文法の参考書の例文の音読から初め、公立高校入試レベル→共通テストレベル→地方国公立大レベル→東大レベルなどと、限界を少し超える負荷を自分にかけ続けることができます。

 ここで注意したいのは、大学受験などの受験勉強の場合、トレーニング強度が低すぎるゆえの失敗というよりは、限界を「大きく」超える負荷をかけてしまうことで、トレーニングの強度として適切さを欠く失敗のほうが、はるかに多いようです。
 数学で言うと、検定教科書が完璧でないなら完璧にすべきですし、チャート式、Focus Goldのレベルが完璧でないなら、完璧にすべきです。
 チャート式、Focus Goldのレベルに抜けが多いのに、入試で合否を分ける問題どころか、それを超えて、東大合格者も解けていないような問題の解説を予備校で聞き、数学が全くできるようにならない、という人が世の中にはとても多いのだと思います。限界を「少し」越えるのがコツです。

 また、英語の音声の倍速再生のスピードを少しずつ上げる、なども、限界を少し超える負荷を自分にかけ続ける方法としていいですね。

 

個別指導塾の強み、超一流になる目的のある努力

 『超一流になるのは才能か努力か?』では、音楽の先生が、練習していると言っているにも関わらずどうも上達していない生徒に対し、理由を把握しようとする、架空の会話があります。
 先生「何回練習したのかな。」
 生徒「10回か20回です。」
 先生「正確に弾けたことは何回あったかな?」
 生徒「そうですね、わかりません。1~2回でしょうか。」
 先生「どうやって練習したんだい?」
 生徒「えーと、ただ弾いただけです。」

 大学受験の勉強も同じです。結局、できないことをできるようにした時に、成績が上がるわけです。よく「参考書を◯周」という表現をする指導者、生徒がいます。それは、上記の生徒の「10回か20回です。」と同じで、塾長は、ほぼ意味がないと思います。出来ている部分は、ほぼやらなくてもいいです。出来ていない部分は、チェックをつけ、翌日も、翌々日も、1週間後も復習して、ひたすらできるようにする。それが、成績を上げるための、目的のある練習、学習です。
 また、本書では、「目的のある練習」には「フィードバックが不可欠」としています。上記の会話では、
 先生「正確に弾けたことは何回あったかな?」
 生徒「そうですね、わかりません。1~2回でしょうか。」
と、生徒は練習中に、指導者からフィードバックを受けることができず、どこが間違っているのかを把握できなかかったことも、練習がうまく行っていない原因ではないか、としています。
 大学受験塾チーム番町は、個別指導塾なので、生徒が答案を書いている最中に、塾長である私から、どこが間違っているのか、フィードバックを受けることができ、「目的のある練習」を実現できているのだと思います。超一流になるための適切な努力を心がけております。

 

超一流になる心的イメージ:東大、医学部受験の全体像

 「心的イメージ」とは、たとえば、超一流のチェスプレイヤーが駒の配置、相互関係を5万個ほど蓄積している、超一流のピアニストが曲全体をどんなふうに演奏するかというイメージを持ちつつ、細部についても明確なイメージを持っている、など、「木」と「森」の両方に目配りができることです。

 東大、医学部受験の数学(物理や化学はほぼ同じですし、他科目も似たようなものです)に当てはめましょう。
 生徒側は、今習っている事柄(木)を理解することも大切ですが、大学受験のためには、高校数学の体系(まずは数学の検定教科書、次に教科書を軸としてチャート式やFocus Goldなどの学校採用教材)のどこに何が載っているか(森)を把握することも大切です。
 森を把握することにより、大学入試で他分野にまたがる出題があっても、「問題文のこの部分はこれをつかい、この部分はあれを使えばいい」といった思考で解くことができます。
 指導者側も、大学入試の過去問や模試で、合否を分けるレベルなのに生徒ができていない部分があった場合、その問題自体を解説する(木)というよりは、「この教材のここに載っているよね」と、大学受験数学の体系の中のどこに抜けがあるのか(森)を示すことが大切でしょう。

 また、超一流のチェスプレイヤーともなれば、創造性が必要な新手を繰り出さなければ勝てません。しかし、そういう人ですら、駒の配置、相互関係を5万個ほど蓄積しているのです。「暗記数学」を批判する人がいますが(「暗記数学」という言葉も解釈が必要で、一般的には、意味もわからず丸暗記するのではなく、理解した上で、Focus Goldなどの技法を覚える、という解釈だと思われる。)東大、医学部受験生が数学の『チャート式』や『Focus Gold』の技法を覚えることは、超一流への適切な努力と言っていいのではないでしょうか。(ただ、Focus Goldなどの技法の暗記を必要とする日本の大学受験数学の是非には、疑問を残すところだと思いますが。)

 

浪人しても東大、医学部に合格するわけではない理由

 上記のように、上達のコツは、限界を少し超える負荷を自分にかけ続けることです。
 逆に言うと、自分の能力の範囲のことをこなし続けても、成長はしません。むしろ、改善に向けた意識的な努力をしないと、徐々に劣化します。
 大学受験界でも
、指導歴○○年、といった文言を見ることがあります。しかし、長いこと携わっていたところで、改善に向けた意識的な努力をしないと、むしろ、その人は劣化して、うすらボケた人である可能性も高いです。超一流への努力を怠っているからです。
 また、浪人としたところで、東大や医学部に受かるわけではありません。大きな理由としては、脳の回路は、自分の限界を少し越える負荷をかけ続けないと劣化するから、ということもあるでしょう。先述のように、予備校の授業は、東大合格者も解けないような問題の解説のことも多く、「自分の限界を少し越える負荷」にはあてはまらない事が多いでしょう。一生懸命、予備校の授業に出席しても成績が上がらない、ということは、超一流への努力からも外れている、ということなのです。

 

東大、医学部に合格する英作文の超一流への努力

 秋元康さんは、スタッフに「カルピスの原液を作れ」と言うそうです。その原液があれば、色々なところがそれを使ってアイスクリームやキャンディーなどを作りたいと言って来る。
 『超一流になるのは才能か努力か?』も「カルピスの原液」のようなもので、「限界的練習」を各分野に応用すれば、東大や医学部にも合格できるし、スポーツも上達するし、文章も上手に書けるようになるはずです。
 受験英語の神様と呼ばれた、故伊藤和夫先生の名著『ビジュアル英文解釈』(駿台文庫)には、ベンジャミン・フランクリンが、兄の印刷所で働いていた時に、独学し文章を書いていた話が載っています。
 余談ですが、ベンジャミン・フランクリンは、雷雨の日に凧を上げ、雷が電気であることを証明した人であり、アメリカ独立宣言の起草委員であり、アメリカ独立戦争中は外交で活躍し、現在は、100ドル紙幣の肖像の人です。
 本書には、ベンジャミン・フランクリンの文章独学法が書いてあります。
 フランクリンは、あるイギリスの雑誌の文章の筆者と同じくらいの文章をかけるようになりたいと思ったそうです。そこで、文章の内容を思い出せる程度に最低限メモし、雑誌と同じくらい質の高い文章を書くことを目指し、書いた後に元の記事と照らし合わせ、必要があれな自分の記事に修正を加える、という方法を採ったそうです。まさに、「限界的練習」を文章力に応用したわけですね。
 普通の学生であれば、中学国文法の参考書の例文→小学校の教科書レベルの文章→中学校の教科書レベルの文章→自分の好きな作家の文章、などと、限界を少し超える負荷を自分にかけ続け、フランクリンのように超一流への努力をすれば、確実に文章力は上がるでしょう。
 東大・医学部受験の英作文も同じです。中学文法の例文→高校文法基礎、高校英作文基礎レベルの英文→受験標準レベルの英文→東大・医学部レベルの英文と、限界を少し超える負荷を自分にかけ続け、日本語を見て英文を書けるようにし、超一流への努力をすれば、確実に英作文の実力は向上するはずです。
 ちなみに、本書によると、フランクリンはチェスが大好きで、文章よりもチェスに多くの時間を掛けたそうですが、チェスはそれほど上達しなかったそうです。本書では、それは、チェスについては、限界を少し超える負荷を自分にかけ続ける「限界的練習」をせず、自分の実力の範囲にとどまっていたからだろう、としています。将棋や囲碁を上達したい人は、現在の自分より少しだけ上のレベルの問題集を買ってきて(ただ、現在の自分までのレベルの本にも意外と抜けは多いと思う)、問題を解けるようにする、限界を少し超える負荷を自分にかけ続ける「限界的練習」をすることが、超一流への努力だと思います。

 

創造性も限界的練習から生まれる

 創造性、クリエイティビティが話題になることが多いです。創造性はどうすれば育めるのでしょうか?
 『超一流になるのは才能か努力か?』では、創造性も限界的練習の結果だとします。
 ピカソも、初期は、古典的な作風だった。その上で、さまざまな芸術的スタイルを探求した。つまり、限界を少し超える負荷を自分にかけようとした、「限界的練習」をした、超一流への努力をした、ということですね。
 ノーベル賞受賞者は、誰よりも多く論文を書いている。これも、限界を少し超える負荷を自分にかけようとした、「限界的練習」をした、超一流への努力をしたということですね。
 最先端に到達した人が、限界を少し超える負荷を自分にかけようとした、限界的練習によって、超一流への努力をし続けた結果が、創造性なのでしょう。

 

こういう人は『超一流になるのは才能か努力か?』を読むべき

 勉強、スポーツ、楽器、などなど、なんでも、上達したい人。先述のように、アイスにもキャンディーにもなれる、「カルピスの原液」のような本。

 

『超一流になるのは才能か努力か?』の目次

序.絶対音感は生まれつきのものか?
1.コンフォート・ゾーンから飛び出す「限界的練習」
2.脳の適応性を引き出す
3.心的イメージを磨きあげる
4.能力の差はどうやって生まれるのか?
5.なぜ経験は役に立たないのか?
6.苦しい練習を続けるテクニック
7.超一流になる子供の条件
8.「生まれながらの天才」はいるのか?
終.人生の可能性を切り拓く

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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大学受験塾チーム番町オススメ 勉強法の本5選:科学的根拠に基づき脳を鍛える

 

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受験脳の作り方(新潮文庫、池谷裕二)

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 東大で脳科学を研究している池谷裕二教授の著書です。巻末に引用した論文などが載っている、ちゃんとした本です。

 大命題として、本書にある「脳は生きるのに不可欠な情報以外は忘れる」というものを掲げたいと思います。勉強した内容を忘れる、いや、ある内容を勉強したこと自体を忘れるので、大学受験の成績が上がらない人が多いのです。
 すると、大学受験の勉強のコツは、いかに、脳に「生きるのに不可欠」と判断させるか、ということになりそうです。
 本書に「くり返しが大切」とあるように、くり返しの回数を多く取れば、脳は「生きるのに不可欠」と判断するでしょう。これに関し、有名な「エビングハウスの忘却曲線」が紹介されています。
 また、本書には「脳は出力を重要視する」ともあります。インプットの目的としてアウトプットを行うと、脳が「こんなに使う大切な情報なのか」と判断しやすい、ということのようです。
 そして、下記の『超一流になるのは才能か努力か』の「限界的練習」とも通じますが、少しずつ難度を上げたほうが、遅いようで速いという「スモールステップの法則」(段差の小さい階段を登り続ける)も紹介されています。たとえば、東大入試の数学で合格点を取ろうと思った場合でも、まずは、教科書の解説を理解するところから、一歩一歩、階段を登っていくのです。

勉強法の基本(当塾のサイト)

 

超一流になるのは才能か努力か?(文藝春秋)

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 フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授の著書です。巻末に引用した論文、文献などがたくさん載っている、ちゃんとした本です。アンダース・エリクソン教授の研究は、他の多くの本で引用されています。『GRIT やり抜く力』のアンジェラ・ダックワース教授とも共同研究をしていて、その内容が『GRIT やり抜く力』でも述べられます。

 物事の上達のメカニズムは、脳に神経回路が構築されること。そして脳は、かつて考えられれていたよりも、はるかに成長させることができることが、明らかになっています。
 そのために、限界を少し超える負荷を自分にかけ続けることが有効だ、ということが述べられます。本書では「限界的練習」と訳されています。
たとえば、大学受験数学だと、「教科書→Focus Gold(啓林館)→入試で合否を分けるレベルの問題演習」といった段階を踏む、といったことでしょう。そして、これは、大学受験のあらゆる科目に応用できます。

 大学受験生の間では「参考書を何周」という表現が聞かれます。復習の重要性が浸透してきたのは良いことです。一方、本書では、音楽の先生と練習しても上達しない生徒の架空の会話が紹介されます。生徒は練習したのは10回か20回だが、ただ弾いただけ、と話します。
 できている問題は、そんなにくり返さなくてもいいです。逆に、できていない問題は、次の日も復習しなくてはいけません。「何周」という勉強は、あまり効率は良くないのだと思います。できていない問題にチェックをつけ、ひたすら復習してできるようにする、といった取り組みが大切だと思います。
 これが「目的のある努力」です。

塾長による書評

 

成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール(日本経済新聞出版)

 著者は、大学の先生ではありませんが、全員、アメリカの学校の先生の経験者で、その後、他の教育関係の職に移った方もいます。現場の専門家と言えます。
 著者の面々も、引用している文献も、科学的根拠(エビデンス)という面では薄弱ですが、当塾のブログで挙げているような、大学での研究に基づいた本の実践編と捉えることができるような内容ですし、「まあ、そうだよね」ということも多いです。
 本書では、効果的な練習方法を紹介しています。練習の質を向上させるための実践的な方法が述べられています。

 「パレートの法則」と呼ばれる法則があります。パレートという経済学者が「世界の富の80%は上位20%の人に偏在している」といったことを言いました。これは、他の様々な現象に当てはまります。大学受験の勉強についても、おおよそ「重要なほうから20%をこなせば、全体の80%が済んでいる」と言えます。
 「無意識にできるようになるまで徹底する」は、上記の池谷裕二教授の「スモールステップの法則」やアンダース・エリクソン教授の「限界的練習」に通じると思います。大学受験でも、簡単なことを、無意識にできるようになるまで徹底すると、そのことに脳のワーキングメモリを使わなくなるので、より高度なことに脳のワーキングメモリを割き、できるようになる、ということだと思います。
 「実践練習ではなく反復練習でこそ上達する」も同様です。大学受験でも、難しいことを要素に分割して(困難は分割せよ)、1つ1つを「無意識にできるようになるまで徹底する」ことにより、驚くほど高度なことができるようになるのだと思います。
 「手本をそのまままねさせる」は、個別指導塾の数学の授業で、教科書やFocus Gold(啓林館)を使って、「例題の解説」→「生徒が数値が違う程度の類題を解く」ことにより、東大レベルにまで連れていけることなどから、有効な練習の法則と考えます。
 さて、塾で行われている「フィードバック」は、どの程度のものでしょうか。ある時、ある有名予備校が、スタッフが、生徒のタブレット上の成績表を見ながらコメントをしているCMを流していました。この予備校としては、面倒見の良さをアピールしたのでしょうが、塾長は「ふわふわしてんなあ」と思いました。大学受験塾チーム番町では、模試を受けたら、一問一問検討し、「この教材のこのページに載っているからできるよね」といった反省をしています。

塾長による書評

 

運の方程式 チャンスを引き寄せ結果に結びつける科学的な方法(アスコム)

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 著者は鈴木祐さんという、論文マニアの方です。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業。出版社勤務を経て独立されたそうです。近年、大学などの研究論文、エビデンスに基づいた書籍を何冊も出しています。

 本書には、2021年にウィスコンシン大学などで行われた、天才に特有のパーソナリティを調べる研究が載っています。この調査で、「天才」とは、数学や語学といった学問の成績に加え、斬新なアートを生む想像力、他者をまとめるリーダーシップ、哲学的な思考の深さなど、あらゆる知的ジャンルで突出した存在、と定義しています。もちろん、大学受験で突出する能力も含まれますね。
 結論は、「好奇心の有無」でした。
 上記の池谷裕二教授によると、「脳は生きるのに不可欠な情報以外は忘れる」のでしたね。好奇心の薄い人にとって、大学受験の勉強は、「生きるのに不可欠」でない情報となってしまっているはずなのです。好奇心を高めることも、大学受験の成績を上げる上で、有効な手段なのではないかと思います。
 本書には、南メソジスト大学の実験によると、アクションリストから選んだいくつかのミッションを実行することにより、4ヶ月ほどで好奇心が高まったことが書かれています。たとえば

・最新の科学的発見や技術に関するニュース番組を読む
・いままで見たことがない新しい映画を見る

といったものです。アクションリストは、おおむね、今まで自分がやったことがないことを、やってみよう、といった内容のものが多いです。
 ぜひ、好奇心を高め、大学受験の勉強を「生きるのに不可欠」な情報にして、成績を上げ、大学受験に成功しましょう!

