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【感想・書評】花神(司馬遼太郎、新潮文庫) :村医者、塾の先生、大村益次郎の生涯

 

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

靖国神社に大村益次郎像があるのはなぜ?

大学受験合格への鍵:大村益次郎が示す「戦術」と「戦略」の違い

番町と幕末のSTEM教育

 

花神(司馬遼太郎、新潮文庫) :村医者、塾の先生、大村益次郎の生涯

 

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『花神』の感想、書評

 『花神』は、大学受験塾チーム番町から800mの靖国神社(千代田区九段)に銅像が立っていて、そこから番町方面に行ったところで「鳩居堂」という蘭学の塾も開いていた、大村益次郎という人を描いた小説です。1977年、NHK大河ドラマにもなっています。

 

村医者から大坂適塾塾頭へ

 村田蔵六(後の大村益次郎)の家業は長州の村医者でした。大学受験塾チーム番町は、医学部受験も対象としています。
 長州から大坂へ向かう船中、同行者に「あんたは撃剣の心得があるか」と聞かれ「刀の抜き方も知らん」と答えています。これは、後年、第二次長州征伐で幕府軍を迎え撃つ時に、戦国さながらの装備でやってきた幕府軍を押し返す、また、戦国さながらの戦いをしようとした長州軍を叱ることの伏線ですね。大村益次郎は、オランダ語で読んだ兵書の戦法と最先端の銃という、日本史上前代未聞、最先端の戦い方で、幕府軍を押し返します。受験もこう戦いたいですね。

 蔵六は、適塾の教授法や課業の合理性に魅力を覚えます。合理性。これが、蔵六を大村益次郎として歴史の表舞台に登場せしめたものであり、また、襲撃による死という、表舞台から退場せしめたものでもありました。

 適塾では、成績順に、良い畳の場所に移動できます。蔵六は適塾の塾頭になりました。大学受験塾チーム番町のみなさんにも、がんばってほしいものです。ただ、成績を公にすることは、良いことなのでしょうか。競争心を煽る反面、生徒が過度な圧力を感じ、成績が低い生徒は、自信をなくし、学習意欲の低下や精神的なストレスを抱えるリスクがあるようにも思います。適塾のような塾だから、可能だったのであり、塾を主宰している者としては、考えさせられます。

 

帰郷、村医者へ

 蔵六は、父の願いにより、長州の故郷に帰ります。
 蔵六の父は、葛根湯の使いすぎで評判が悪かったのですが、蔵六は、葛根湯を使わなかったので、頼りなく思われました。少々の風邪の患者が来ても「部屋を暖かくして3日ばかり寝ていなさい」「あなた程度の風邪をなおせるような薬は世界中にありません」と言う。これは、現代の医療でもそうで、多くの患者は、薬をもらわないと不安でしょう。1978年版ドラマ『白い巨塔』の里見脩二の兄も、そういう医師だったと思います。個々の医者の治療法がどのように患者や同僚から受け止められるか、そしてそれが医者の評判にどのように影響するかというテーマを掘り下げるための舞台となっており、読者に多くの思索を促すと思います。
 蔵六の父は、このような機微は理解していて「薬は効こうが効くまいが、患者の不安を鎮める」と言いますが、超合理主義者の蔵六はそのようなことができません。これも、合理主義者としての歴史舞台への登場と退場の伏線でしょうね。
 また、蔵六の、患者の自然治癒力を信じ、体を休めることで回復を促すという、医療の本質に対する深い理解と、患者の健康を第一に考える誠実さを反映していると思います。

 

宇和島で黒船を作る

 宇和島藩主伊達宗城(伊達政宗の長男を始祖とする分家)は、黒船を作ってやろうと思い、藩の科学技術を宰領する人物を探しました。そこで推薦されたのが村田蔵六です。「上医は国の病を治す」とは、三国志演義などにも出てくる言葉です。蔵六は家業の村医者を辞め、宇和島藩に出仕します。
 そして、伊達宗城に、蒸気で動く軍艦と西洋式砲台を作るよう、命じられます。大坂適塾の塾頭としての学力を見込まれたのでしょう。作ってしまうだけの勉強をしていた蔵六も蔵六ですね。伝統的な武家社会と新しい技術革新との緊張の場面と言えると思います。
 ここで、提灯貼りの嘉蔵という町人とタッグを組むのも、後に武士の世を終わらせる伏線でしょう。技術革新が社会構造にどのような変化をもたらすかを物語っていると思います。
 また、嘉蔵は走る箱車を作り、まず、宇和島藩の家老を驚かせます。これも、蔵六がのちに、思想ではなく技術で歴史を転回させることの伏線でしょう。
 結局、蒸気船はできます。試乗で平素沈鬱な家老が「村田、進んでいるではないか」とはしゃぎ、蔵六は「進むのはあたりまえです」「あたり前のところまで持ってゆくのが技術というものです」と家老をむっとさせます。度々出てくる、蔵六の超合理主義性、空気の読めなさです。
 この頃、蔵六は、シーボルトの娘、イネにオランダ語を教えます。蔵六は「あなたはグランマチカ(文法)をばかになさるからこの程度のことが読めないのです。」と言います。
 現在の英語教育でも、「構文派」と「多読派」の不毛な対立が見られます。合理主義者の蔵六は「構文派」。現在でも、東大卒や京大卒など、きちんと数学のある入試を突破した指導者は「構文派」が多いですね。そして、やや感情的に描かれるイネは「構文軽視派」。
 受験英語の神様と言われた伊藤和夫先生は、何十年も前から「理屈半分、慣れ半分」と両方の重要性を説いています。塾長もそれでいいと思います。

 

番町で塾の先生になる

 蔵六は、伊達宗城の参勤交代に伴い、江戸に出てきます。
 蔵六は、新道一番町、現在の大村益次郎像(千代田区九段、靖国神社)から番町側に南下したあたりで、「鳩居堂」という塾を開きます。オランダ語、物理学、生理学、医学、兵学を教えていたようです。兵学?蔵六は村医者で、実戦経験はありません。しかし、この、オランダ語の本を読んで学んだ兵学で、後年、幕府の第二次長州征伐を押し返し、戊辰戦争を早期終結へと導くことになります。
 「机上の空論」という言葉がありますが、蔵六の功績を鑑みるに、座学と実践の関係を再考察させられると思います。

 そして蔵六は、幕府の学問所でも、兵学を教える教授になります。

 この時期、蔵六は、父の病気を理由に、一時期、長州に帰国します。
 父との会話で蔵六は進路を考えます。幕臣(つまり殿様)になるのか…。しかし、蔵六の本心は長州藩に仕えることでした。自分のことなど知らないであろう故郷の長州藩に。理由は「故郷が好きだから」。
 実は、『花神』のテーマには、この故郷好きな蔵六のアイデンティティ(帰属意識、自分を自分たらしめているもの)もあるのではないかと考えます。超合理主義者の大村益次郎が、一方では、アイデンティティという反合理的なもの、感情的なものによって、幕臣の身分を捨て長州に仕えるという、反合理的な判断をする。

 江戸に戻ってきた蔵六は、女性の解剖を依頼されます。蔵六は女性の解剖をしたことがありませんが、引き受けます。幕府の学問所の書物を読み、あと必要なのは想像力と少しの勇気。これも、後年、蘭書だけの知識、実践経験ゼロで幕府軍を迎え撃ったのと同じ、座学と実践の問題でしょう。

 さて、長州藩は八月十八日の政変で京都を追われます。蔵六にも帰藩命令が出ます。
「もはや、江戸にもどれないかもしれない」
 ところが面白いことに、蔵六は後年、戊辰戦争の総司令官として、江戸に戻ってきます。
 また、蔵六は後年「塾を閉じるのがいかにもいやであった」と語ったそうです。戊辰戦争の総司令官、軍政家として栄達する蔵六ですが、結局、自分の意思でやった事業といえば、塾だけだったからです。同じく塾を主宰している塾長としては、うれしいですね。

 塾での最終講義は、史実はわかりませんが、『花神』では「タクチーキ(戦術)のみを知ってストラトギー(戦略)を知らざる者は、ついに国家をあやまつ」というテーマだったとされます。戦術と戦略は軍事でははっきり区別されます。戦術は、戦いに勝つための個々の具体的な方法。戦略は、戦術より総合的・長期的な戦争に勝つための方策。 
 たとえば、大学受験で東大に受かりたいとしましょう。がんばって世界史で塾に通って、時間と労力を費やした挙句、数学の点数が足りない、といった「戦略」負けしている人がとても多いように思います。

 長州藩は京都で暴発して御所に向かって攻め込み(禁門の変、蛤御門の変)、潰走します。長州藩は朝敵になります。

 

蘭学で幕府軍を押し返す

 幕府軍は長州に攻め込みます。
 長州軍は、まず、芸州口の戦いで勝ちます。大村益次郎は喜びません。勝つように作戦を立てたのだから勝って当然、ということでしょう。受験もこうありたいですね。
 大村益次郎は、自ら、石州口の戦いに、指揮をとりに出かけます。
 長州侍は一騎打ちをはじめました。「ばかな」。大村益次郎は、

自分の兵学思想とかけ離れたいくさをしていることに腹がたった。
いまから満点下津々浦々にいたるまで斬り従えなければならない。
革命期にあっては思想の普及は軍隊によるしかないのである。
それがああいう戦さをしていては、百年かかっても幕府はびくともしない。
蔵六の兵学思想には、豪傑や剣客。あるいは槍の名手といった種類の人間は不要であった。
忠実に命令をきく歩卒さえおればよい。
歩卒たちに敵よりも射程が長く命中精度がよく射撃操作の軽快な小銃をもたせ、そういう大小の集団を巧妙に運動させ、敵を兵器と戦術で圧倒してゆくことが肝要なのである。

 これは、塾長の受験の戦い方の考えと同じです。
 成績が足りない人が、普通の人と同じく、普通の予備校に通い、志望大学に合格できるのかと。新たな受験思想が必要ではないかと。

 たとえば、先生が解説して板書してそれをノートに写す。しかもその問題は、入試で合否を分けるより上のレベルで、合否には関係ない問題である。そんな「作業」に時間を費やしていて、受験に勝てるか、と。そんなことをしている暇があったら、合否を分けるまでのレベルの問題をひたすら解けるようにして、網羅度を上げろ。英文を読み込め、と。

 

物理学のように戊辰戦争を片づける

 大政奉還後、江戸は西郷隆盛や勝海舟では収まらず、大村益次郎がいよいよ、歴史の表舞台に登場します。
 そして、いよいよ、大村益次郎の超合理主義性、空気の読めなさが、彼の生命に関わることになります。
 江戸城には、薩摩の海江田信義が参謀としていましたが、はたして、海江田より上なのかどうかがはっきりしない大村益次郎が海江田にいきなり命令をします。そして、ついに、海江田に