塾長による書評

 

勉強の哲学 来たるべきバカのために(文藝春秋、千葉雅也)

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 著者の千葉雅也先生は立命館大学の准教授(その後教授になりました)です。東大卒。フランスにも留学し、哲学、表象文化論を専攻され、フランス現代思想の研究と美術、文学、ファッションなどの批評を連関して行っているそうです。他に『現代思想入門』(講談社現代新書)などの著書があります。
 本書は、東大、京大でも売れたそうです。一言で言えば、自己啓発と自己破壊の間で揺れ動く、普遍的な「勉強」の問いを提示してくれる作品です。

 千葉雅也先生は「勉強とは自己破壊である」とおっしゃいます。
 環境の中で「こうするもんだ」という「ノリ」に合わせていた「ただのバカ」から、別の考え方=言い方をする環境へ引っ越し、「来たるべきバカ」になることであると。「ノリが悪い」「キモい」「周囲から浮いている」人だと思われるほどに語れるようにする。本書では、そうなることが「勉強」だとしています。
 いやあ、レベルが高い「勉強」ですね。周囲から浮いて、変なやつだと思われる覚悟が必要ですね。勉強とは恐ろしいものですね。

 『メイキング・オブ・勉強の哲学』のほうでは「勉強しなさい」という言葉について、少し語られています。世間一般の「勉強しなさい」は、「そこそこ稼ぎのある勤め人になってくれればいい」という程度であって、逆に、深くものを考えてヤバいこというやつになっちゃ困ると思っている、としています。勉強は恐ろしいことであると。さて、それでも、世間の保護者は子供に「勉強しなさい」という勇気があるでしょうか?

 さて、世の中には、様々な教育、勉強法の本が存在します。
 お子さん4人を東大理Ⅲに「入れた」ママの教育論。東大法学部卒、元財務官僚で現在は弁護士の「7回読み勉強法」。などなど。
 大学受験生、保護者は、何を信じればいいのでしょうか?
 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、「信頼に値する他者は、粘り強く比較を続けている人である」「「勉強するにあたって信頼すべき他者は、勉強を続けている他者である」とします。つまり、その人たちは、「研究」「学問」に属している人、ということになります。
 つまり、勉強の足場とすべきは「ネット」や「一般書」ではなく、「専門書」「研究書」であるとします。「専門書」「研究書」は、専門分野の業界や学問の世界に直接・間接の関わりがあり、同種のテーマに関する他者との建設的な議論が背景にあるから信頼性の根拠がある、とのことです。
 したがって、大学受験生が教育論や勉強法について、信頼すべきは、大学の研究に基づく本ということになります。
 大学受験塾チーム番町では、教育論、勉強法について、上記のように、なるべく、大学の研究に基づく本、または、それに準ずるサンプル数のある本、をおすすめしています。
 また、大学受験塾チーム番町では、数学、物理、化学の授業で、一番基本の部分の理解に検定教科書を使います。その理由の1つに「共著であり、文科省の検定を通っている」があります。著者の言う「信頼性の根拠」に近いのだと思います。
 トップレベルの中学、高校に合格した人が、高校や大学受験の数学や理科で挫折する、というのは非常に多い話です。塾長は、この原因の1つは、検定教科書を軽視し、「信頼性の根拠」に欠ける場所に学習の足場を置いたため、教科書に書いているような「なぜそうなる」という理解をせずに、問題の解き方だけを覚えるような悪いクセが身についてしまうからではないかと思います。

塾長による書評

 

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

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【レビュー】運の方程式(アスコム):天才と凡人を分けるのは好奇心!?大学受験に活かす

 

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

 

【レビュー】運の方程式 チャンスを引き寄せ結果に結びつける科学的な方法(アスコム):天才と凡人を分けるのは好奇心!?大学受験に活かす

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『運の方程式』の著者

 鈴木祐さんという、論文マニアの方です。1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業。出版社勤務を経て独立されたそうです。近年、大学などの研究論文、エビデンスに基づいた書籍を何冊も出しています。例えば

・ヤバい集中力(SBクリエイティブ)
 集中力があれば受験も有利になりますね。

・超ストレス解消法(鉄人社)
 受験にストレスはつきものですよね。

・最高の体調(インプレス)
 体調が良ければ受験も有利になりますね。

・無 最高の状態(インプレス)
 不安がなければ受験も有利になりますね。

といった、受験生にも役立つようなものも多いです。

 

『運の方程式』の内容、感想、書評

 2023年2月第1刷。
 本書は、大学などの研究に基づいて作った方程式により、運を高め、人生で成功しようという趣旨の本です。当塾は大学受験塾なので、とりあえず、大学受験で成功するという観点から、紹介します。

 

天才と凡人を分けるのは好奇心!?天才のほうが東大、医学部受験に有利ですよね

 本書には、2021年にウィスコンシン大学などで行われた、天才に特有のパーソナリティを調べる研究が載っています。この調査で、「天才」とは、数学や語学といった学問の成績に加え、斬新なアートを生む想像力、他者をまとめるリーダーシップ、哲学的な思考の深さなど、あらゆる知的ジャンルで突出した存在、と定義しています。もちろん、大学受験で突出する能力も含まれますね。
 結論は、「好奇心の有無」でした。
 本書では、世界的な物理学の教科書『ファインマン物理学』でも有名な、ノーベル物理学賞受賞者、ファインマン先生が、いかに好奇心あふれる人物だったかのエピソードが載っています。

 天才と凡人を分けるのが好奇心の有無、というのは、塾長は、よくわかる気がします。
 塾長は、自分を天才だとは思っていませんが、たとえば、当塾のパソコンは、塾長が秋葉原でパーツを買ってきて、組み立てたものです。ノートパソコンで何も困らないにも関わらず。なぜか、作ってみたかったのです。好奇心でしょうね。
 また、塾長は、夏休みや冬休みに、受験生と一緒に、長時間、塾にいなければならない時、SHARPのヘルシオホットクックを使って、自炊をしていました。普通の塾の先生なら、コンビニ弁当あたりで済ませるのではないでしょうか。この件については、まず、ヘルシオホットクックという、最新の調理器具を使ってみたかった、という好奇心が1つ。もう1つは、コンビニ弁当などに比べ、野菜をたくさん摂れるので、腸内細菌に好影響があるだろうという、最先端の科学的知見(これも好奇心で得た知識です)を活かそう、といったものです。

 他の先鋭的な指導者が、好奇心について、どのように考えているかを述べます。
 まず、学術的に、好奇心は、非認知能力(ペーパーテストで測定できる認知能力に対し、ペーパーテストでは測定できないが、ペーパーテストの成績や社会的成功に大きく影響するもの)の1つです。当然、大学受験にも大きく影響するでしょう。
 東大の脳科学の池谷裕二先生は、著書『受験脳の作り方』(新潮文庫)で「生きるのに不可欠な情報以外は忘れる」と述べています。好奇心旺盛な人は、いろんなことに「生きるのに不可欠」レベルに興味を持っているので、いろんなことが脳に残りやすく、大学受験の点数も高くなりやすいでしょう。

 元灘校の英語の先生で、英語教師集団チームキムタツを率いる木村達哉先生は、著書『東大に入る子が実践する勉強の真実』(KADOKAWA)で、「勉強体質」という言葉を使っています。「勉強体質」を、「自分で楽しいことや新しいことに出会うと、調べてみようかな、知っておこうかな、という気持ちになる体質。自分のレベルをあげようという体質。」と定義しています。つまり、好奇心に近いものでしょう。
 世界陸上400mハードルで銅メダルを2回獲得された為末大さんがYouTubeチャンネル「為末大学」を開設しています。2021年9月29日に「与えすぎて弱くなるってどういうことですか?」という動画をアップしています。

 為末さんは、この動画の中で、一番の才能は「こんなことをしてみようかなと思いつく」「何を見ても好奇心がワーッと湧いてくる感覚」といったもので、これらが後天的に最も与えにくい、と語っています。「好奇心」が一番の才能だと語っていますね。
 一方、「後天的に最も与えにくい」とも語っています。実際に、進学校の下位1~2割ほどは、勉強の技術的なもの以前に、受験勉強を通して、好奇心を失ってしまった、ような場合が多いように思います。

 

塾長の経験:好奇心を失うとこうなる

 こまめに確認テストをすることをウリにしている大学受験塾があります。しかし、上手く行っているのかなあ、という疑問があります。
 1つは技術的な問題です。好奇心が普通くらいの人でも、学習内容を忘れるのは普通なので、確認テストの日に正解できても、その1ヶ月後にも正解できるかはわかりません。大学受験勉強というものは、大学受験の日に正解できなければなりません。
 もう1つ。保護者の過保護、過干渉で、好奇心を失ったであろう人が、授業のたびに、ごくごく基本的なことで引っかかったので、毎回、授業の前に同じ内容の確認テストを行ったことがあります。まあ、そのうちできるようになったので、しばらく確認テストをやめてみました。しばらくして、久しぶりに同じ確認テストを行ったところ、すっかり忘れていました。
 まあ、大学受験の成績が上がらないメカニズムというものは、技術面の前に、このような面が前提にあることが多いような気がします。

 

好奇心の高め方

 ここで朗報です。
 本書には、南メソジスト大学の実験によると、アクションリストから選んだいくつかのミッションを実行することにより、4ヶ月ほどで好奇心が高まったことが書かれています。たとえば

・最新の科学的発見や技術に関するニュース番組を読む
・いままで見たことがない新しい映画を見る

といったものです。アクションリストは、おおむね、今まで自分がやったことがないことを、やってみよう、といった内容のものが多いです。実際に本書を買うのが一番いいと思いますが、日々、新しいことにチャレンジすることを心がける、といった感じでもいいかと思います。

 では、好奇心が高まるメカニズムは何か、ということです。これは、本書では語られず、塾長の私見ですが、『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋)などで、脳の可塑性(変化できる)について語られます。好奇心が高まるのも、好奇心が高まりそうな行動を継続することにより、脳に好奇心が高まる何らかの神経回路が構築される、ということではないかと思います。

 

人間は無意識に新しいものを嫌う

 本書では、このことを「反新奇性バイアス」と呼んでいます。
 これは、教育、大学受験についても言えることです。進学校の下位層の保護者の方というのは、8割方、単に、ちゃんとした大学の研究者や現場の指導者が言っていることの逆のことをしているケースが多いです。この方々は、ほのめかしたくらいでは、行動を変えません。だからといって、伝わるように直接的に申し上げると、猛烈に怒り出したりします。まあ、要因は、たとえば、自尊心だったりもすると思いますが、「反新奇性バイアス」という面もあるのではないかと思います。
 本書では、好奇心を高めるためのアクションリストが挙げられていますが、そのような新しいことをするのが嫌いな人が、おそらく世の中には、ある割合で存在します。
 そのために、本書では、「反新奇バイアス」に陥らないための方法も紹介されています。

 

社会性を高める:大学受験の後に役立つ

 社会性を高めるアクションリストも載っていますが、大学受験とそれほど関係はなさそうなので、あまり述べません。ただ、社会性が高いほうが、大学受験に必要な情報が集まりやすい、周りから応援してもらえる、など、目には見えないが、意外に大きな影響があるのかもしれません。
 当然、社会に出てからは、運を高める方程式として、重要なスキルになります。

 

ネガティヴで大学受験を戦いにくい人へ

 ネガティヴなゆえに、大学受験を戦いにくい、という受験生も、ある割合でいるようです。また、保護者の方が、大学受験について過保護過干渉になり、親子関係が崩壊するのも、1つは、ネガティヴさ、心配性が原因でしょう。
 そのような「ネガティビティ効果」から逃れるための、「視野拡大アクションリスト」も載っています。

 

ビジネス、研究で成果を出す:大学受験の後に役立つ

 『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(三笠書房)という本があります。著者は、ペンシルベニア大学ウォートン校のアダム・グラント教授です。『ORIGINALS』では、ノーベル賞受賞者とその他の科学者を比較した調査で、ノーベル賞を受賞するような創造性を発揮するには、その分野の深い経験がもちろん必要だが、加えて、幅広い経験が必要なのではないか、と考察しています。
 本書『運の方程式』でも、「天才は幅広い実験と一点集中を交互に繰り返す」としています。おおむね、似たような趣旨でしょう。
 まあ、あまり大学受験には役に立たないかもしれませんが、ビジネスの世界に進むにせよ、研究の世界に進むにせよ、将来は、大切な考え方になるのではないかと思います。もしかすると、自分にあう大学受験の勉強法を模索する時などには、役に立つかもしれません。

 

忍耐があったほうが大学受験に有利

 忍耐力があったほうが、大学受験に有利ですよね。社会に出てからも、忍耐が合ったほうが、運が巡ってくるでしょう。
 本書には、忍耐力を高めるためのアクションリストも載っています。

 

 本書のような最先端の科学的知見を実行し、少しでも運を高め、受験を有利にしようという姿勢を持ちたいものですね。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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大学受験生にとってのGRIT、やり抜く力の重要性

 GRIT、やり抜く力とは、逆境や困難に直面しても、長期間にわたって課題や目標に取り組み続けることです。ここでは、大学受験においてGRITが重要である理由を説明します。

 

大学受験は長い戦い

 大学受験の受験勉強には、何ヶ月、何年にもわたる継続的な努力が必要です。GRITは、受験生がこの長期間に渡って集中力を維持し、準備に専念できるようにします。

 

大学受験の挫折の克服

 受験勉強の過程では、難しいテーマ、模擬試験の点数の悪さ、個人的な問題など、さまざまな問題にぶつかる可能性があります。GRITは、大学受験生が意気消沈することなく、このような障害に耐え、乗り越えるのを助けます。

 

大学受験の一貫した努力

 一生懸命勉強するだけでなく、一貫して勉強することが大切です。GRITがあれば、生徒たちは散発的に勉強するのではなく、ずっと努力と勉強を維持することができます。

 

不確実性への対処

 大学入試の傾向や形式が変わることもあります。GRITのある人は、そうした不確定要素にうまく対処し、必要に応じて戦略を変更することができます。

 

大学入試科目の習熟度を高める

 英語や数学といった大学入試科目の習得は一朝一夕にできるものではありません。一貫した努力、反復、継続的な改善が必要です。GRITは、表面的な知識ではなく、習得を目指すよう、生徒を駆り立てます。

 

大学受験生のレジリエンス(精神的回復力)を高める

 レジリエンスとGRITは密接な関係にあります。レジリエンスは大学受験生が挫折から立ち直るのに役立ちます。GRITは、大学受験生が進歩が遅く感じられたり、進歩がないように感じられたりしても、前進し続ける決意を与えてくれます。

 

大学受験生の目標の設定と達成

 GRITは、大学受験生が明確で長期的な目標(入試をクリアすることなど)を設定し、それを堅持するのを助けます。この目標志向の考え方は、厳しい受験勉強で集中力とモチベーションを維持するために極めて重要です。

 

大学受験を超えた人生

 大学受験勉強で培ったGRITは、大学や将来のキャリアにも役立ちます。高等教育や多くの専門分野では、献身的な努力、長期的なコミットメント、困難を克服する能力が求められますが、これらはすべてGRITに関連する資質です。

 

特徴的な要素

 多くの生徒が同じような知能レベルや学習素材へのアクセスを持っているかもしれませんが、GRITは差別化要因となりえます。GRITの高い大学受験生ほど、準備を怠らず、必要な勉強に打ち込む可能性が高く、大学に合格する可能性が高くなります。

 

 まとめると、大学受験で成功するためには、知識、技能、戦略が不可欠ですが、GRITは、それらの資源を効果的に活用し、望ましい結果を得るために必要な粘り強さと決意を提供します。

 

GRIT やり抜く力(ダイヤモンド社)の感想、書評

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 2016年9月8日発売。GRIT、やり抜く力、は非認知能力の1つとして、近年、注目されています。

 

『GRIT やり抜く力』の著者の実績と信頼性

 著者はペンシルベニア大学心理学部のアンジェラ・ダックワース教授です。大学での研究、調査に基く話がたくさん出てくる、ちゃんとした本です。アンジェラ・ダックワース教授の研究は、他の多くの本で引用されています。また、アンジェラ・ダックワース教授はTEDに出演し、YouTubeは1,000万回以上再生されています。
 著者の実績と信頼性は抜群だと思います。

 

やり抜く人はなぜがんばれるのか?