「アナタはいくさを知らぬのだ」

と言ってしまいます。明治2年に大村益次郎は襲撃されて亡くなりますが、黒幕は海江田だと言われます。
 ここが難しいところで、勝つためには大村益次郎が采配をとるしかありません。海江田に軍略の力量が足りないことを理解させなければなりません。
 一方、この大村益次郎の空気の読めなさという欠点が、大村益次郎の魅力でもあるのだと思います。ここで、うまく立ち回れるような器用な人物であったら、はたして司馬遼太郎さんは、大村益次郎を描いたでしょうか。また、日本史はどうなっていたでしょうか。

 これは、進学校のクラス30位以下で入塾してくるような親子も同じようなものなのです。クラス30位以下なのに、自分の日常のだらしなさ、自分の教育力の無さを自覚していない。なので、塾長に厳しい指摘をされると、感情的になって退塾し、受験も、その学校としてはどうだろう、いう結果になります。
 この前後も、大村益次郎は、

数学教師が数式を書いて答えを出すような当然の態度で

総司令官として司令をし、作戦を遂行します。

 ちなみに、上野戦争では、アームストロング砲が、加賀藩邸、今の東京大学本郷キャンパスに据えられ、新政府軍の勝ちを決します。塾長は、一時期、上野の不忍池が通学路だった時期があり、この話は感慨深いです。

 

花神とは?

 中国では、花咲かじいさんのことを花神というそうです。
 大村益次郎は、蘭学を学び、大坂適塾の塾頭に登りつめた、その超合理主義性でもって、日本中に「維新」という花を咲かせる花咲かじいさんの役割をしたのでしょう。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

 

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【感想・書評】脳科学は人格を変えられるか?(文春文庫):大学受験に活かせる?

 

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

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【感想・書評】脳科学は人格を変えられるか?(文春文庫):大学受験に活かせる?

 

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『脳科学は人格を変えられるか?』の著者

 著者は、オックスフォード大学感情神経科学センター教授のエレーヌ・フォックス先生です。女性です。

 

『脳科学は人格を変えられるか?』の内容

 単行本は2014年発売。2017年に文庫化されたようです。大学の研究に基づき、巻末に、引用した論文がたくさん載っている、ちゃんとした本です。本文の中でも多くの実験が引用されています。題名に「人格」とありますが、主に、悲観と楽観について、多くのページが割かれています。

 

悲観脳と楽観脳と大学受験

 ポジティヴな人とネガティヴな人がいます。まあ、人格の一部ですね。これを変えられるかどうか。
 あまりにも楽観的だと、危険に対して危険を感じないので、最悪の場合、死んでしまう。したがって、ある程度の悲観は、生きるために必要です。しかし、悲観的すぎると、生きづらい。大学受験でも、ネガティヴすぎるがゆえに、うまくいかない人は、ある程度の割合でいるようです。一方、ポジティブすぎるがゆえに、危機感を感じず、大学受験の勉強に身が入らない、という人もいるでしょう。
 本書では、ネガティヴなものに注目する脳の回路を「レイニーブレイン(悲観脳)」、ポジティヴなものに人を向かわせる脳の回路を「サニーブレイン(楽観脳)」と呼んでいます。

 

大学受験も遺伝子のせい?

 大学受験を含め、人間のおおむねのことには、遺伝子が関係することは否定できないでしょう。本書でも、それは否定していません。一方、遺伝子ですべてが決まるわけではありません。本書では、悲観と楽観が生じる要因を
・遺伝子
・どんな出来事を経験するか
・世界をどのように解釈するか
の複雑な絡み合い、としています。

 本書では、遺伝子について解説するために、高校の生物の教科書のような説明もされています。1953年にワトソン、クリックがDNAの二重らせん構造を発見した話から、ヌクレオチドと呼ばれる4つの化学塩基の話。
 また、やはり内容は高校の生物の教科書に出てきますが、「エピジェネティクス」という話も出てきます。仮に、同じ遺伝子を持っていても、環境次第で、遺伝子がオンになったりオフになったりする。それは、RNAポリメラーゼ、メッセンジャーRNA、プロモーター、DNAのメチル化(遺伝子をオフにする)といった、やはり大学入試の生物で出題されそうなメカニズムによって行われます。
 したがって、大学受験なども、すべてを遺伝子のせいにして言い訳をするのは、建設的ではない考え方だと思います。「脳科学で人格を変えられる」という信念で、ありとあらゆる、できる限りの最善を尽くしたいものです。

 

脳が変化する力:大学受験で成績が伸びる原理

 この手の脳科学の本で、有名な話に「ロンドンのタクシー運転手」の話があります。
 ロンドンのタクシー運転手は、レベルが高く、ロンドンの複雑な道を記憶して、試験を突破した人しか、なることができません。ロンドンのタクシー運転手は、脳の海馬(記憶や空間学習能力に関わる)が肥大しているそうです。

 このように、以前考えられていたのとは大きく異なり、近年は、脳はかなり変化することが知られてきています。

 これと同じ原理で、病的にネガティヴすぎる人の脳を、変化させることができるのではないか、という研究が進んでいるようです。物事のポジティヴな面に注目し、ポジティヴだと意識し続けることによって、脳の回路が変化することは、研究で実証されているそうです。その他、似たようなことについて、様々な研究が進み、可能性が生まれているようです。つまり、脳科学で人格を変えられる可能性が示唆されている、ということですね。

 現在の自分を少し超える強度のトレーニングを続けることにより、脳に効果的に神経回路を構築し、より、物事の上達、学校での勉強、大学受験に役立ちそうな文脈で書かれた本に

超一流になるのは才能か努力か?(文藝春秋)

があります。

 

マインドフル瞑想を大学受験に活かす可能性

 本書では、マインドフル瞑想が脳を変化させるかについて、仏教僧の研究などが載っています。やはり、集中したり、気が散るのを防いだりする脳の回路が、たしかに強くなっていたそうです。また、感情のコントロールを助けるいくつかの重要な領域が高密度になっている、つまり、ニューロンが増加していたそうです。そういう人は、当然、大学受験にも強いですよね。さらに、免疫機能にもプラスの改善が見られたそうです。また、本書のテーマである、悲観脳から楽観脳への変化も見られた、つまり、脳科学で人格を変えられる可能性が示唆されたそうです。

 マインドフル瞑想により、脳が変化することにつき、イェール大学医学部精神神経科卒業の医師で、先端脳科学研究に携わり、論文も多数、執筆されている久賀谷亮先生の著書、世界のエリートがやっている最高の休息法(ダイヤモンド社)では、さらに多くの変化が書かれています。

 

『脳科学は人格を変えられるか?』の感想、書評

 上記のように、近年、脳の可塑性(変化できる)について、大学などの研究による科学的根拠に基づき、物事の上達、トレーニングといった面から書かれた本や、マインドフル瞑想といった面から書かれた本があります。
 本書は、脳の可塑性につき、病的にネガティヴな人を改善できないだろうか、というテーマで書かれています。病的にネガティヴで、生きにくさを感じている人は、世界人口の数%程度にはなるとは思うので、この分野がより一層発展すればいいなと思います。
 また、たとえば、大学受験の医学部志望者に「物事ができるようになるということは、脳にそのような神経回路が構築されること」と言っても、ピンと来ない場合があります。本書のような、遺伝、脳の可塑性などの基本的な知識について、正確な知識が世間で広まると、世間一般の人々の物の見方、考え方もかなり変わるのではないかと思います。

 

『脳科学は人格を変えられるか』と大学受験

 大学受験の勉強は長期間に及ぶ膨大な学習であり、忍耐力、集中力、自己コントロールといった資質が求められます。これらの資質は、本書で論じられている通り、脳の機能と密接に関わっています。例えば、前頭前野の発達は自己制御能力と関連することが知られています。大学受験生が計画的に勉強し、誘惑に負けず努力を継続できるかどうかは、脳の発達状態に影響されると言えるでしょう。

 また、ストレス耐性も重要な資質です。大学受験の勉強はストレスフルな状況を伴いますが、扁桃体などの情動に関わる脳部位の反応性の個人差が、ストレス対処能力の差につながることが示唆されています。脳科学の知見を応用し、ストレス軽減のための効果的な方法を見出すことができれば、大学受験生のメンタルヘルス向上に役立つかもしれません。

 さらに、『脳科学は人格を変えられるか?』では、マインドフルネス瞑想によって意図的に人格特性を変容させられる可能性が論じられています。集中力や情動制御、ストレス耐性の向上にマインドフルネスが有効だとすれば、大学受験の勉強に取り入れることで学習効率を高められるかもしれません。

 一方で、本書の知見は大学受験の競争のあり方に警鐘を鳴らしているようにも読めます。遺伝と環境の相互作用で人格の個人差が生じることを考えれば、大学受験の競争に過度に偏重し、狭く限定された能力だけを評価することには問題があるように思われます。多様な人格特性を包摂し、個人の可能性を多面的に評価する大学入試制度のあり方が、脳科学の知見からも支持されるのではないでしょうか。

 また、脳の可塑性は青年期以降も持続することが本書で強調されています。大学受験期の学習によって発達した能力が、その後の人生にどのような影響を及ぼすのか。大学入学後も個々人の成長を支え、可能性を引き出す教育の必要性を、脳科学は示唆しているように思われます。

 このように、『脳科学は人格を変えられるか?』の議論は、大学受験生の資質、理想的な大学入試制度、望ましい大学教育のあり方など、大学受験に関わる様々な問題を考える上で重要な示唆を与えてくれます。大学受験の競争のみならず、人の可能性をいかに育むかという教育の根本的な問いについて、脳科学の知見から洞察を得ることができるでしょう。

 

 