 『GRIT やり抜く力』は、まず、米国陸軍士官学校の話から始まります。
 入学の難しさは、最難関大学にひけを取らない。学業でも体力測定でも高得点が必要。入学を許可される1200名は、ほぼ例外なく、各学校を代表するスポーツ選手で、大半はチームのキャプテンを務めている。
 しかし、5人に1人は中退してしまうそうです。しかも中退者の大半は、入学直後の厳しい基礎訓練に耐えきれずに辞めてしまう。
 では、この基礎訓練に耐えられるのはどんな人か。これが、アンジェラ・ダックワース教授が博士課程の時の研究テーマだったそうです。
 ちなみに、入学試験の成績が最高レベルの人たちは、なぜか、最低レベルの人たちと同じくらい、中退する確率が高かったそうです。
 大切なのは、「絶対にあきらめない」という態度、困難に負けずに立ち向かう姿勢、失敗しても挫けずに努力を続ける、といったことだそうです。GRIT、やり抜く力が高かった。グリットのテストを受けるとスコアが高く、それは、入学試験の成績とは関係がなかった。

 まず感銘を受けたのは、「物事をやり抜く力」が成功に至るための中心的要素であるという考え方です。この本の中でダックワース教授が語る「GRIT」は、課題に直面した時や困難な状況に遭遇した時でも、自分の目標を追求し続けるという強い意志を示しています。 
 この本を読むことで、大学受験生の課題に対する見方が変わりました。小さな成功や短期的な成果を追求するのではなく、長期的な視点を持って取り組むことの重要性を改めて理解しました。大学受験生が目指すべきは、一時的な成功ではなく、持続可能な成功であり、それを達成するためには「GRIT」、つまり「やり抜く力」が必要不可欠であることを痛感しました。

 塾長も、いろんな生徒を見てきましたが、入塾時の成績と、進学する大学は、あまり関係がないなあ、と思っています。全く成績が足りない人でも、絶対に東大、医学部に入りたいと思っている人は入る。一方で、高校の最初は、まずまずの成績でも、保護者が過干渉だったりする場合は、だんだん成績が下がり、その高校としてはどうだろう、といった結果になっていると思います。

 

東大、医学部合格を達成するには?

 アンジェラ・ダックワース教授は、競泳選手を対象とした「一流の人達が行っている当たり前のこと」という研究論文を読んだそうです。その内容は以下のようでした。

 最高のパフォーマンスは、無数の小さなスキルや行動を積み重ねた結果として生み出される。それは本人が意識的に習得する数々のスキルや、試行錯誤するなかで見い出した方法などが、周到な訓練により叩き込まれ、習慣となり、やがて一体化したものなのだ。やっていることの一つひとつには、特別なことや超人的なところはなにもないが、それらを継続的に正しく積み重ねていくことで生じる相乗効果によって、卓越したレベルに到達できる。

 この例からは、成功のためには一つ一つの小さなスキルや行動を継続的に正しく積み重ねることが不可欠だと学びました。卓越したパフォーマンスは、日々の練習と挑戦、そして持続的な努力の積み重ねによって生み出されるのだと思いました。

 普通の公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された原田隆史先生も「段差の小さい階段を毎日登る」のが成功のコツだ、とおっしゃいます。そのためのツールが「日誌」です。その日にすべきことを書き、実際にしたかをチェックする。

 東大、医学部受験の数学で考えましょう。部分的に教科書の説明を理解している。部分的に教科書の問題を解ける。部分的にチャート式やFocus Goldの問題を解ける。これらは、大したことではありません。しかし、これらを積み重ね、小学校から高校までのすべての教科書とFocus Goldについて、説明を理解し、問題を解けると、それは東大、医学部合格レベルです。世の中の、その他大勢の人から見ると、すごいことなのだと思います。

 本書には、「やり抜く力」をはかるテストも載っています。

 

やり抜く力を育む

 

最上位の目標は?

 たとえば、アンジェラ・ダックワース教授の最上位の目標は、「子どもたちの『目標達成力』と『しなやかな強さ』を育む」ことだそうです。
 このような、最上位の目標があれば、やり抜く力は高まるでしょう。
 一方で、「医師になりたい」「NBAのバスケットボール選手になりたい」といった高い目標を持ちながら、それを実現するための、中位、下位の目標を設定することができていない人も多いようです。
 東大・医学部受験に例えましょう。最上位の目標は、大学合格かもしれませんし、その後の「医師として社会貢献する」といったものかもしれません。そのような、最上位の目標を熱望している人のほうが、やり抜く力は高いと思います。一方で、東大や医学部に合格するための勉強のしかたを知っていて、1日1日、教材をこなしていく、という中位、下位の目標がしっかりしていれば、やはり、やり抜く力は高まると思います。

 最上位の目標を持つことの重要性には感銘を受けました。自分自身の生涯の目標を明確にすることで、人生の各ステージで直面する困難を乗り越え、成功へと導く「やり抜く力」を強化することが可能になるのだと思います。

 さて、最上位の目標、人生で何を成し遂げたいのか、なんて、そう簡単に見つからないよ、という高校生の方が、多いのかもしれません。
 筆者もそのように述べています。
 そして、金メダリストなどの「やり抜く力」の鉄人たちも、ほとんどのことは「これだ」と思うまでに何年もかかっていて、さまざまなことに挑戦していた、とのことです。興味は外の世界との交流で生まれるので、外の世界と多く交流するのが良い、ということだと思います。

 どうも、近年の気鋭の学者、現場の指導者の一致した意見は、「興味、好奇心を失う原因は、親の過干渉。親のすべきことは、きっかけ、機会を与えること。子供の興味を失わせないこと」といったもののようです。
 塾長も同意見です。進学校の下位層は、学科の理解以前に、保護者の方の過干渉により、好奇心、主体性、自分の人生を生きているという感覚、といった非認知能力を失った結果、成績不振に陥っている、というケースが多いように思います。
 本書では、Amazonの創業者のジェフ・ベゾスと、お母さんのエピソードが語られています。

 

やり抜くことでやり抜く力は高まる

 アンジェラ・ダックワース教授は、『GRIT やり抜く力』で、課外活動を1年以上続けることを奨めています。実際に、何かをやり抜くことで、やり抜く力は高まる。大学受験を戦い抜く力が高まる。
 普通の公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された原田隆史先生は、「1000日間続けることを決めなさい。」と指導するそうです。たとえば、家庭での皿洗い、風呂掃除などです。それにより、原田先生の生徒は、やり抜く力が高まったのかもしれません。
 

 

成功する東大、医学部受験の法則

 『GRIT やり抜く力』の章立てと全く同じ名前の『成功する練習の法則』(日本経済新聞出版社)という名著もあります。

ここではむしろ、『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋)

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という本の内容が要約されています。『GRIT やり抜く力』の著者アンジェラ・ダックワース教授と『超一流になるのは才能か努力か?』の著者アンダース・エリクソン教授は共同研究をしており、盗作ではありません(笑)。物事の上達のメカニズムの科学的根拠が述べられています。一言でいうと、「現在の自分を少し越える負荷をかけ続け、脳に神経回路を構築する」というものです。

 

フロー体験とは?

 また、トレーニングをやり抜くために、元シカゴ大学心理学部、教育学部のチクセントミハイ教授が提唱する、物事に没頭し、喜びを感じる「フロー」という概念が紹介されます。

 

フロー体験が起きる条件は?

 チクセントミハイ教授は、著書で以下の条件を挙げています。

1.目標が明確
 チクセントミハイ教授は、最終目標も大切ではあるが、そうではなく、目の前の仕事に夢中になることだ、としています。
 ロッククライマーなら、山頂にたどりつくことではなく、落下しないための次の動作。チェスプレイヤーなら、勝つことではなく、次の一手や、読みによって戦略を立てることです。
 高校生の場合、東大や医学部に合格する、あるいは、さらにその先を見ている人もいるでしょう。それも大切ですが、まずは目の前の問題に没頭することです。

2.迅速なフィードバック
 「自分がしていることをどれくらいうまくやりこなしているかについての情報をすぐに入手できる」ことです。

 大学受験生の勉強の場合、すぐに答え合わせをすることができますね。

3.機会と能力とのバランス
 取り組んでいる物事と自分の能力のバランスがちょうどいい、ということです。
 簡単すぎると「退屈」ですし、難しすぎると「不安」「心配」といった状態になります。大学受験の勉強の場合、難しすぎても、わからなすぎるので「退屈」でしょう。
 ある研究では、85%ほど、すでに理解できている本が最もモチベーションが上がる、とのことです。かつて受験英語の神様と呼ばれた故伊藤和夫先生は「5割は知っている、3割は言われれば思い出す、2割は知らない、忘れていた」程度のレベルのときが最も学習効果が高い、といった趣旨のことをおっしゃっていたと思います。
 フロー体験うんぬんを抜きにしても、大学受験生の場合、多くは、取り組んでいる課題が簡単すぎるのではなく、難しすぎるので失敗していると思います。

4.集中の深化
 物事に没頭して、その中に深くはまり込んでいる状態です。
 たとえば、ロッククライマーが「瞑想や精神集中のようなもの」「考えなくても」「なにもしなくても」「正しいことが行われる」。エリート競輪選手が自己と自転車を「ともに作動している一台の機会のように感じる」。「努力を必要としない」といった状況です。
 東大、医学部受験の勉強も、このようでありたいですね。

5.重要なのは現在
 今、している物事に精神を集中しているので、日常の心配事が心に浮かぶ隙がない状態です。
 チェスプレイヤーなら盤上のみ。作曲家なら紙の上の符号とそれが表す音のみです。
高校生、大学受験生なら、目の前の問題のみでしょう。
 そしてそれは、現実逃避ではなく、現在の事実からの「前向きの」脱出です。

6.自分自身をコントロールしている感覚
 高校生や大学受験生なら、人に課された宿題をこなすのではなく、自分自身で選んだ勉強をする、ということでしょう。
 もちろん、どんな勉強をすればいいのか、というガイドライン、選択肢は、指導者がある程度の幅をもって提示するべきでしょう。

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人の役に立つとやり抜く力が高まる

 上で、人生の目標を見つけることの重要性を述べましたが、そうは言っても、そう簡単に人生の目標は見つからないでしょう。とりあえず、「人の役に立つ」と考えると、「やり抜く力」が強化される、とのことです。
 有名な「レンガ職人の寓話」があります。レンガ職人に「何をしているんですか?」と聞くと、
1人は「レンガを積んでいるんだよ」
1人は「教会を作っているんだよ」
1人は「歴史に残る大聖堂を作っているんだ」
と答えたという話です。
 東大・医学部受験に例えると、ただ、「化学を勉強しているんだよ」と答える人よりも、「1人でも多くの患者の命を救える医師になるために化学を勉強しているんだよ」と答える人のほうが、やり抜く力は強いでしょうね。
 利他の精神、人間教育は、受験に合格するためにも大切なのですね。

 

東大、医学部に合格できるとしなやかに考える

 マインドセットとは、心の持ちよう、といった意味です。本書では、『マインドセット「やればできる! 」の研究』(草思社)の著者、スタンフォード大学心理学教授のキャロル・S・ドゥエック先生の研究も引用しています。
 しなやかマインドセットとは、「知的能力は大きく向上させることができる」という心の持ちようです。しなやかマインドセットの人は、逆境でも粘り強くやり抜くことができる。東大・医学部受験にたとえると、成績が全く足りなくても、「勉強すればできるようになる」と考え、勉強をがんばれる、ということでしょう。大学受験塾チーム番町では、テストや模試の反省を行い、「この教材のこのページに載っているよね」と指摘し、勉強すれば東大、医学部に合格できるという考え方、しなやかマインドセットを育むよう、サポートしております。

 

東大、医学部受験をやり抜く子供を育てる科学的結論

 アンジェラ・ダックワース教授は「さらなる研究が必要だ」としつつも「賢明な子育て」の科学的結論が述べています。
 それは、「要求は厳しいが、暖かく支援し、子供の自主性を尊重する」というものです。
 塾長の経験上も、入塾時は全く成績が足りないのに、東大や医学部に合格するご家庭は、このような傾向があります。そもそも、塾に出てこないので、よくわからないのですが、まあ、そのような感じです。逆に、成績不振で保護者主導で塾の面談に連れてこられるようなご家庭は、本書に書いてあることの逆で、お子さんのほうも、やり抜く気概に欠けている、といった傾向があります。
 「賢明な育て方」診断テストもあるので、お子さんとの接し方のバランス感覚に問題意識を持っている保護者の方は、この部分だけでも、本書の値段の何倍もの価値があると思います。おおむね、上記のように、「興味、好奇心を失う原因は、親の過干渉。親のすべきことは、きっかけ、機会を与えること。子供の興味、主体性、自分の人生を生きているという感覚を失わせないこと。」といったことです。興味、好奇心を失わなければ、やり抜く力は維持されますよね。

 

 この本は、目標を設定し、それを追求するための方法論を示すだけでなく、人生の目的を見つけ、それを達成するための「GRIT」を育む方法についても教えてくれます。私たちが人生の各ステージで遭遇する困難に立ち向かう力を強化し、自分自身の目標を追求する努力を支えることで、達成感と成長の喜びを味わうことができると思います。

 『GRIT やり抜く力』は、困難な状況に直面したときに挫けず、自己の成長と成功を追求する力を高めるための手引きとして、非常に価値ある洞察を提供してくれると思います。これは自己啓発の一冊としてだけではなく、自己成長の道程を進む全ての人々にとっての貴重なガイドブックと言えるでしょう。

 私自身の人生においても、「やり抜く力」をより強化し、自分の最上位の目標を追求するために、ダックワース教授の提唱する方法を活用したいと強く感じました。この本は、自分自身の内面を見つめ直し、挑戦と成長に向けての努力を続ける上で、大いに助けとなるものでした。このような深い洞察と啓示を提供してくれた『GRIT やり抜く力』に、心から感謝します。

 

こういう人は『GRIT やり抜く力』を読むべき

・なんでも、やり抜いて、物事を達成したい人
・お子さんの教育を成功させたい保護者の方々

 

『GRIT やり抜く力』の目次

はじめに-「生まれつきの才能」は重要ではなかった!
1.「やり抜く力」の秘密
 なぜ、彼らはそこまでがんばれるのか?
2.「才能」では成功できない
 「成功する者」と「失敗する者」を分けるもの
3.努力と才能の「達成の方程式」
 一流の人がしている当たり前のこと
4.あなたには「やり抜く力」がどれだけあるか
 「情熱」と「粘り強さ」がわかるテスト
5.「やり抜く力」は伸ばせる
 自分をつくる「遺伝子と経験のミックス」
6.「興味」を結びつける
 情熱を抱き、没頭する技術
7.成功する「練習」の法則
 やってもムダな方法、やっただけ成果の出る方法
8.「目的」を見出す
 鉄人は必ず「他者」を目的にする
9.この「希望」が」背中を押す
 「もう一度立ち上がれる」考え方をつくる
10.「やり抜く力」を伸ばす効果的な方法
 科学では「賢明な子育て」の答えは出ている
11.「課外活動」を絶対にすべし
 「1年以上継続」と「進歩経験」の衝撃的な結果
12.まわりに「やり抜く力」を伸ばしてもらう
 人が大きく変わる「もっとも確実な条件」
13.最後に
 人生のマラソンで真に成功する

 

やり抜く人の9つの習慣(ディスカヴァー)の感想、書評

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 2007年6月25日初版第1刷。

 

『やり抜く人の9つの習慣』の著者の実績と信頼性

 
 著者は、コロンビア大学モチベーション・サイエンス・センター副所長のハイディ・グラント・ハルバーソン先生です。大学の研究に基づく、ちゃんとした本です。
 ハイディ・グラント・ハルバーソン先生は、他の著書には、
・やる気が上がる8つのスイッチ(ディスカヴァー)
・やってのける(大和書房)
があります。いずれも、モチベーション系の、大学の研究に基づく本ですね。
 著者の実績と信頼性は抜群と言えます。

 

『GRIT やり抜く力』と比べると?