『脳科学は人格を変えられるか』とハイデガー

 ハイデガーにとって、人間の本質は「現存在 (Dasein)」という概念で捉えられます。現存在とは、自らの存在を問うことができる存在者のことであり、世界の中に存在しながら、同時に世界を理解し、自らの可能性に向けて実存する存在です。
 脳科学が人格を変えられるかどうかを考えるためには、まず人格とは何かを考える必要があります。人格とは現存在の在り方そのものと言えるでしょう。つまり、人格とは単に脳の状態によって決定されるものではなく、世界との関わり合いの中で形成される現存在の存在様式なのです。
 たしかに、脳科学の知見によって、脳の働きと人間の行動や思考との関係が明らかになりつつあります。しかし、脳はあくまでも現存在が世界の中で存在するための一つの条件に過ぎません。現存在は脳を持つことによって世界を理解し、自らの可能性を実現していきますが、脳そのものが現存在の在り方を決定しているわけではないのです。
 また、ハイデガーは現存在の本来性 (Eigentlichkeit) と非本来性 (Uneigentlichkeit) という概念を提示しています。本来的な在り方とは、現存在が自らの可能性に向けて決断し、自らの存在を引き受けることです。一方、非本来的な在り方とは、世間一般の価値観に流されて、自らの可能性を忘れてしまうことです。脳科学が人格を変えるということは、現存在を非本来的な在り方へと導く可能性があるということです。
 しかし、大切なのは、現存在がどのような状況に置かれようとも、常に本来的な在り方を選択する可能性を持っているということです。たとえ脳科学によって人格が操作されたとしても、現存在はそれを超えて、自らの存在を問い直し、本来的な在り方を取り戻すことができるのです。
 ハイデガーは技術の問題についても深く考察しています。現代の技術は、存在者を単なる道具として扱い、その本来の在り方を隠蔽してしまう危険性を孕んでいます。脳科学もまた、人間を単なる操作可能な対象として見なす技術の一つになりかねません。しかし、技術の本質は人間の運命に関わる問題であり、我々はその本質を見極めながら、技術と向き合っていく必要があるのです。
 以上のように、脳科学が人格を変えることは可能かもしれませんが、それは現存在の本質を根本的に変えるものではありません。現存在は常に自らの存在を問い直し、本来的な在り方を選び取る可能性を持っているのです。我々は脳科学の知見を活用しながらも、その限界を認識し、現存在の存在論的な意味を見失わないようにしなければなりません。そのためには、技術と人間の関係を根本的に問い直していくことが求められているのではないでしょうか。

 

 

『脳科学は人格を変えられるか』とデリダ

 脳科学の進歩は、私たちの人格のあり方を根底から揺るがすものとなるのでしょうか。脳の働きを操作することで、人格を自在に変えられるようになるのでしょうか。そうした問いは、私たちの存在の根幹に関わる深い問題を孕んでいます。
 確かに、脳科学の知見は日進月歩で深化しています。しかし、だからと言って、脳科学が人格そのものを自在に操れるようになるとは限りません。なぜなら、人格とは脳の働きだけで決まるものではないからです。むしろ人格とは、他者との関係性の中で、絶え間なく構築され続けるものでしょう。
 私たちのアイデンティティは、決して確固たるものではありません。むしろ自己とは、差延の運動の中で生成し続けるものなのです。他者からの呼びかけに応答するたびに、私たちは新たな自己を形作っていきます。
 たとえ脳科学が脳の働きを制御できるようになったとしても、その制御が及ぶのは自己の一部でしかないでしょう。なぜなら、自己とは脳だけで構成されるものではないからです。身体や環境、他者との関係性が織りなす複雑な動態の中で、私たちの人格は形作られているのです。
 むしろ問題は、脳科学が人格を操作可能なものと見なす言説が生み出す効果でしょう。人格を脳の働きに還元する言説は、私たちの自己理解を大きく歪めてしまう恐れがあります。自己を所与のものと見なし、その本質を脳に求めてしまうのです。
 しかし、自己とは所与のものではありません。私たちは、絶え間なく自己を生成し続ける存在なのです。他者からの呼びかけに応答し、葛藤し、揺れ動きながら、新たな自己を紡ぎ出していくのです。そのような自己生成のプロセスを無視して、人格を操作可能なものと見なすことは、私たちの存在を根底から脅かすものと言えるでしょう。
 脳科学は、私たちの人格のあり方を問い直す重要な契機を提供してくれています。しかし同時に、その知見を絶対化することの危うさも示唆しているのです。人格を脳の働きに還元する言説は、脱構築されなければなりません。
 私たちに求められるのは、脳科学の知見を批判的に吟味しつつ、自己と他者の関係性を絶え間なく問い直していくことでしょう。自己を所与のものと見なすのではなく、生成の只中にある存在として捉え直すこと。そうした自己理解の転換こそが、脳科学がもたらす問題に立ち向かうための、最初の一歩となるはずです。
 脳科学の知見を絶対視することなく、自己と他者の関係性を問い続けること。そこにこそ、人格の真の意味を見出していく可能性が開かれているのではないでしょうか。

 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
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日本人が英語で理科、数学を学習する意義は?

 

1. 国際的なコミュニケーション能力の向上

英語は国際的なコミュニケーションの言語として広く使われています。数学や理科の分野では、最新の研究成果や学術論文が英語で発表されることが多いです。そのため、これらの科目を英語で学ぶことによって、最新の研究にアクセスしやすくなり、世界中の学者や研究者とのコミュニケーションもスムーズに行えます。これは、国際会議や共同研究などで重要な役割を果たします。

2. 専門用語の習得

専門的な数学や科学の用語は、多くが英語由来であるため、これらを英語で学ぶことは用語の理解を深める上で非常に有効です。例えば、物理学の「quantum mechanics(量子力学)」や生物学の「photosynthesis(光合成)」など、これらの用語を英語で学ぶことで、国際的な文脈での正確な用語使用が身につきます。

3. 教育資源の多様性

英語で学ぶことにより、利用できる教育資源が大幅に増えます。多くの高品質なオンラインコースや教科書が英語で提供されており、これらを活用することで、より広範囲の知識を得ることが可能です。特に、MOOCs(大規模公開オンライン講座)やYouTubeの教育チャンネルなど、無料でアクセスできるリソースも豊富にあります。