 上で『GRIT やり抜く力』を挙げました。2冊を比べた場合、具体的に「やり抜く力」を身につけたい、という場合、『やり抜く人の9つの習慣』のほうが、実戦的でお手軽かもしれません。

 目次がほぼ本書の内容なので、目次を挙げます。

 

『やり抜く人の9つの習慣』の目次

1.目標に具体性を与える
2.目標達成への行動計画をつくる
3.目標までの距離を意識する
4.現実的楽観主義者になる
5.「成長すること」に集中する
6.「やり抜く力」を持つ
7.筋肉を鍛えるように意志力を鍛える
8.自分を追い込まない
9.「やめるべきこと」より「やるべきこと」に集中する

 

1.目標に具体性を与える

 たとえば「テストでいい点を取りたい」ではなく「テストで平均点の20点上を取りたい」といった目標を立てるほうが、やり抜く力が高まる、と思いました。

 

2.目標達成への行動計画をつくる

 そして、すべきことも具体的にする。「◯月◯日に◯◯という教材の△△~▢▢ページをできるようにする」といった計画を立てるよう、指導したほうが、やり抜く力が高まる、と思いました。

 

3.目標までの距離を意識する

 目標に向かって、向上しているのか、していないのか、他人によるか自分がでフィードバックを行う、ということです。
 大学受験塾チーム番町では、模試などで、東大や医学部の志望者に「この参考書のこのページに載っているから勉強すればできるよね」とフィードバックをしています。

 意外なことに、初心者ほど、頻繁にフィードバックすべきだと思いますが、研究によると、そうではないのだそうです。混乱を招き、かえって上達の邪魔になるからだそうです。指導者として、気をつけようと思いました。

 また、フィードバックも、これまで達成したことよりも、これからすべきことに着目したほうが、モチベーションが上がり、やり抜く力が高まる、ということです。今までこなした教材よりも、これからこなさなくてはならない教材に着目するということですね。なるほどなあ、と思いました。

 

4.現実的楽観主義者になる

 目標を達成することは簡単ではないことを自覚した上で、困難に立ち向かう自分をイメージする、ほうが、やり抜く力が高まる、ということです。
 「ポジティブシンキング」「思えば叶う」などと言われることがありますが、そういうものではなく、地に足がついた根拠が必要だということですね。
 ただ、東大や医学部に合格すると念じ続けるのではなく、ゴールから逆算し、こなさなければならない具体的な教材を示す、などの取り組みが大切なのだと思いました。

 

5.「成長すること」に集中する

 これは、やはり、ハイディ・グラント・ハルバーソン先生の著書『やる気が上がる8つのスイッチ』

やる気が上がる8つのスイッチ(ディスカヴァー)

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塾長による書評

の3本の柱の1つになっています。「能力を見せつけよう」と思うのではなく、「自分を成長させよう」と思うのが大切で、やり抜く力が高まる、ということです。「成長型」の人であれば、別に失敗しても前に進んでいればいいわけですし、人と自分を比べる必要もありませんよね。
 したがって、東大を目指す理由も、自分の能力を見せつけるためではなく、自分を成長させるためでなくてはなりません。
 

 

6.「やり抜く力」を持つ

 『やり抜く人の9つの習慣』という題の本で、その手段が「やり抜く力を持つ」とは、どういうことだ(笑)。
 本章では、スタンフォード大学心理学部のキャロル・ドゥエック教授の著書『マインドセット やればできる!の研究』(草思社)を引用しています。

マインドセット「やればできる!」の研究(草思社)

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塾長による書評

 本書では、「こちこちマインドセット」(個々人の知能はもって生まれたものとして固定されている)と「しなやかマインドセット」(能力は経験や努力を重ねることにより高めることができる)が紹介されています。様々な研究から、「しなやかマインドセット」が正しい、と証明されているようです。

 『やり抜く人の9つの習慣』では、「しなやかマインドセット」を持つことが、「やり抜く力」につながる、としています。
 受験であれば「適切な勉強により、成績は伸び、東大や医学部に合格する」と信じる(そして、それは科学的にも正しい)ことが大切なのだろうと思いました。

 

7.筋肉を鍛えるように意志力を鍛える

 意志力、やり抜く力は強くすることができるそうです。大きな挑戦でなくていいので、取り組む価値があると思うことを続けることが勧められています。
 そういえば、普通の公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された原田隆史先生は「まず1000日間続けることを決めなさい」と指導するそうです。たとえば、家庭での皿洗いです。原田先生の生徒は、それにより、意志力が高まったのかもしれませんね。

 

8.自分を追い込まない

 無理をしない、ということが書かれています。
 たとえば、誘惑と出会いやすい時間や場所を把握し、そうした状況を避けるようにする。大きな目標は1つに絞る、などが、やり抜く力を高めるコツだ、ということです。
 受験勉強ならば、自室で勉強するのではなく、外やリビングで勉強する、などがいいのだろうと思いました。

 

9.「やめるべきこと」より「やるべきこと」に集中する

 何かをやめたいときにも、そのために具体的にどんな行動をするかに集中する、ほうが、やり抜く力が高まる、ということです。これも、こうしたほうが効果が高いことが、研究で明らかになっているそうです。「夜更かししない」ではなく、「早く寝る」。「ゲームをやりすぎない」ではなく「ゲームは1時間だけする」といったようにするよう指導しようと思いました。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

 

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【感想・書評】大学受験生のレジリエンス、回復力(非認知能力の1つ)を育む本3選

 

レジリエンスとは?

 レジリエンスとは,困難で脅威を与える状況にもかかわらず,うまく適応する過程や能力,および適応の結果のことで,精神的回復力とも訳される。従来,心理学においては,個人が困難な状況や脅威にさらされる状況を長い間経験することは,なんらかの問題を生じさせるものであるという考え方が通例であった。しかし,長期間にわたる大規模な追跡調査が行なわれるようになるにつれて,悲惨な出来事を経験しているからといって,必ずしもつねに不適応状態に陥るわけではないこと,そのような経験をしていたとしてもうまく適応する人びとが少なくない割合で存在していることが明らかにされた。(最新 心理学辞典より)

 

大学受験におけるレジリエンス(回復力)の重要性

 大学受験におけるレジリエンスとは、忍耐力、適応力、挫折から立ち直る力など、多面的な資質を指します。このような試験におけるレジリエンスの重要性は、さまざまな観点から理解することができます。

 

大学入試は難しい

 入試、特に名門校の入試は非常に難しいです。試験科目に関する知識だけでなく、時間管理、ストレス管理、プレッシャーの下で批判的に考える能力も試されることが多いです。レジリエンスは、受験生がこうした試練を乗り越えるのに役立ちます。

 

競争率が高い

 多くの大学入試では、限られた席数を何千人、何万人という受験生が争います。このような厳しい競争では、挫折や失望はほとんど避けられません。レジリエンスがあれば、受験生はやる気を失うことなく、こうした困難を乗り越えることができます。

 

失敗に対処する

 すべての生徒が初めての大学受験で成功するとは限りません。レジリエンスがあれば、生徒は失敗を乗り越えられない挫折としてではなく、学習経験としてとらえることができます。チャレンジは学び、成長する機会であるという成長思考を促します。

 

健康の維持

 受験勉強は精神的にも肉体的にも疲れるものです。レジリエンスは、ストレスに対処し、燃え尽き症候群を避け、必要なときにはサポートを求めることによって、受験生が幸福を維持できるようにする役割を果たします。

 

大学入試は長きにわたる勝負

 受験勉強は、最低でも数ヶ月、数年を費やす人もいます。この間、個人的な問題、学業上の苦闘、入試の傾向の変更など、複数の困難に直面することもあります。レジリエンスがあれば、このような困難にも負けず、目標に集中し続けることができる。

 

変化への対応

 大学入試の形式、出題傾向などが変わることがあります。レジリエンスのある学生は、このような変化に素早く適応し、それに応じて準備戦略を調整することができます。

 

大学受験以外のスキル

 大学受験準備中に培われるレジリエンスは、大学受験を乗り切るために役立つだけではありません。貴重なライフスキルも身につけることができます。大学やその先で、学生は困難に直面することになりますが、レジリエンスがあれば、それらをうまく切り抜けることができます。

 

粘り強さを促す

 レジリエンスのある人は、困難に直面してもあきらめません。この特性により、困難に直面しても全力を尽くすことができ、大学合格の可能性が高まります。

 

 要するに、大学受験で成功するためには、知性、受験勉強、資源がすべて不可欠ですが、レジリエンスは、特に逆境に直面したときに、これらの要素をまとめる基礎として機能します。レジリエンスは、受験生が受験勉強の過程における障害に対処し、挫折から立ち直ることを確実にするものであり、競争試験という文脈ではかけがえのない特性なのです。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(大和書房)

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』の著者の実績と信頼性

 『スタンフォードの自分を変える教室』(大和書房)がベストセラーになった、スタンフォード大学の心理学者、ケニー・マクゴニガルさんの著書です。実験や研究の裏づけがある、ちゃんとした本です。
 実績はあり、信頼性はエビデンスに基づくものです。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』の書評、感想:ストレスはレジリエンスを高める

 題名や下記の目次のように、ストレスは力に変えることができる、役に立つ、という本です。多くの人は、ストレスというとネガティブなイメージを持つことが一般的ですが、この本はそういった一般的な見方を覆す内容となっています。私自身も、読んでいく中で、これまでのストレスに対する固定観念が揺らぎ始めました。
 そもそも、ストレスによる反応は、なにか人類の生存にプラスだったから、今生きている私達にも備わっているのでしょう。太古の昔、たとえば人類が猛獣に出会うなど身の危険を感じたとき、「心拍数が上がり、呼吸が速くなり、筋肉が緊張して、瞬時に活動を起こせるように」できる、などのメリットがあったのでしょう。この「闘争・逃走反応のおかげで命拾いをしてきた」そうです。

 一方、現代社会では、ストレスは悪であると語られ、多くの人々は、ストレスを避けるためにあらゆる手段を講じる傾向があります。たしかに、科学的には「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌され、慢性化すると免疫機能の低下、うつ病などの症状が表れる可能性があります。
 現代社会はストレスが慢性化しがちなのですね。大学受験生も、慢性的にストレスを感じていることでしょう。

 『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』によると、一時的なストレスについては私達の味方。「ストレスは良い効果がある」とマインドセット(心の持ちよう)を変えるだけで、コルチゾールの作用を抑制し、創傷の治癒を高め、免疫機能を高めるなどの働きがあるDHEAが多く分泌され、ストレスに強くなるそうです。つまり、回復力、レジリエンスを高めるということですね。
 一時的なプレッシャー、緊張、不安などには「ワクワクしてきた」などと考えるのがいいそうです。ぜひ、大学受験本番で緊張したときには、実践したいですね。

 さらに驚いたのは、ストレスの反応は「闘争・逃走反応」だけでなく、人との絆を強化する効果や、新たな学びや成長のキッカケを作る力も秘めていること。この一冊の本が、私たちの日常におけるストレスとの向き合い方を、よりポジティブに、そして健康的にするヒントを提供してくれたのです。

 この新しい視点は、ストレスとは一面的なものではなく、その多面性を理解することで、より良い日常を送るためのツールとして利用することができるのだと、深く感じました。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』まとめ

 『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』は私たちが普段感じるストレスという通常はネガティブな要素を、驚くべきことにポジティブなエネルギーへと逆転させる、つまり、レジリエンスを高める方法を明らかにしてくれる画期的な一冊です。この本は、ストレス反応の本質と、それを人間の利益に役立てる方法を紐解くことで、人生をより豊かで健康的なものにするための新しい道を示してくれます。もちろん、大学受験も有利になるでしょう。この本のページをめくるたび、ストレスの科学的な背景や、その真実の深淵を知ることができ、私たちの生活の中でのストレスの位置づけを再考させられます。

 本書を読むことで、ストレスは敵ではなく、時には私たちの最良の味方として機能することを学びます。この新しい視点は、日常生活におけるさまざまなストレスの状況をどのように受け止め、またどのように向き合っていくべきかのヒントを数多く提供してくれます。

 提案されているストレスに対する新しいアプローチを理解することは、ストレスに対処するための選択肢を増やすことができると思います。ストレスに対する受容的な態度を持ち、ストレスが人生においてポジティブな役割を果たすことができるという考え方により、ストレスを受けたときにパニックに陥ることなく、冷静に対処することができるようになると思います。

 特に印象的だったのは、ストレスの反応やそれをうまく利用する方法に関する具体的なケーススタディや研究結果の数々です。それらを通じて、私たちがストレスというものをどのように感じ取り、それにどう反応するかの心理的なメカニズムについて深く理解することができます。これにより、ストレスがもたらす肉体的・精神的な影響をよりよく知り、自らの生活に適切に取り入れることができると確信しています。

 また、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』では、ストレスに対するポジティブなアプローチが、学校や職場などの集団にも適用されることを強調しています。たとえば、学校や職場でのストレスに対処するためには、ストレスが学習や仕事の成果に寄与することを示すことが重要であり、さらには、ストレスを減らすための支援やリソースを提供することも必要だと思います。

 全体的に、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』は、ストレスについての一般的な見方を変え、より前向きなアプローチを与えてくれると思います。この本を読んで「ストレス」に対する認識が大きく変わりました。もはやストレスは避けて通れない敵ではなく、正しく理解し、適切に対処することで力に変えることが可能な存在と捉えることができると思います。ストレスを認識し、扱い、活用するためのツールを提供することにより、私たちはより健康的で幸福な人生を送ることができると感じました。ストレスを経験している人々、またはストレスに対して興味がある人々にとって、この本は非常に役立つと思います。

 これからのストレスフルな状況に対する新たな視点を得るために、ぜひこの本を手に取ってみてください。

 以下は、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』には書いていない話です。
 とはいっても、現代社会はストレスが慢性化しがちです。そんなときは、一番手軽なのは、自然に触れ合うと、副交感神経が優位になり、唾液中のコルチゾール濃度も下がるという大学の研究があります。[1]
 本物の自然ではなく、自然の映像、音だけでも、かなりの効果があるという研究があります。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』の目次

Introduction-考え方を変えれば、人生が変わる
part1 ストレスを見直す
 1.全ては思い込み
 -「ストレスは役に立つ」と思うと現実もそうなる
 2.ストレス反応を最大の味方にする
 -レジリエンスを強化する
 3.ストレスの欠如は人を不幸にする
 -忙しい人ほど満足度が高い
part2 ストレスを力に変える
 4.向き合う
 -不安は困難に対処するのに役立つ
 5.つながる
 -いたわりがレジリエンスを生む
 6.成長する
 -逆境があなたを強くする
 7.おわりに
 -新しい考え方は、ひっそりと根を下ろす

 

脳を鍛えるには運動しかない!(NHK出版)

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2009年第1刷。

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の著者の実績と信頼性

 ハーバード大学医学部准教授(現在は教授らしい)のJohn J. Ratey先生です。他にも『GO WILD 野生の体を取り戻せ! 科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス』といった著書があります。
 医学部の先生がおかしなことを言ったら、研究生命が絶たれますから、著者の実績と信頼性は絶大と言えます。

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の目次

1.革命へようこそ-運動と脳に関するケーススタディ
2.学習-脳細胞を育てよう
3.ストレス-最大の障害
4.不安-パニックを避ける
5.うつ-気分をよくする
6.注意欠陥障害-注意散漫から抜け出す
7.依存症-セルフコントロールのしくみを再生する
8.ホルモンの変化-女性の脳に及ぼす影響
9.加齢-賢く老いる
10.鍛錬-脳を作る

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の感想、書評:有酸素運動はレジリエンスを高める


 
この度、私が手に取った『脳を鍛えるには運動しかない!』は、単なる運動論の本ではなく、その根拠となる科学的なエビデンスが豊富に織り込まれています。著者は、行われたさまざまな実験や研究の結果をもとに、運動と脳の関係性を語っており、その中でも特に有酸素運動が脳に及ぼすポジティブな影響について詳しく解説しています。

 読み進める中で、私は運動時に身体で生成されるさまざまな化学物質の名称やその働き、そしてそれらが脳や心の健康にどのように影響するのかを学ぶことができました。これまで私たちが「運動は健康に良い」と感じていた理由が、これらの化学物質の働きによるものであることを知ると、ますます運動の大切さを実感することができました。

 本書の中で特に心に残ったのは、有酸素運動を行うことで学習能力が向上するという点です。大学受験も有利になるということですね。これは、運動をすることで脳の働きが活性化され、新しい情報を効率よく取り込むことができるようになるからです。また、ストレスや不安といったネガティブな感情に対しても、運動の力で克服することができるという内容も非常に興味深いものでした。

 そして、最も印象的だったのは、「レジリエンス」についての言及です。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、その状況を乗り越えるための心の強さや適応力を指す言葉です。運動をすることで、このレジリエンスが高まり、日常生活の中でのストレスや不安に立ち向かう力が増すというのは、非常に魅力的なポイントだと感じました。

 

走ることは苦しくないし、早足でもいい!

 学校時代の思い出をたどると、体育の授業は決して欠かせない時間でした。青い空の下、緑の校庭での球技や各種のアクティビティー。しかし、そんな楽しいと感じる時間でも、真剣に取り組む球技の合間の休憩や、指示を待つ時間など、実際に動いていない時間も少なくありませんでした。私たちが考える「体育の時間=運動の時間」というイメージに疑問を持つことは、あまりなかったのではないでしょうか。

 特に冬の季節、多くの学校で行われる「持久走」。冷たい空気を切り裂くように走る感覚は、一見健康的に感じられるものですが、全力で駆け抜けるその経験は、多くの生徒にとって苦しいものでした。その結果、走ること自体に対してネガティヴな感情を持つ人が増えてしまっているという現状に、私は少し心を痛めました。

 しかし、心地よい運動には、過度な負荷は必要ではありません。実際、早足のウォーキングだけでも、私たちの体には十分な効果があるのです。そして、その効果は単なる身体の健康だけに留まらず、セロトニンやBDNFといった、精神の安定や脳細胞の新生を助ける物質の生成にも繋がるのです。
 このセロトニンが生成されることで、私たちの心は安定します。ということは、困難な状況にも柔軟に対応する「レジリエンス」が高まるということです。
 また、BDNFにより脳細胞の新生が促進すれば、大学受験にも有利ですよね。

 さらに、日常の中で早足のウォーキングを習慣化してから、少しペースを上げてジョギングを取り入れる、または短時間の激しい運動をすることで、BDNFの生成が促進されるというのは驚きの事実です。 

 この、適度な運動が生み出す精神的安定や脳細胞の新生を促す力などは、驚くべき効果だと思いました。このことは、日々の生活の中で運動を取り入れるという行為が、ただの健康維持だけでなく、私たちの精神的な安定や脳の健康にまで大きな影響を与えることを示していると思いました。

 『脳を鍛えるには運動しかない!』は、読者にとって、自身の身体と脳の健康を最大限に引き出し、レジリエンスを高める一冊だと思います。多くの科学的知見に基づいて書かれているこの本は、運動が身体だけでなく、脳に対してもどのような効果をもたらすのかを深く理解するための鍵となると思います。

 総じて、運動は、健康的な脳と身体のために必要不可欠なものであることがわかりました。また、私たちは運動に取り組むことで、健康上の利益だけでなく、精神的な健康にも多くの利益をもたらすことができることを学びました。私たちが運動を取り入れるモチベーションを高め、生活に変化を加える助けにもなると思いました。

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の出版社の実績と信頼性

 『脳を鍛えるには運動しかない!』の出版社は、NHK出版です。日本放送協会(NHK)の関連会社です。NHKEテレの番組用のテキストなどが有名です。本書のような、一般書も出しています。
 NHK出版の実績と信頼性は絶大と言えます。

 

世界のエリートがやっている最高の休息法(ダイヤモンド社)

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『世界のエリートがやっている最高の休息法』の著者の実績と信頼性

 イェール大学医学部精神神経科卒業の医師の久賀谷亮先生です。日本、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、論文も多数、執筆されているのに加え、臨床医としての経験も豊富のようです。趣味はトライアスロンだそうです。
 著者の実績と信頼性は高いと思われます。

 

『世界のエリートがやっている最高の休息法』の書評、感想:マインドフルネス瞑想はレジリエンスを高める

 2016年7月発売。
 著者の久賀谷亮先生は、大学の役職は無いようですが、論文を多数執筆され、また、本書も巻末に引用した論文などがたくさん載っており、ありがちなトンデモ本ではなく、ちゃんとした本だと思います。
 そして、『世界のエリートがやっている最高の休息法』は、上記のように、科学的根拠に基づいた、難しい話になりがちです。それを、イェール大学の女性研究員とその伯父の経営するベーグル店をめぐるストーリー仕立てにして、わかりやすくしているのだと思います。(ゴーストライターは存在するかもしれないですね(笑)。) 

 日常の喧騒から時折距離を置き、自分をリセットすることの大切さを感じたことはありませんか?私たちが忙しい日常を送りつつも、心の安らぎを求めるとき、どのように自分を労って休むかは、非常に大切な課題です。そんな我々の心のオアシスとなるような指南書が、『世界のエリートがやっている最高の休息法』であります。この本は、現代の疲れた脳を労る、つまり、レジリエンスを高めるためのアドバイスが満載で、確かな科学的研究を元に、心地よい休息の方法を深掘りしています。

 初めてこの本のタイトルを目にしたとき、興味をひかれたのは私だけではないでしょう。『世界のエリートがやっている最高の休息法』というタイトルからは、トップランナーたちがどのようにして自分をリフレッシュしているのか、その秘密に迫ることができるのではないかと期待が膨らみます。そして、その期待を裏切ることなく、実際、グーグル、フェイスブック(現メタ)、といった、世界の超有名企業や、個人のエグゼクティブ、起業家が取り入れている様々な休息法が具体的に、そして分かりやすく紹介されています。

 驚かされるのは、我々が普段「休む」と感じている時間でも、脳は意外と働いているという事実。静かに部屋でぼんやりしている時間や、何も考えずに空を眺めている時間、その時の脳は実は「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という機構が動いていると指摘されています。これは、休んでいるつもりでも、実際には脳が休まっていないという意味で、その発見には驚きを隠せませんでした。

 さて、真の休息を得るための手法として、この本が提唱するのが「マインドフルネス」という瞑想法。多くのトップ企業や成功者たちが実践しているその方法は、宗教的な要素を取り除いた純粋な瞑想法で、ここという瞬間、今という時間に意識を集中させることで、真の休息を追求するものです。心の中に湧き上がるさまざまな感情や考えを静かに観察し、そのままに受け入れる。このシンプルな行為が、驚くほどのリフレッシュ感をもたらしてくれるのです。

 「マインドフルネス」は、『世界のエリートがやっている最高の休息法』では「評価や判断を加えずに、いまここの経験に対して能動的に注意を向けること」としています。いわゆる一般的な瞑想のイメージは、座禅を組んで、呼吸という「いまここの経験」に「注意を向ける」ものでしょう。

 

食事瞑想、歩行瞑想で脳を休める

 『世界のエリートがやっている最高の休息法』では「食事瞑想」という新しい形の瞑想方法を提唱しています。
 上記のように座禅を組んで、呼吸という「いまここの経験」に「注意を向ける」のではなく、「食べている感覚に注意を向ける」。食事しながらできますから、ハードルが低いですよね。ベーグルを食べるときには

薄茶色でつるっとした表面。ところどころに凹凸がある。手にとって匂いを嗅ぐ。渇いていた口の中に、少し唾液が出たことに気づいた。ベーグルを口へ運ぶ。その時の筋肉の動きは?ベーグルを噛みちぎる。噛み切られたその欠片は、どんなふうに口の中を動いているだろうか?ベーグルが構内の粘膜に触れる感覚。唾液がさらに増える感じ。当然、味も感じられる。小麦、チーズ、玉ねぎ、いつもよりそれらの味わいに注意を向けた。最後にベーグルを飲み込む。喉を通るときの感覚、胃の中に落ちていく感じ。

といったように、「食べている感覚に注意を向ける」。
 この、食べるときの感覚を詳細に感じ取り、食べていることに集中するというこの手法は、我々が日常的に行う行為に新たな意味を付与してくれると思いました

 また、『世界のエリートがやっている最高の休息法』ではハードルが高いとされていますが、「歩行瞑想」が挙げられています。マインドフルネスを歩行中に行おうというものです。歩くと言っても、そのメカニズムはとても複雑です。だから、本書では「ハードルが高い」としているのでしょう。とりあえず、「足の裏が地面に着いた、離れた」だけにひたすら集中すればいいのではないでしょうか。私達は、一日のあらゆる場面で歩きますから、歩行のメカニズムは複雑とはいえ、お気軽にできると思います。

 これらを実践することにより、レジリエンスが高まるのだと思います。

 また、近年は、以前考えられていたよりも、脳は可塑性(変化できる)を持つとされています。『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋)にも、脳の可塑性について書かれていて、現在の自分より、ほんの少し上のトレーニングを続けることにより、脳の神経回路を構築すれば、物事は効果的に上達する、といったことが書かれています。これは、大学受験生をおおいに勇気づけると思います。

 

マインドフルネス瞑想はメタ認知、自制心も高める

 『世界のエリートがやっている最高の休息法』に載っている、研究に基づいたマインドフルネスによる脳の変化を挙げます。
・尾状核(不要な情報を除いて注意を向けることに関与)
・嗅内野(心がさまようのをとめることに関与)
・内側前頭前皮質(自己認識や統制に関与)
・大脳皮質(脳の表層の最も進化した部分)
・老化による脳の萎縮に対する効果
・左海馬、後帯状皮質、小脳で灰白質の密度増加(記憶に関連)
・前頭極(メタ意識)
・感覚野と島(身体感覚への気づき)
・前帯状皮質、眼窩前頭皮質(自己や感情の調整)
・上縦束と脳梁(左右の大脳半球の交通)
 これらは、脳という驚異的な器官の可能性を証明していると思いました。

 上記のうち、「自己認識」「メタ意識」は、自分の状況を把握する、自分の理解度を把握する「メタ認知」という非認知能力の1つと言えるでしょう。また、「自己統制」は「自制心」「忍耐」といった、非認知能力でしょう。マインドフルネス瞑想により、これらの非認知能力も高まりそうだ、ということです。

 本書に書いてあることを実行することにより、本書のテーマ通り、勉強しても疲れにくい脳を構築する、つまり、レジリエンスを高めることがことができるでしょう。また、上記のように、「注意を向ける」「記憶に関連」といった能力が高まれば、当然、大学受験にもプラスに働くと思います。   
 受験生は、本書のような、最先端の科学的知見を取り入れ、受験を少しでも有利に戦うことを心がけることが大切だと思います。

 『世界のエリートがやっている最高の休息法』は、深い洞察と具体的な実践方法を兼ね備えた一冊で、読んだ全ての人々が自分自身の休息法を見直すきっかけとなるでしょう。私自身、この本を読んで得た知識を活用し、より質の高い休息を得る、レジリエンスを高めるために努力を続けるつもりです。

 

『世界のエリートがやっている最高の休息法』の目次

0.先端脳科学が注目する「脳の休め方」
1.「疲れない心」を科学的につくるには?
 ー脳科学と瞑想のあいだ
2.「疲れやすい人」の脳の習慣
 ー「いま」から目をそらさない
3.「自動操縦」が脳を疲弊させる
 ー集中力を高める方法
4.脳を洗浄する「睡眠」×「瞑想」
 ーやさしさのメッタ
5.扁桃体は抑えつけるな
 ー疲れを溜め込まない「不安解消法」
6.さよなら、モンキーマインド
 ーこうして雑念は消える
7.「怒りと疲れ」の意外な関係性」
 ー「緊急モード」の脳科学
8.レジリエンスの脳科学
 ー瞑想が「折れない心」をつくる
9.脳から身体を治す
 ー副交感神経トレーニング
10.脳には脳の休め方がある
 ー人と組織に必要な「やさしさ」

 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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大学受験の勉強法の本:成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール(日本経済新聞出版)

 

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『成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール』の感想、書評

 著者は、全員、アメリカの学校の先生の経験者で、その後、他の教育関係の職に移った方もいます。
著者の面々も、引用している文献も、科学的根拠(エビデンス)という面では薄弱ですが、当塾のブログで挙げているような、大学での研究に基づいた本の実践編と捉えることができるような内容ですし、「まあ、そうだよね」ということも多いです。
 本書では、効果的な練習方法を紹介しています。練習の質を向上させるための実践的な方法が述べられています。

ルール2 最大の価値を生む20パーセントに集中して取り組む
 パレートという経済学者が「世界の富の80%は上位20%の人に偏在している」といったことを言いました。これは、他の様々な現象に当てはまり、トレーニングについても、おおよそ「重要なほうから20%をこなせば、全体の80%が済んでいる」と言えます。
 これは、私たちがどのように効率的に練習すべきか、何に焦点を当てるべきかを示しています。練習や業務における効率性を最大化するための有益な方法だと思います。最大の価値を生む20%に集中するという視点は、わたしたちが時間と労力をより重要な課題に集中し、生産性を最大化することを可能にすると思います。

ルール3 無意識にできるようになるまで徹底する
ルール4 無意識にできるようになれば創造性が解き放たれる
 ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』では、人間の脳について、システム1(速い思考)、システム2(遅い思考)という概念を導入しています。心理学では、広く使われているようです。
 「システム1」は自動的に高速で働き、努力は全く不要か、必要であってもわずかである。自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。
たとえば、「おぞましい写真を見せられて顔をしかめる」といった本能的なものや、「2+2の答えを言う」といった反射的にまで高められた知的作業です。
 「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければ困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。たとえば「17×24を計算する」などです。
 つまり、勉強について、基本的なことを「システム1」に入れると、基本的なことに集中力を使わなくなるので、より高度なことに取り組めるようになり、創造性も解放される、ということだと思いました。
 また、近年、脳科学では「ワーキングメモリ」という考え方をします。脳を作業机の広さに例えます。簡単なことを、無意識にできるようになるまで徹底すると、そのことに脳のワーキングメモリを使わなくなるので、より高度なことに脳のワーキングメモリを割き、できるようになる、ということだと思います。
 創造性にも、適切な詰め込みは大切なのでしょうね。

ルール7 実践練習ではなく反復練習でこそ上達する
 人間の脳は、基本的に「マルチタスク」(集中力を要する複数の作業を同時に行う)ことができない、とされています。

 まずは、個々のスキルに分割し、その開発に集中することが上達の鍵だ、ということです。デカルトは『方法序説』で「困難は分割せよ」といったことを言っています。
 上記のルール3「無意識にできるようになるまで徹底する」とも関係するでしょう。
 大学受験の数学で考えると、やみくもに過去問などに取り組む前に、教科書や『チャート式』などの学校採用教材レベルにスキルを分割して、その開発をしたほうが、遅いようで早いし、到達度も高い、ということだと思います。

ルール19 手本をそのまままねさせる
 これは、新たな技術やスキルを学ぶ上での非常に効率的な方法だと思います。これにより、私たちが試みる新たなスキルの習得が、よりスムーズで効率的になると思います。
 大学受験塾チーム番町は、個別指導塾なので、たとえば数学の授業では、教科書や『Focus Gold』(啓林館)の例題を解説し、数値が違うくらいの類題を解いてもらうことができます。東大や医学部レベルへの壁を、効率的に超えることができると考えています。

ルール23 フィードバックを取り入れて練習する
 大学受験塾チーム番町は、個別指導塾なので、テストや模試の反省を通して、生徒にフィードバックすることができます。同じ間違いをくり返さないことが、実力を向上させるコツなので、フィードバックは大切だと思います。
 『成功する練習の法則』でも述べられていますが、世間では、フィードバックを与えられても、使わない人が、結構な割合でいるようです。このような人は、同じ間違いを繰り返し、停滞します。本書では、「与えられたフィードバックを使うのが当たり前で、使いたくなるような文化を創ること」が大切だと述べられています。
 フィードバックは、自己の進歩を理解し、成長を促進する上での重要な要素だと思います。それを受け入れるという行為は、私たちが自己の行動を客観的に見つめ、改善のためのアクションを起こすためのカギとなると思います。

ルール29 問題ではなく解決策を説明する
 これは私たちが困難に直面したときに、前向きな視点を保つための実践的なヒントとなると思いました。
 大学受験塾チーム番町では、志望校を下げる指導はいたしません。
学校のテストや模試を検討し、どうすれば合格点に達するか、解決策を個別指導しています。

 

 当塾は大学受験の個別指導塾なので、それに沿って書いてみました。『成功する練習の法則』で紹介されているアイデアは、どの分野においても有用であり、ビジネスやスポーツなど、あらゆる分野に適用することができると思います。この本を読むことで、自分自身の練習方法を改善し、スキルを向上させることができると思います。

 『成功する練習の法則』は、個々の能力を最大限に引き出すための戦略と方法論を豊富に提供してくれていると思います。実践的な練習方法を探している人にとって非常に役立つ本であり、私も自分自身の指導を改めて見つめ直すきっかけになりました。この本を読むことで、どのようなスキルに取り組んでいるかに関係なく、より効果的な練習方法を見つけることができると思います。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【感想・書評】ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(早川書房):大学受験に応用する

 

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

東大・医学部に合格する勉強法 基本編

 

【感想・書評】ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(早川書房):大学受験に応用する

 

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『ファスト&スロー』の著者の実績と信頼性

 著者は、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、行動経済学者のダニエル・カーネマン教授です。巻末に、引用した論文がたくさん載っている、大学での研究に基づいたちゃんとした本です。
 著者の信頼性は、絶大と言えます。

 

『ファスト&スロー』の感想、書評 

 全体として、人間の脳が犯す判断のエラー、バイアスについて述べられています。
 まあ、大学受験についても、人生の一大事と考えている割には、理性的な判断を続けられる人は非常に少なく、感情論で動いている人が多いようですね。

 慶應義塾大学薬学部入試では、2018年に本書の原書が出題されています。また、近年、大学入試の英文で、本書のテーマである「バイアス」に関する英文が増えています。

 

『ファスト&スロー』を大学受験に応用すると?