4. キャリアの機会

グローバルな企業や研究機関では、英語の能力が求められることが多いです。英語で数学や理科を学ぶことにより、国際的なキャリアの道が開かれる可能性が高まります。特に科学技術が進む中で、世界各地のプロジェクトやチームに参加する機会が増えるでしょう。

5. 思考の拡張

言語は思考に影響を与えるため、異なる言語で学ぶことは異なる視点から問題を考える訓練にもなります。英語で数学や理科を学ぶことにより、英語の表現や論理的構造を理解することで、より柔軟な思考が可能になるかもしれません。

6. 自己成長と自信の構築

新しい言語で学問を学ぶことは、言語能力だけでなく、学ぶことへのモチベーションや自己効力感を高めることにも繋がります。これは個人の自信の構築に寄与し、他の分野での挑戦にも前向きな影響を与えるでしょう。

以上のように、日本人が英語で数学や理科を学ぶことは、個人の学問的、キャリア的、さらには個人的成長においても多大な利益をもたらすと言えます。それは単に言語能力の向上を超え、国際社会で活躍するための重要なステップとなるでしょう。

 

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CK-12の「概念ページ」では、STEMコンテンツの幅広い選択肢があります。これにより、学生は「自分たちの方法で学ぶ」ことができます。概念ベースの学習では、複数のモダリティ(レッスン、ビデオ、インタラクティブなもの、実世界の応用例、学習ガイドなど)が提供されます。基本的なレベルからグレードレベルまでのコンテンツがあります。また複数のコースにまたがる概念もあります。異なる学習スタイルに対応するための簡単な方法も用意されています。

CK-12はまた、「クラス」を提供しており、教師は学生の学習と進捗を割り当てて監視することができます。クラス全体または差別化されたグループに設定することができます。これにより、学生に必要な個人化されたコンテンツを提供することができます。

CK-12サイト2やYouTubeチュートリアルから詳しい情報を得ることができます。

 

 

Science for Kids – Ducksters 

英語で書かれた子供向けの科学サイトです。
日本の高校の単元あたりをわかりやすく解説しています。
英語は、理科の用語以外は、進学校の高校で採用される検定教科書レベルでしょう。

電気、音、天気、太陽系などに関する科学実験やプロジェクトがあります。また、科学者や発明家についても学ぶことができます。

Duckstersの「Science for Kids」には、様々なアクティビティがあります。例えば、科学クロスワードパズル、科学ワードサーチ、科学クイズなどがあります1。

Duckstersの「Science for Kids」は、子供たちが科学に興味を持ち、楽しく学べるようなコンテンツがたくさんあります。

実は、理科だけでなく、歴史、地理などもあります。

 

The Feynman Lectures on Physics 

ノーベル賞物理学者、ファインマン先生の世界的教科書『ファインマン物理学』の英語版が公開されています。
世界トップレベルのカリフォルニア工科大学での授業なので、まあ大学レベルですが、そのわりには、英語も内容もわかりやすいです。
特に、第1巻の最初の方は、物理学に深入りしていないので、内容は親しみやすいです。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅100m 東大卒の塾長による個別指導

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【使い方】化学の新演習(三省堂)レベル、難易度、どんな人におすすめ? 

 

【使い方】化学の新演習(三省堂)レベル、難易度、どんな人におすすめ? 

 

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『化学の新演習』はどんな人におすすめ?

・教科書を理解し、『化学の新標準演習』(三省堂)を全問解け、標準レベルの記述模試で東大レベルの成績を出せ、他科目も余裕がある人。
・『化学の新標準演習』(三省堂)を使っていて、有機構造決定の補強をしたい人。
・難関大学の入試化学でよく出るテーマをあらかじめ知っておきたい人。

 

『化学の新演習』の使い方、レベル、難易度

 『化学の新演習』は、『化学の新研究』(三省堂)『化学の新標準演習』(三省堂)で有名な卜部吉庸先生の難関大学受験向けの化学の問題集です。

 教科書を理解し、『化学の新標準演習』(三省堂)を全問解ければ、理論化学、無機化学の分野は、進研模試、河合全統記述模試などの標準レベルの記述模試で東大、京大、医学部の成績を出せると思います。
 難関大入試も、東大、京大、医学部入試まで含めて、理論化学、無機化学の分野は、初見のテーマに詳しい誘導をつけて標準レベルの知識から考えさせるタイプの問題が多いので、物事を根本から理解しようという姿勢のある人は、教科書+『新標準演習』で合格点を取れると思います。

 そうすると、世評の高い『化学の新演習』ですが、優先順位としてはそれほど高くなく、他科目にも余裕がある人が化学で上積みを狙う、という使い方になると思います。
たとえば、C60フラーレンや燃料電池など、難関大学でよく出るテーマはたしかに載っています。
 ただ、出題者側は、『化学の新標準演習』あたりの入試標準問題集に載っていないようなことは、受験生にあらかじめ知識として勉強しておくことを求めているわけではなく、詳しい誘導をつけて、標準レベルの知識から考えさせていることが多いと思います。
 難易度もかなり高いので、負担が大きいです。標準レベルを網羅でき、模試で東大級の偏差値を出すことができる人が、東大、京大のように初見の問題や、最新トピックを出す大学向けの入試実戦問題集として、きちんとした指導者のもと、問題を厳選してこなす、という使い方なら、アリかなと思います。

 『新標準演習』の有機化学の構造決定の問題は、河合全統記述模試などの標準レベルの記述模試などと比べても、ちょっとシンプルすぎると思います。
 有機構造決定は、問題の性質上、実際に入試レベルに複雑な問題に取り組んだほうがいいので、『新標準演習』の有機構造決定の補強として『新演習』を使うのはアリだと思います。

 解答、解説は別冊になっていて、勉強しやすいと思います。難関大向けのわりには解説も親切だと思います。

 

『化学の新演習』と重要問題集や標準問題精講との違いは?