 当塾は大学受験の塾なので、本書で述べられるエラー、バイアスそのものというよりは、その原因となっている脳のシステムを、大学受験の点数を伸ばすことと関係づけて、書いてみたいと思います。

 『ファスト&スロー』では、脳の中のシステムを「システム1」「システム2」と名付けます。これは、心理学では広く使われているそうです。

「システム1」は自動的に高速で働き、努力は全く不要か、必要であってもわずかである。自分のほうからコントロールしている感覚は一切ない。
 たとえば、「おぞましい写真を見せられて顔をしかめる」といった本能的なものや、「2+2の答えを言う」といった反射的にまで高められた知的作業です。

本書で述べられるエラー、バイアスの原因は、「システム1」が先走ってしまうことです。

「システム2」は、複雑な計算など頭を使わなければ困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。
 たとえば「17×24を計算する」などです。

 「システム2」を使う作業は、集中力を使うので、瞳孔が開き、心拍数が上がります。高校生物で習うところの、交感神経優位になる、ということでしょう。これはストレスで、消耗します。また、集中力を使うので、他の作業に集中力を向けることが困難になります。

 ここで大学受験と結びつけましょう。大学受験塾チーム番町では、大学受験の数学を

教科書
 ↓
チャート式、Focus Goldなどの学校採用教材
 ↓
東大などで合否を分ける問題

と階層に分けて考えています。
 教科書の組み合わせ、応用がチャート式。チャート式をマスターするためには、教科書が「システム1」に入ってなければいけない。
 チャート式の組み合わせ、応用が東大などで合否を分ける問題。東大などで合否を分ける問題を解けるためには、チャート式が「システム1」に入ってなければいけない。
ということでしょう。

 大学受験のコツは、とにかく、基本的なことを「システム1」に入れる、集中力をほぼ使わずに反射的にできるようにする、ことだと考えます。そうすることにより、「システム2」を動員し、より難しいことに取り組むことができると考えます。

 ただし、数学や理科で大学受験で使いそうな技法を反射的にすることと、大学卒業後、創造性を発揮することは、かなり別の話だと思います。ですが、基本知識を反射的にすることにより、より高いレベルで「システム2」を動員することができる、つまり、創造性を解き放つ、という面もあると思います。

 チェスのグランドマスターは、膨大な数の「駒のパターン」を記憶している、という研究があります。つまり、大学受験でも、ある程度の「詰め込み」は必要だ、ということですね。

 この件について、本書自体の感想も書きます。
 『ファスト&スロー』の理論に基づいて、私たちの思考と行動について深く考察してみると、人間の思考と判断の仕組みについて新たな視点が得られることに驚きます。この本は私たちの心理的な動作を二つのシステム、すなわち「システム1」と「システム2」に分けて考察しています。
 この二つのシステムの存在を理解することで、自分自身の思考や判断のパターンをより深く理解することができると思います。特に、システム1による直感的な判断と、システム2による論理的な思考とがどのように絡み合って私たちの行動を形成しているかを理解することは、自己理解や自己改善の視点から見ても非常に価値のあることだと感じました。この本は、私たちが日々の生活の中でどのように判断を下し、行動を選択するかについて、非常に洞察力のある視点を提供してくれると思います。

 

まとめ

 『ファスト&スロー』で説明されている人間の思考システムの特徴は、大学受験の場面にも大いに関連するでしょう。

 大学受験の勉強では、多くの知識を効率的に習得し、試験で正確に解答することが求められます。このとき、システム2の論理的で意識的な思考を十分に働かせる必要があります。しかし、長時間の集中は難しく、知らず知らずのうちにシステム1の直感的な思考に頼ってしまいがちです。
 例えば、問題文を疎かに読んで、直感で選択肢を選んでしまうことがあります。これはシステム1の影響によるミスです。本来はシステム2を使って、問題文を注意深く読み、与えられた情報から論理的に解答を導く必要があります。
 また、受験勉強では似たタイプの問題を反復して解くことが多いため、システム1が強化されます。パターンを覚えるのは効率的ですが、応用問題や初見の問題に弱くなる恐れがあります。システム2の力を養い、未知の問題にも対応できる柔軟な思考力を身につけることが大切です。
 加えて、システム1の影響は受験者の心理面でも現れます。過去の失敗体験から「この科目は苦手だ」と直感的に決めつけたり、周囲との比較で「自分にはできない」と思い込んだりするのは、システム1の働きによるものです。システム2を意識的に用いて、客観的にデータを分析し、建設的な大学受験戦略を立てることが求められます。
 以上のように、大学受験では思考のシステム1とシステム2のバランスが重要になります。意識的にシステム2を働かせ、論理的に考える力を鍛えつつ、システム1に引きずられない冷静さも必要です。『ファスト&スロー』の知見を活かし、メタ認知力を高めることが、大学受験の勉強の質を上げることにつながるでしょう。
 ただし、システム1の直感力も決して無視できません。豊富な知識と経験に裏打ちされた直感は、素早く正確な判断を下す助けになります。理想的なのは、鍛えられたシステム1の直感と、それを補正し深める働きをするシステム2の論理性を併せ持つことです。

 『ファスト&スロー』の学びを通して、大学受験生は自らの思考を客観視し、強みと弱みを知ることができます。意識的に思考のクセを改善し、システム1とシステム2を上手く活用する方法を編み出していくことが、大学合格への近道となるはずです。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【感想・書評】東大教師が新入生にすすめる本(文春新書)

 

東大のこと、教えます(プレジデント社、小宮山宏)

 

【感想・書評】東大教師が新入生にすすめる本(文春新書):生涯に一度の輝かしい瞬間に送る祝辞

 

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『東大教師が新入生にすすめる本』の感想、書評

 東大の先生による新入生のためのブックガイドとして、雑誌『UP』(東京大学出版会)に掲載されたアンケートを再構成した本です。

1.私の読書からー印象に残っている本
2.これだけは読んでおこうー研究者の立場から
3.私がすすめる東京大学出版会の本

という3問の設問で構成されます。

 平成16年初版のもののまえがきは、ホリエモンこと堀江貴文さんのゼミの教官だった、船曳建夫先生が書かれています。船曳先生は、ベストセラー『知の技法』の編者としても有名です。
 船曳先生は、まえがきを「大学1年生という一瞬」と題しています。生涯に一度しかない輝かしい一瞬。本書は、その大学新入生に対する祝福の言葉だそうです。まあ、そのような、ありがたいものと捉えることもできますし、厳しい洗礼と捉えることもできます(笑)。

 全体的に、ご自分の専門分野の本が多く挙げられています。新入生に、今すぐ読め、ということなのか。今すすめるから後日読め、ということなのか。前者であれば、かなり厳しいものも多いです。本の難しさにも、色々あると思いますが、前提知識がないと理解できない類の本も多いだろうからです。大学受験数学に例えると、教科書レベルを理解していないと、教科書を超える、チャート式やFocus Goldを理解できませんね。そのようなことが、かなり起こりうるのではないかと。

 一方で、塾長が教養課程の時に『物理科学』という授業の担当だった物理の教授が『日本人の英語』(岩波新書、マーク・ピーターセン)を挙げていて「諦めかけていた冠詞に再び挑戦しようかと思わせてくれる本」としています。東大教授も、英語の冠詞には苦労するのだなあと。『日本人の英語』は『続・日本人の英語』とともに、他の工学系の先生も挙げています。
 また、天文学の先生が『法隆寺論』『柿本人麻呂論』『聖徳太子』といった本を挙げていることがあります。不完全な史料から史実を推定する作業は、観測で得られる不完全な少ない情報から天体で何が起こっているかを推定する作業に似ていて、参考になるそうです。東大教授の研究領域にまで達すると、いかなる分野でも、通づるものがあるのだなあ、と思いました。
 三たび物理の先生ですが、『戦争と平和』(トルストイ)、『罪と罰』(ドストエフスキー)を挙げている先生もいます。『戦争と平和』は、複数の物理の先生が挙げています。ある先生は、「要は、ある目的を離れて思考することであ」る、とおっしゃっています。よくわかりませんね(笑)。
 塾長は、司馬遼太郎さんが好きです。ある図学の先生は『竜馬がゆく』(文春文庫)を挙げています。
 小説は、全体として、ドストエフスキー、夏目漱石が挙げられることが多いです。

 2004~2008年版は、急に、『ファインマン物理学』を含め、ファインマン先生の著作が増えるような気がします。

 興味がある人、将来の専攻に考えている人は、ここで挙げられているような本を、早くから手にとってみてはいかがでしょうか。

 

『東大教師が新入生にすすめる本』とフーコー

 権力と知の関係性の観点からすれば、大学教授による新入生への本の推薦は、単なる知識の伝達ではなく、権力関係の再生産として捉えることができます。教授は、大学という制度的権威を背景に、特定の知識やテクストを「読むべきもの」として提示することで、新入生の知的な関心や思考の方向性を規定しようとしているのです。

 また、言説分析(言葉や文章がどのように社会を形作っているのかを分析する考え方)の観点からは、推薦される本のリストそのものが、一つの言説的実践として機能していると言えます。そのリストは、東京大学というエリート教育機関が重視する知識体系や価値観を体現しており、新入生に特定の「真理」を内面化(外から与えられる情報や価値観を、自分の内面に取り込み、自分のものにしていくこと)させる働きを持っています。推薦図書リストは、大学教育という規律訓練の一環として、新入生を特定の知的規範に適合させるための装置なのです。

 さらに、主体の構築という視点から見れば、推薦図書を読むことは、新入生が「東大生」としての主体性を形成する過程の一部だと言えるでしょう。推薦された本を読み、理解することは、大学の知的共同体への参入を意味します。新入生は、推薦図書を通して、東大生としての自己認識を獲得し、エリートの一員としてのアイデンティティを構築していくのです。

 ただし、フーコーの権力論からすれば、この過程は、新入生が受動的に権力に従属することを意味するわけではありません。新入生は、推薦図書を批判的に読み、自らの解釈を生み出すことで、支配的な言説に抵抗し、オルタナティブな知の可能性を切り拓くこともできるはずです。大学教育の中で、既存の知の枠組みを問い直し、新たな思考を生み出すことは、フーコーが重視した「批判」の実践だと言えるでしょう。

 また、推薦図書をめぐる言説は、東京大学という特定の制度的文脈の中で生み出されたものです。他の大学や教育機関では、異なる推薦図書リストが存在し、別の知的規範が重視されているかもしれません。フーコーの視点からすれば、これらの差異は、知の多様性と権力関係の複数性を示唆するものだと言えます。私たちは、特定の推薦図書リストを絶対視するのではなく、複数の知的伝統や価値観の並存を認め、それらの間の対話と交渉を促進していく必要があるでしょう。

 東京大学の先生達が新入生に本を推薦することは、知識の伝達であると同時に、権力関係の再生産でもあります。それは、大学教育という規律訓練の一環であり、新入生を特定の知的規範に適合させる働きを持っています。しかし、新入生は、推薦図書を批判的に読み、オルタナティブな知の可能性を探ることで、支配的な言説に抵抗することもできるはずです。

 フーコーの思想は、推薦図書をめぐる言説の背後にある権力の作用を可視化し、知の多様性と複数性を認めることの重要性を示唆しています。私たちは、特定の推薦図書リストに囚われることなく、多様な知的伝統との出会いと対話を通して、新たな思考の地平を切り拓いていかなければならないのです。大学教育の目的は、既存の知を再生産することではなく、批判的な思考力を培い、知の創造に参与する主体を育むことにあるのかもしれません。

 

『東大教師が新入生にすすめる本』とハイデガー

 ハイデガーにとって、大学とは単に専門的な知識を教授する場ではなく、学問の本質を問い、真理を探究する場でした。彼は『ドイツ大学の自己主張』の中で、大学の使命について次のように述べています。「大学の本質的な課題は、学問的認識を通じて、現存在全体を最高度の明晰性と責任とへともたらすことである」。つまり、大学教育の目的は、学生たちが自らの存在の意味を問い直し、本来的に生きることを促すことなのです。

 この観点から見るなら、先生達が新入生に本を勧めるという行為は、単なる読書案内ではなく、学問の世界への招きだと言えるでしょう。彼らは自身の研究や思索を通じて得た洞察を、本という形で学生たちに伝えようとしているのです。そこには、若い魂を導き、新たな地平を切り拓こうとする教育者の情熱が込められているはずです。

 ハイデガーはまた、学問を「現存在の根本様式」の一つと捉えました。学問とは、事象そのものに向き合い、その本質を問うことです。これは容易なことではありません。なぜなら、私たちは日常的な見方や先入観に囚われがちだからです。しかし、本を読むという行為は、そうした殻を破り、新たな視点を獲得する契機となり得ます。先生達が勧める本には、既成の枠組みを超えて、世界を根源的に捉え直す力が秘められているのです。

 もちろん、ここで重要なのは、単に本を読むことではなく、本と真摯に対話することです。ハイデガーが強調したように、言葉とは単なる記号ではなく、存在を開示する出来事です。私たちが本を読むとき、そこには著者との出会いがあります。著者の思索に耳を傾け、みずからの存在を問い直すことで、私たちは新たな地平を切り拓いていくことができるのです。

 また、先生達が新入生に本を勧めるという行為には、学問共同体の一員として迎え入れるという意味合いもあるでしょう。ハイデガーは、大学を「指導者と追随者の共同体」と呼びました。そこでは、先生と学生が共に真理を探究し、互いに切磋琢磨しながら成長していきます。新入生に本を勧めることは、彼らを学問の世界へと誘い、共に歩むことを呼びかける象徴的な行為なのです。

 ただし、ここで注意しなければならないのは、本を読むことが自己目的化してはならないということです。ハイデガーが批判したように、大学が単なる専門知識の習得の場に堕してしまっては、その本来の使命を見失ってしまいます。あくまでも大切なのは、本を通じて獲得した知見を、自分自身の生の課題として引き受けることなのです。

 そのためにも、先生達は学生たちに対して、本を批判的に読む姿勢を促す必要があるでしょう。ただ受動的に著者の意見を受け入れるのではなく、みずからの経験や思索と突き合わせながら、本と対話することが求められます。そうした能動的な読書こそが、学生たちを本来的な在り方へと導く鍵となるはずです。

 さらに言えば、先生達自身も、常に学び続ける姿勢を持つことが大切です。学問の道に終わりはありません。私たちは誰もが、みずからの無知に気づき、新たな知を求めて歩み続けなければならないのです。先生達が学生たちに示すべきは、完成された知識ではなく、真理を愛し、探究し続ける生き方なのかもしれません。

 東京大学の先生達が新入生に本を勧めるという一見些細な行為は、実はハイデガーの思想と深く響き合っています。それは単なる知識の伝達ではなく、学問の本質を問い、本来的な在り方を模索する契機なのです。先生達の推薦図書リストには、学生たちを導こうとする情熱と、共に真理を探究する友愛の精神が込められているはずです。

 新入生たちには、そうした先達からのメッセージを謙虚に受け止め、みずからの人生を問い直すことが求められます。本を媒介として、先生達との、そして先人達との対話を重ねることで、彼らは新たな地平を切り拓いていくことができるでしょう。そのとき、大学は単なる学舎ではなく、真理への愛に溢れた生きた共同体として、学生たちの魂を育んでいくはずです。

 

『東大教師が新入生にすすめる本』とデリダ

 まず、「東京大学の先生」という主体は、一枚岩ではありません。各教員は、それぞれ異なる専門分野、思想的立場、価値観を持っており、その多様性は「何冊か本を勧める」という行為にも反映されているはずです。しかし、「東京大学の先生」という集合的なアイデンティティが前面に押し出されることで、その多様性は覆い隠されてしまいます。ここには、ある種の権力の作用が見て取れるでしょう。

 また、「東京大学の新入生」という存在も、脱構築の対象となり得ます。新入生は、入学試験という制度的な選抜を経て、「東大生」というアイデンティティを付与されます。しかし、それは単なるラベルに過ぎず、新入生一人一人の個別性を捨象したものだと言えます。「東大生」という主体は、大学という制度によって構築された仮構であり、決して自明の存在ではないのです。

 さらに、「本を勧める」という行為自体も、脱構築の対象となります。本を勧めるということは、ある特定の知識やイデオロギーを推奨し、他の知識やイデオロギーを排除することでもあります。そこには、大学という権威による言説の統制が働いていると考えられます。デリダが指摘したように、テクストの意味は決して一義的に確定できるものではありません。しかし、本を勧めるという行為は、テクストの多義性を抑圧し、特定の読解を強要するものでもあるのです。

 ただし、だからと言って、本を勧めること自体が全く意味を持たないわけではありません。デリダは、「pharmakon(ファルマコン)」という概念を提示しました。「pharmakon」とは、毒にも薬にもなり得る両義的なものを指します。本を勧めるという行為も、知的な啓発の契機となる一方で、特定のイデオロギーを注入する装置にもなり得るのです。

 重要なのは、この両義性を認識し、批判的に吟味することでしょう。東京大学の先生達が本を勧めるとき、彼らは自らの権力を行使しています。しかし、その権力は絶対的なものではなく、常に脱構築の対象となり得るのです。新入生は、勧められた本を無批判に受け入れるのではなく、そこに潜む権力関係を見抜き、自らの読解を通してテクストの多義性を開いていく必要があります。

 そのとき、「東京大学の先生」と「東京大学の新入生」という主体もまた、脱構築されていくことになるでしょう。本を媒介とした対話の中で、両者の境界は揺らぎ、固定された関係性は解体されていきます。そこに生まれるのは、知の伝達ではなく、知の生成のプロセスです。

 「東京大学の先生達が、東京大学の新入生に、何冊か本を勧める」という行為は、決して一枚岩の権威から無知の学生への一方的な贈与ではありません。それは、権力と知のダイナミックな相互作用の場であり、脱構築の契機を孕んだ出来事なのです。重要なのは、その複雑さと両義性を認識し、批判的に吟味していくことでしょう。そのとき、大学という制度もまた、絶えざる脱構築のプロセスの中で更新されていくのではないでしょうか。

 

キムタツの東大に入る子が実践する勉強の真実(KADOKAWA)

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東京大学文系・理系数学 傾向と対策と勉強法

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅100m 東大卒の塾長による個別指導

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【感想・書評】東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっているシンプルな勉強法(KADOKAWA)

 

【感想・書評】東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっているシンプルな勉強法(KADOKAWA)

 

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『東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっているシンプルな勉強法』の感想、書評

2018年8月の新刊です。
東大医学部在学中に司法試験も一発合格し、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでベスト30にも入った、河野玄斗さんの本です。

塾長も、一応、プロフェッショナルとしての自覚を持って仕事をしておりますので、勉強法の本は多く読んでおり、この本には、あまり目新しいことは見られませんでした。
たとえば、帯と本文にある

「1000時間勉強して将来の年収が100万円上がる場合、勉強の時給は100万円✕40年÷1000時間=時給4万円になるよ。なんでみんなそんなに勉強しないの?」

というのも、有名な和田秀樹さんの本には書いてあります。
勉強法も当塾の、勉強法の基本のページと重複する内容も多いです。

しかし、そのことは、この本の評価を下げるものではありません。塾長が読んでいるような本を読んでいない人は、世間にはたくさんいるでしょう。そのような人が、東大医学部で、司法試験に合格して、メディアに出ている人の本ということで、この本を読んだなら、社会的にはプラスになるということです。また、今まで言い尽くされてきたようなことを徹底することが大切だ、ということも言えるでしょう。そもそも、本の題名にも「シンプルな」とあります。

 

数学を学ぶメリット?

 

問題解決能力が養われる?

 まあ、数学を学ぶと問題解決能力が養われるかもしれません。たしかに、筆者は、2023年現在、司法試験、医師国家試験に加え、公認会計士試験にも合格し、YouTuberとして活動し、予備校も作るそうです。問題解決能力は、遺憾なく発揮されていると思います。しかし、上記のいずれも、1つ1つバラせば、なにも目新しいものはありません。YouTubeの内容も、大学入試の問題を解説する、解くといった、YouTube上にいくらでも存在する内容のものが多いです。まあ、筆者自身の人生なので、好きに生きればいいと思いますが、東大医学部卒に世間が期待しているのは、今まで誰もしていないことをやり遂げる、まず、そのことを探す「問題発見能力」なのではないかと思うのです。ノーベル賞級の研究をするとかですね。

 

論理的思考力が身につく?

 塾長の経験と私見ですが、数学を勉強すると、まずまず論理的な人は、より論理的になれると思います。一方、論理的でなく、数学を、解き方丸暗記科目と履き違えてしまったような人は、脳の「丸暗記神経回路」がより強化されるだけで、論理的にはなれないと思います。数学には「丸暗記」という逃げ道があるので、論理から逃げられない、宮本算数教室のパズルあたりが良いのではないかと思います。そうすると、論理的に考える脳の神経回路が構築されるのではないでしょうか。

 

『東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっているシンプルな勉強法』の出版社の実績、信頼性

 『東大医学部在学中に司法試験も一発合格した僕のやっているシンプルな勉強法』の出版社は、KADOKAWAです。本書は、受験よりの一般書と言えます。一般書も多く出していますが、大学受験界では、共通テストの各科目の解説書である、見た目が黄色で有名な『大学入試共通テスト◯◯の点数が面白いほど取れる本』や『物理基礎・物理が面白いほどわかる本』、『坂田アキラの◯◯が面白いほどわかる本』シリーズ(黄色)、『世界一わかりやすい京大の理系数学・文系数学』(黄色)など、解説が詳しい本に定評があると思います。
 信頼性と実績は絶大だと思います。

 

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大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【書評・感想】勉強の哲学 来たるべきバカのために(文藝春秋、千葉雅也)

 

【感想・書評】勉強の哲学 来たるべきバカのために(文藝春秋、千葉雅也)

 

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『勉強の哲学 来たるべきバカのために』の著者と信頼性 

 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』の著者の千葉雅也先生は立命館大学の准教授(その後教授になりました)です。東大卒。フランスにも留学し、哲学、表象文化論を専攻され、フランス現代思想の研究と美術、文学、ファッションなどの批評を連関して行っているそうです。他に『現代思想入門』(講談社現代新書)などの著書があります。
 有名大学の教授なので、信頼性は絶大と言えます。

 

『勉強の哲学 来たるべきバカのために』の感想、書評

 本書は、東大、京大でも売れたそうです。一言で言えば、自己啓発と自己破壊の間で揺れ動く、普遍的な「勉強」の問いを提示してくれる作品です。
 大学受験生がしなければならないのは「勉強」ですね。

 

「哲学」とは

 「哲学」を辞書で引くと、「世界・人生などの根本原理を追求する学問」とあります。つまり、本書も、大学の哲学の准教授(現教授)の千葉雅也先生が、「勉強」の「根本原理を追求」しよう、という試みだと思います。

 

「勉強とは自己破壊である」を哲学する

 千葉雅也先生は「勉強とは自己破壊である」とおっしゃいます。
 環境の中で「こうするもんだ」という「ノリ」に合わせていた「ただのバカ」から、別の考え方=言い方をする環境へ引っ越し、「来たるべきバカ」になることであると。
 たとえば、大学受験塾チーム番町から800mほどの靖国神社には、大村益次郎像が立っています。「あの銅像は大村益次郎像だよね」くらいが普通の「ノリ」でしょう。
しかし、大村益次郎について勉強すると、家業は長州の村医者で、大坂適塾で蘭学を学び、塾頭として頭角を現して、宇和島藩では黒船を作り、江戸では、幕府の学問所の教授を務めるとともに、大村益次郎像から番町側に行ったあたりで「鳩居堂」という蘭学(数学、物理学、化学、オランダ語など)の塾を開いていて、長州藩にスカウトされ軍務大臣のような職務に就き、幕府の第二次長州征伐では司令官として幕府軍を押し返し、戊辰戦争では江戸城で総指揮を採った、などということがわかります。
 こんなことをベラベラと話しだしたら、「ノリが悪い」「キモい」「周囲から浮いている」人だと思われることでしょう。本書では、そうなることが「勉強」だとしています。
 いやあ、レベルが高い「勉強」ですね。周囲から浮いて、変なやつだと思われる覚悟が必要ですね。勉強とは恐ろしいものだな、と思いました。これまでの自己という概念を壊し、新たな視点や思考方法を受け入れることは極めてチャレンジングであり、安定した自己を捨て去ることでしか、真の理解や学び、つまり勉強の哲学が得られないということですね。

 デリダは、私たちが無批判に受け入れている価値観や概念を脱構築することを提唱しました。つまり、私たちが当然のものとして受け入れている「ノリ」や「常識」そのものを問い直すことが重要だと考えました。
 千葉先生の言う「ただのバカ」とは、ある特定の環境の中で支配的な価値観に無批判に順応している状態を指すと言えるでしょう。それは、デリダの言う「ロゴス中心主義」的な思考、つまり、ある特定の言説や価値観を中心に据えて、それ以外の可能性を排除してしまう思考に他なりません。
 一方、「来たるべきバカ」になるということは、そのような支配的な価値観から脱却し、新たな思考の可能性を切り拓くことを意味するのではないでしょうか。それは、デリダの言う「脱構築」の実践にほかなりません。
 ただし、ここで注意すべきは、「来たるべきバカ」もまた、一つの「ノリ」や「常識」に過ぎないということです。デリダが示唆するように、どのような価値観も絶対的なものではなく、常に脱構築の対象となり得るのです。
 したがって、真の意味での「勉強」とは、ある特定の価値観を別の価値観に置き換えることではなく、価値観そのものを常に問い直し、更新し続けることなのかもしれません。それは、「ただのバカ」から「来たるべきバカ」へ、そしてまた新たな「バカ」へと、終わりなき自己破壊と自己更新のプロセスを辿ることを意味するのです。
 そのためには、私たちは自分自身の思考の枠組みを常に疑い、問い直すことが求められます。自分が無意識のうちに前提としている「ノリ」や「常識」を脱構築し、新たな可能性に開かれていく勇気が必要なのです。
 千葉先生の言葉は、デリダの思想と共鳴しながら、私たちに「勉強」の本質的な意味を問いかけているように思えます。「勉強」とは、固定化された知識を獲得することではなく、自己を破壊し、更新し続けることなのです。

 

「勉強しなさい」を哲学する

 『メイキング・オブ・勉強の哲学』のほうでは「勉強しなさい」という言葉について、少し語られています。世間一般の「勉強しなさい」は、「そこそこ稼ぎのある勤め人になってくれればいい」という程度であって、逆に、深くものを考えてヤバいこというやつになっちゃ困ると思っている、としています。勉強は恐ろしいことであると。
 深くものを考えると、塾長のように、世の中の塾、予備校は、間違っているのではないか、という「ツッコミ」(すぐ下で述べます)、ちゃぶ台返しを始めることになります。また、そもそも現在、大学の研究や、現場の気鋭の指導者によると、「勉強しなさい」というのは、逆効果、ということになっています。子供が本書のように勉強すると、逆に親は「勉強しなさいと言うのは逆効果だということは、大学の研究なんだけど、そんな事も知らないの?そっちこそ勉強すれば?」と言われることになりますね(笑)。
 さて、それでも、世間の保護者は子供に「勉強しなさい」という勇気があるでしょうか?「勉強しなさい」と言うほうも、その発言の意味を、深掘りする、「勉強の哲学」について考える必要があると思いました。

 世間一般の保護者は、勉強とは社会の支配的な価値観に適応するための道具であり、既存の秩序を維持するためのものだと考えています。
 しかし、デリダ風に言うと、このような勉強観は、ロゴス中心主義的な思考に基づいています。それは、特定の価値観や規範を中心に据え、それ以外の可能性を排除する思考です。「そこそこ稼ぎのある勤め人」という価値観もまた、一つの構築物に過ぎないのです。
 保護者が「深くものを考えて、ヤバいこと言うやつ」を忌避するのは、その価値観が脅かされることを恐れているからだと言えるでしょう。支配的な価値観に疑問を呈し、別の可能性を探ろうとする態度は、既存の秩序を揺るがす危険性を孕んでいます。
 しかし、真の意味での勉強とは、まさにそのような危険性を引き受けること、だと思います。勉強とは、固定化された知識を受動的に吸収することではなく、既存の価値観を脱構築し、新たな思考の地平を切り拓くことだと言えるでしょう。
 その意味で、勉強は確かに「恐ろしいこと」なのかもしれません。それは、自分自身の確信や価値観を根底から揺るがし、未知の領域へと踏み出すことを要求するからです。勉強とは、自己を破壊し、更新し続ける終わりなきプロセスなのです。
 このように考えると、保護者の「勉強しなさい」という言葉は、皮肉にも、勉強の本質を見失わせる危険性を孕んでいると言えるでしょう。真の意味での勉強は、社会の支配的な価値観に適応することではなく、その価値観そのものを問い直し、脱構築することなのだと思います。
 ただし、ここで注意すべきは、「ヤバいこと言うやつ」もまた、一つの価値観に過ぎないということです。どのような立場も絶対的なものではなく、常に脱構築の対象となり得るのです。
 したがって、勉強の目的は、ある特定の立場に与することではなく、あらゆる立場を相対化し、常に新たな可能性に開かれ続けることだと言えるでしょう。それは、保護者の価値観をも、「ヤバいこと言うやつ」の価値観をも超え出る、終わりなき思考の運動なのです。
 勉強とは、安定した地盤を踏み外し、未知の領域に飛び込むことと言えるでしょう。

 

勉強の哲学におけるツッコミとは?

 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、いわゆる漫才でいう「ツッコミ」について「アイロニー」という用語を使っています。たとえば、学校へ行く、テストでいい点を取る、というのは、普通の「ノリ」でしょう。
 ここで自分にツッコミを入れます。「なぜ学校に通っているのだろう」「なぜテストでいい点を取らなければならないのだろう」。すると、「学校」とはなにか、「テストとはなにか」、「勉強とはなにか」(まさに、本書のテーマ、勉強の哲学)など、深いテーマが開けてくるはずです。
 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、「アイロニー」は「根拠を疑うこと」としています。「なぜ学校に通っているのだろう」「なぜテストでいい点を取らなければならないのだろう」なども、根拠を疑っています。また、東大を目指すなら予備校の「東大コース」に通う、医学部を目指すなら予備校の「医学部コース」に通うことは普通のことと思われがちです。しかし、「本当に東大数学なんてあるのだろうか」「本当に医学部英語なんてあるのだろうか」と根拠を疑ってみることが大切、哲学なのだと思います。

 「学校へ行く」「テストでいい点を取る」ということが「普通の『ノリ』」とされているのは、まさにそれが社会的に構築された価値観だからです。しかし、その価値観自体は自明のものではなく、常に問い直される必要があります。
 「なぜ学校に通っているのだろう」「なぜテストでいい点を取らなければならないのだろう」という問いかけは、その価値観の根拠を問う「アイロニー」の実践に他なりません。それは、一見自明に見える前提を疑い、別の可能性を探ることを意味します。
 デリダの観点からすれば、このような「アイロニー」は、単なる否定や懐疑ではなく、新たな思考の地平を切り拓く積極的な営みです。既存の価値観を脱構築することは、私たちを固定化された意味の束縛から解放し、新たな解釈と創造の可能性に開かれた場所へと導くのです。
 ただし、ここで注意すべきは、「アイロニー」もまた一つの立場に過ぎないということです。デリダが示唆するように、どのような立場も絶対的なものではなく、常に脱構築の対象となり得ます。「アイロニー」の実践者もまた、自らの立場を相対化し、問い直し続ける必要があるのです。
 したがって、真の意味での「勉強」とは、ある特定の立場に与することではなく、あらゆる立場を相対化し、常に新たな可能性に開かれ続けることだと言えるでしょう。それは、「普通の『ノリ』」をも、「アイロニー」の立場をも超え出る、終わりなき思考の運動なのです。
 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』における「アイロニー」の概念は、デリダの脱構築の思想と深く共鳴しながら、私たちに「勉強」の本質的な意味を問いかけているように思えます。「勉強」とは、固定化された価値観を受け入れることではなく、その価値観そのものを常に問い、揺るがし続けることなのです。

 

勉強の哲学におけるボケとは?