 『重要問題集』(数研出版)のほうが、教科書レベル~入試によく出る標準問題が載っています。学校などで使っている人は、まず『重要問題集』を完璧にすれば、ほぼ合格点になると思います。
 『標準問題精講』(旺文社)は、問題が106問と絞られています。入試によく出る標準問題というよりは、難関大学でテーマになりがちな問題が載っているという意味では、『新演習』に似ています。他科目に余裕があり、化学でヤマを当てに行く人は、『標準問題精講』という選択肢もアリでしょう。

 

『化学の新演習』と新研究や新標準演習との違いは?

 同じ卜部吉庸先生の参考書問題集ですが、まったく異なります。
 『化学の新研究』(三省堂)は、問題集ではなく、参考書です。評判は高く、教科書を読んでいて「これはなぜだろう?」と思った時、『新研究』で調べると、だいたい載っていると思います。
 『化学の新標準演習』(三省堂)は、『新演習』に比べ、教科書~標準レベルまでの網羅性が高く、『新標準演習』でほとんどの大学で合格点を取れます。まずは『新標準演習』を完璧にすることが大切です。

 

化学の新体系(啓林館)

 

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【使い方】化学の新体系(啓林館) どんな人におすすめ? レベル、難易度:難関大受験によく出る図表

 

【使い方】化学の新体系(啓林館) どんな人におすすめ? レベル、難易度:難関大受験によく出る図表

 

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『化学の新体系』はこんな人におすすめ

・検定教科書を理解し、受験標準レベルの問題集を解け、進研模試、河合全統記述模試など標準レベルの記述模試で東大レベルの成績を出せる人
・難関大向けの問題集の解説と検定教科書でも、もうひとつ理解しにくいことがある人
・化学が大好きな人

 

『化学の新体系』の使い方、レベル、難易度:難関大受験によく出る図表

 灘中高で27年間、化学を教えられていた方が、板書を要約した形で書かれた、高校生、大学受験生向けの、化学の総合参考書です。

 検定教科書の本文を超えて、教科書の「発展」の部分に書いてあって、難関大でよく出るような話の図解、解説が親切だな、という印象です。たとえば、理想気体の状態方程式に、分子間力と分子自身の体積による補正項を導入する話などです。そのような話に出くわしたとき、『化学の新体系』で調べると、親切な図解と適切な解説が載っているかもしれません。

 ところどころに出てくる「ヨウ素と石灰石は、日本で自給できる数少ない天然資源」「硬水 便秘解消に良い」などのコラムも面白いです。

 ただし、基本事項の文章による解説は、検定教科書のほうがずっと親切です。また、大学入試には出ないことも載っています。

 教科書を理解し、受験に出ることを一通り網羅した受験標準問題集を解けるようにすれば、進研模試、河合全統記述模試など標準レベルの記述模試で東大レベルの成績になりますし、物事を根本から理解しようという姿勢のある人は、それで東大入試でも合格点を取れると思います。
 大学受験のことだけを考えると、『化学の新体系』を通読するのはかなり効率が悪いですし、その前にやらなければならないことがたくさんある人が多数派でしょう。

 

化学の新標準演習(三省堂)

化学の新演習(三省堂)

 

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大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅100m 東大卒の塾長による個別指導

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【レベル】化学の新標準演習(三省堂) 難易度、使い方は? どんな人におすすめ?

 

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化学の新体系(啓林館)

 

【レベル】化学の新標準演習(三省堂)難易度、使い方は?どんな人におすすめ?

 

大学受験の化学で悩んでいる人へ

 世の中には、化学の問題集が多すぎて、どれを使えばいいか、悩んでいませんか?
 実は、化学の問題集は、易しいものから難しいものまで、難易度に、かなり差があります。選ぶ教材を間違えると、効果的に成績を上げることができません。易しすぎるものを選んだ場合は、「易しすぎる」とわかるでしょう。一方、難しすぎるものを選んでしまった場合、必要以上に、化学という科目が難しい、と勘違いしてしまうでしょう。
 この記事では『化学の新標準演習』という問題集を紹介します。その名の通り「標準的な」問題集です。この解説を理解できない場合、教科書レベルの基本に抜けがあります。超上位大学以外は、ほぼ似たような問題が出ることが多いです。東大や京大は初見の問題が多く出ますが、詳しい誘導がついていて、結局やることは『新標準演習』レベルのことが多いです。この記事を読めば、新標準演習を使って、少なくとも東大合格レベルの少し手前くらいまで行けることがわかります。

 

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『化学の新標準演習』旧版と新版の違い

 オレンジ色の方は、旧課程用です。2023年4月現在、高校3年生以上の人が買ってください。
 青っぽい方は、新課程用です。2023年4月現在、高校2年生以下の人が買ってください。熱化学に「エンタルピー」という、今まで大学レベルだった概念が導入されるなどの変更があります。

 

『化学の新標準演習』はどんな人におすすめ?