 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、いわゆる漫才でいう「ボケ」について「ユーモア」という用語を使っています。「ユーモア」とは、見方を変えること、「ノリ」を「拡張」すること。
 先述の大村益次郎についてこまごまと語るのも、「ノリ」の「拡張」ですね。逆に、靖国神社について話をしているときに、大村益次郎像の話に「縮減」して、大村益次郎についてこまごまと語りだすのは「ノリ」の「縮減」でしょう。
 「なぜ?」と問い続けることと、見方を変えて新たな視点を持つことの両方が、深い学びと理解、つまり、勉強の哲学へと繋がることを示していると思いました。

 デリダは、意味の固定化や二項対立的な思考を脱構築することを試みました。彼にとって、言語は常に不確定で、意味は絶えず差延されるものでした。したがって、ある特定の見方に固執することは、思考の可能性を狭めてしまう危険性があります。
 「ボケ」としての「ユーモア」は、まさにそのような固定化された見方を揺るがす働きを持っていると言えるでしょう。「ユーモア」とは、常識的な見方を逸脱し、別の視点から物事を捉え直すことを意味します。それは、既存の枠組みに収まらない発想の飛躍であり、新たな解釈の可能性を開く営みなのです。
 このような「ユーモア」の実践は、デリダの脱構築の戦略と重なり合うものがあります。脱構築とは、テクストに内在する矛盾や欠落を暴き出し、既存の意味の体系を揺るがすことを目指します。それは、一見自明に見える前提を疑い、別の読みの可能性を探ることに他なりません。
 「ユーモア」もまた、日常的な見方を相対化し、別の視点から世界を捉え直すことを可能にします。それは、私たちを意味の固定性から解放し、新たな思考の地平を切り拓く営みだと言えるでしょう。
 ただし、ここで注意すべきは、「ユーモア」もまた一つの見方に過ぎないということです。デリダが示唆するように、どのような見方も絶対的なものではなく、常に脱構築の対象となり得ます。「ユーモア」の実践者もまた、自らの視点を相対化し、問い直し続ける必要があるのです。
 したがって、真の意味での「勉強」とは、ある特定の見方に固執することではなく、あらゆる見方を相対化し、常に新たな可能性に開かれ続けることだと言えるでしょう。それは、常識的な見方をも、「ユーモア」の視点をも超え出る、終わりなき思考の運動なのだと思います。
 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』における「ユーモア」の概念は、デリダの脱構築の思想と共鳴しながら、私たちに「勉強」の本質的な意味を問いかけているように思えます。「勉強」とは、固定化された見方を受け入れることではなく、その見方自体を常に問い、揺るがし続けることなのだと思います。

 さて、塾長は、なぜ、大村益次郎について語りたいのでしょうか。それは、語ることが楽しいからです。「享楽」に浸っているからです。本書では、「縮減的ユーモア」は「享楽的こだわり」のために口を動かしている、とします。

 「やりたいことが見つからない」「大学の志望学部がわからない」といった人は多いと思います。そういう人は、自分は何が楽しいのか、「享楽的こだわり」を考えてみるといいのかな、と気付かされました。

 

勉強の哲学における有限化とは?

 「ツッコミ」「アイロニー」によって「なぜ?」を「追求」するにせよ、「ボケ」「ユーモア」によって「連想」を「拡張」するにせよ、上記のこのような問いは無限に深まります。
 そこで勉強の有限化は、勉強において本質的、哲学的です
 たとえば、大学受験の日本史では、「大村益次郎」と書かされたり、選択させられたりすることはあっても、大村益次郎の家業が村医者であったり、番町で「鳩居堂」という蘭学の塾を開いていたことは、まず問われないでしょう。

 デリダは、意味の無限の連鎖と差延を強調しました。彼にとって、言語は決して確定的な意味を持つことはなく、常に他の記号へと差延されていくものでした。したがって、「なぜ?」を追求することも、「連想」を拡張することも、原理的には無限に続く営みだと言えるでしょう。
 しかし同時に、デリダは現実の場面での意味の確定を全否定した、「安易なニヒリスト」と指摘されることもあります。脱構築は、意味の無限の遊びに終始するのではなく、むしろ意味の確定を可能にするための条件を問うものでもあったのです。
 この観点から見ると、勉強の有限化は、無限の思考の運動を現実の場面で実践するための不可欠な契機だと言えるでしょう。「ツッコミ」と「ボケ」を無限に続けることは、思考の可能性を開く上で重要ですが、同時にそれを有限の形に結晶させることも必要なのです。
 勉強の有限化とは、ある一定の枠組みの中で思考を展開し、その成果を他者と共有可能な形で表現することを意味します。それは、無限の思考の運動を一時的に停止し、その意味を確定する作業に他なりません。
 ただし、ここで注意すべきは、有限化された勉強の成果もまた、脱構築の対象となり得るということです。デリダが示唆するように、どのような枠組みも絶対的なものではなく、常に問い直される必要があります。有限化された勉強の成果は、新たな「ツッコミ」と「ボケ」の出発点となるのです。
 したがって、真の意味での「勉強」とは、無限の思考の運動と有限化のプロセスを絶えず往還することだと言えるでしょう。それは、「ツッコミ」と「ボケ」によって思考を深化させると同時に、その成果を有限の形で結晶化する営みなのです。
 「ツッコミ」「アイロニー」と「ボケ」「ユーモア」の無限の深まりと、勉強の有限化の必要性は、デリダの思想と共鳴しながら、私たちに「勉強」の本質的な意味を問いかけているように思えます。「勉強」とは、無限の思考の運動と有限化のプロセスを絶えず往還することなのです。

 さて、どうやって勉強を有限化するか。

 

教師は勉強の有限化の装置である

 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、教師は有限化の装置である、とします。
 たとえば、上記のように、大学受験では、大村益次郎の家業が村医者であったりすることは問われません。しかし、世の中の大学受験塾、予備校では、大学受験に出題されないことを講義することによって、受験生を引きずり込む、他者との差別化を図る、といった手法がよく行われるようです。数学や物理や化学で、必要のない大学レベルの概念を持ち出す。「東大日本史」は資料読み取り型で細かい知識は必要ないのに、私大のような知識偏重の授業を行う、など。有限化として働くどころか、受験生を「ノリ」の「拡張」の泥沼へと引きずり込んでゆくのだと思います。そして、大学合格からは遠ざかってゆく。
 大学受験塾チーム番町では、例えば、数学は、教科書を理解し、チャート式やFocus Gold(啓林館)あたりを全問解けるようにして、少し入試問題に慣れれば、東大や医学部に合格できる、と勉強を有限化しています。その根拠は、模試や過去問について実際に、「この問題はFocus Goldのこのページを理解していれば解けたよね」「この問題は解けなくても合格点に達するよね」といった検討をする、具体的事実を示すことだと考えています。
 大学受験塾の勉強に対する姿勢は、「哲学的」なのですね(笑)。

 

勉強の哲学における「信頼できる他者」とは?

 世の中には、様々な教育、勉強法の本が存在します。
 お子さん4人を東大理Ⅲに「入れた」ママの教育論。東大法学部卒、元財務官僚で現在は弁護士の「7回読み勉強法」。などなど。
 さて、学生、受験生、保護者は、何を信じればいいのでしょうか?

 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、「信頼に値する他者は、粘り強く比較を続けている人である」「「勉強するにあたって信頼すべき他者は、勉強を続けている他者である」とします。つまり、その人たちは、「研究」「学問」に属している人、ということになります。
 つまり、勉強の足場とすべきは「ネット」や「一般書」ではなく、「専門書」「研究書」であるとします。
「専門書」「研究書」は、専門分野の業界や学問の世界に直接・間接の関わりがあり、同種のテーマに関する他者との建設的な議論が背景にあるから信頼性の根拠がある、とのことです。
 したがって、教育論や勉強法について、信頼すべきは、大学の研究に基づく本ということになります。
 大学受験塾チーム番町では、教育論、勉強法について、なるべく、大学の研究に基づく本、または、それに準ずるサンプル数のある本、をおすすめしています。

大学受験塾チーム番町オススメ 教育の本5選

大学受験塾チーム番町オススメ 勉強法の本5選

 大学受験塾チーム番町では、数学、物理、化学の授業で、一番基本の部分の理解に検定教科書を使います。その理由の1つに「共著であり、文科省の検定を通っている」があります。著者の言う「信頼性の根拠」に近いのだと思います。
 教科書検定制度にも弊害はあるでしょう。しかし、現状、数学、理科の教科書は「なぜそうなる」という理解の部分がしっかり書かれていることが多いのに対し、市販や塾の教材は問題の解き方が書いてあるだけのことも多いです。

 トップレベルの中学、高校に合格した人が、高校の数学や理科で挫折する、というのは非常に多い話です。塾長は、この原因の1つは、検定教科書を軽視し、「信頼性の根拠」に欠ける場所に学習の足場を置いたため、教科書に書いているような「なぜそうなる」という理解をせずに、問題の解き方だけを覚えるような悪いクセが身についてしまうからではないかと思います。

 また、法学部に興味がある人へ経済学部に興味がある人へのページでは、予備校の先生が書いた入門書とともに、学者の先生が書いた本を紹介しています。これも、著者の言う「信頼性の根拠」に近いと思います。

 大学受験塾チーム番町は、教育論、勉強法の指導についても「哲学的」なのですね(笑)。

 本の「信頼性」を前提として、読む本をどのように比較し決めるか。著者は「享楽のこだわり」で、自分なりに、主観的に決めるとします。

 

勉強の哲学における享楽とは?

 上記「ボケ」の項で、塾長が大村益次郎について語りたいのは、楽しいから、「享楽」に浸っているから、と述べました。
 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、勉強を有限化するためには、比較を中断する必要があり、そのためには、信頼できる情報を比較する中で、自分の享楽的こだわりによって足場を定める、しかし、それを絶対化しないことが必要、とします。

 デリダは、意味の無限の連鎖と差延を強調すると同時に、現実の場面での意味の確定の必要性も認めていました。脱構築は、意味の無限の遊びに終始するのではなく、意味の確定を可能にするための条件を問うものでもあったのです。
 この観点から見ると、「比較を中断する」ことは、無限の思考の運動を一時的に停止し、意味を確定するための重要な契機だと言えるでしょう。比較を続けることは、思考の可能性を開く上で重要ですが、同時にそれを有限の形に結晶させるためには、ある地点で比較を中断する必要があります。
 ただし、ここで注意すべきは、比較の中断が恣意的なものであってはならないということです。デリダが示唆するように、意味の確定は、単なる主観的な選択ではなく、一定の条件の下で行われる必要があります。
 『勉強の哲学』で提示されている「信頼できる情報を比較する中で、自分の享楽的こだわりによって足場を定める」という方法は、まさにこの点を捉えていると言えるでしょう。信頼できる情報を比較することは、主観的な恣意性を排除するための重要な条件です。そのうえで、自分の享楽的こだわりに基づいて足場を定めることは、意味の確定を可能にする実存的な決断なのです。
 しかし同時に、『勉強の哲学』は、その足場を「絶対化しない」ことの重要性も指摘しています。これもまた、デリダの思想と深く共鳴するものがあります。デリダにとって、どのような意味の確定も、絶対的なものではなく、常に脱構築の対象となり得るものでした。
 したがって、真の意味での「勉強」とは、比較の中断と意味の確定を繰り返しながら、同時にその確定された意味を常に問い直し続けることだと言えるでしょう。それは、信頼できる情報を比較し、自分の享楽的こだわりに基づいて足場を定めると同時に、その足場を絶対化することなく、新たな思考の可能性に開かれ続ける営みなのだと思います。
 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』で提示されている勉強の有限化の方法は、デリダの脱構築の思想と共鳴しながら、私たちに「勉強」の本質的な意味を問いかけているように思えます。「勉強」とは、無限の思考の運動と有限化のプロセスを絶えず往還しながら、確定された意味を常に問い直し続けることなのだと思います。

 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』では、「享楽のこだわり」は自分のバカの部分で、おそらく変化可能である。自分の根っこ(哲学的な部分)のバカさを変化させる。そのために、欲望年表をつくり、発端にある出来事と出会い直そうとする。別のしかたでバカになり直す。ことを勧めています。
 これが「来たるべきバカ」だそうです。
 「来たるべきバカ」という概念は、自己変革のプロセスを象徴しています。自分自身の「バカさ」を認識し、それを変化させていくことで、新たな自己として生まれ変わることを勧めています。これは、自己成長、勉強の絶え間ない旅であり、その中で常に変わり続けることの美しさを示しています。
 先述した、「やりたいことが見つからない」「大学の志望学部がわからない」といった人にも「欲望年表」は有効なのかもしれないな、と思いました。

 

勉強の哲学についての塾長の私見

 著者は「勉強→引っ越し」という順番で考えているようです。もちろんそれもいいと思います。
 一方で、逆に、「先に引っ越して、勉強のきっかけを得る」という考え方も、たとえば大学受験において、本質的、哲学的ではないかと思います。

 たとえば、東大に20~30人受かる高校と、東大に2~3人ほど受かる高校があったとしましょう。
 高校の授業が教科書とやや上(数学ならチャート式レベル)を扱うという点では、そう変わらないのではないでしょうか。現実に、東大に20~30人受かる高校の下位層より、東大に2~3人受かる高校の上位層のほうが進学実績はいいでしょう。
 ただ、上位層だけを比べるとき、おそらく「環境のノリ」の差が大きいと思います。日常会話の知的レベルも若干違うでしょう。また、中学、高校入試の時点で「何が何でも○○中・高」と思ったか否かの「ノリ」も差を分けるような気がします。
 なるべく大学進学実績のいい高校に入るメリットの1つは、「環境のノリ」にあると思います。

 行動遺伝学によると、能力は遺伝要因が5割ほど、環境5割ほどだそうです。家庭や学校の「環境のノリ」は大きそうです。家庭や学校で日常的に知的な会話が行われる、東大に入るのはアタリマエ、などの環境があれば、大学受験もうまくいきやすいでしょう。

 高校生は普通、家庭を「引っ越し」ませんから、「引っ越す」きっかけは、中学入試、高校入試、だったでしょう。もちろん、これから迎える大学受験も「引っ越す」きっかけでしょう。
 そして、引っ越した先の「ノリ」に合わせるには「勉強」が必要になりますね。

 題名にもあるように、『勉強の哲学 来たるべきバカのために』の背景には哲学があります。倫理の教科書を読んでいると、少し読みやすいかもしれません。

 

『勉強の哲学 来たるべきバカのために』の出版社の実績、信頼性

 『勉強の哲学 来たるべきバカのために』の出版社は文藝春秋です。雑誌「文藝春秋」は、文学、政治、社会問題など幅広い分野の記事が掲載されている総合雑誌です。また、芥川賞・直木賞の最新情報も掲載されています。「文春文庫」は、たとえば、司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』『坂の上の雲』『翔ぶが如く』など、ベストセラーやNHK大河ドラマ化、スペシャルドラマ化された作品が文庫化されています。
 「文藝春秋」「文春文庫」の実績、信頼性は抜群と言えます。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅100m 東大卒の塾長による個別指導

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