 教科書をまずまず理解していて、教科書レベルの問題を解ける人。(『宇宙一わかりやすい高校化学』(学研)を理解して、別冊問題集を解ける人。)教科書レベルの基本のチェックから、共通テスト対策から、難関大学の化学で合否を分けている問題で使う技法の網羅まで、1冊で済ませたい人。

 

『化学の新標準演習』の到達レベル、難易度、使い方

 大学受験化学に必要な基本ツールを効率的にほぼ網羅できる問題集です。大学受験塾チーム番町では、教科書~受験標準レベルの難易度の問題集として使います。著者は卜部吉庸先生です。

 他のレビューでは、到達レベルを低く見積もっているものが多いですが、『新標準演習』が完璧なら、進研模試、河合全統記述模試など、標準レベルの記述模試では、東大レベルに達します。
 実際の東大、京大、国立医あたりの入試については、下で述べています。決して、『新標準演習』以上の知識が求められているわけではなく、初めて見るような問題でも、誘導を丁寧がついていて、結局は『新標準演習』レベルのことをやっていることがほとんどです。

 教科書レベルの基本のチェックのページも充実しています。教科書をただ読むより、問題型式のほうが「出力」をしているので、覚えやすいと思います。穴埋め問題は、0.28mmのオレンジボールペンで書き込み、赤下敷きで隠し、できない問題に✓をつけ、正解できるまでくり返す、という使い方がいいでしょう。

 収録問題のレベルは安定していますが、問題数が多すぎるので、できない問題だけチェックをつけてくり返す使い方が大切でしょう。

 

『化学の新標準演習』のレイアウト

 各章のはじめには、その章で扱う内容の要点がまとまっています。教科書などでしっかり理解することが望ましいですが、ちょっと忘れたことがあって、このページで済む場合などは、活用するといいでしょう。

 次に「確認&チェック」というコーナーがあります。教科書レベルの基本知識を問題の形で確認することができます。また、無機、有機の「確認&チェック」は、たとえば「一酸化窒素に該当するものはA、二酸化窒素に該当するものはB、アンモニアに該当するものはCと記せ」など、共通テストの正誤問題に役立ちそうな問い方をしてくれることも多いので、活用しましょう。

 次に例題が載っているページがあります。その後の問題に取り組む前に、例題を理解すると、問題の形を通して、より理解を深めた状態で、問題に取り組めるでしょう。

 次に問題が載っているページがあります。ここがメインだと思います。『新標準演習』に取り組むと決めたからには、全問解けるようにしましょう。

 何章かに1つ、その後に「共通テストチャレンジ」というコーナーがあります。旧センター試験型(共通テストでも出ますが)の問題が載っています。

 解答、解説は別冊になっていて、勉強しやすいと思います。解説や図解も親切だと思います。

 

『化学の新標準演習』は東大、京大、医学部受験に足りる?

 理論化学、無機化学については、『新標準演習』が完璧なら、ほとんどの大学で合格点を取れます。
 東大、京大の化学の特徴は「初めて見るような設定を、丁寧に誘導をつけて、高校標準レベルで考えさせる」ことです。つまり、物事を根本から理解しようとする姿勢のある人は、教科書の説明を理解した上で、『新標準演習』の組み合わせ、ひとひねりで、東大、京大あたりでも合格点を取れます。阪大や東北大や東工大や早稲田や慶應あたりなら、なおさら足ります。
 『新標準演習』を完璧にした後、過去問に取り組んで、実際の入試問題に慣れるといいでしょう。

 逆に、東大、京大あたりが志望だったとして、『新標準演習』レベルをおろそかにして、もっと難しい教材に取り組んでいると、入試では実際には『新標準演習』レベルを使いこなすことが求められるので、抜けが出て、点数が伸びない、ということになります。

 ただし、難関大の有機構造決定については実際に、入試レベルの問題に取り組む必要があります。同じ卜部吉庸先生の『化学の新演習』(三省堂)の★、★★問題を解けるようにするといいかと思います。他に、構造決定に特化した、わかりやすい参考書もあります。

 

『化学の新標準演習』で偏差値はどのくらいまで伸びる?

 上記のように、進研模試や河合全統記述模試など、標準レベルの模試なら、十分、東大、医学部レベルの偏差値に達します。受験というものは、標準レベルまでの網羅度で点数が決まります。標準レベルの教材だからといって舐めてはいけません。十分、東大レベルの成績に達します。

 

『化学の新標準演習』は共通テスト対策になる?

 上記のように、何章かに1つ「共通テストチャレンジ」というコーナーがあり、旧センター試験のような問題が載っています。この問題に慣れれば、共通テストにかなり対応しやすくなるでしょう。

 

『化学の新標準演習』は初学者にも使える?

 教科書レベルのチェック問題も充実はしています。
 しかし、本当の教科書レベルの基本の説明は、教科書や『宇宙一わかりやすい高校化学』(学研)で理解し、基本問題も『宇宙一』の別冊付属問題集あたりがいいと思います。
 初学者は、まず、このあたりを9割方マスターしてから『新標準演習』に移るといいと思います。

 

『化学の新標準演習』と『重要問題集』や『基礎問題精講』との違いは?

 『重要問題集』(数研出版)のほうが、教科書レベルのチェックが薄く、少しむずかしい問題も載っています。『新標準演習』のほうが、解説が詳しいです。コンセプトとしては、かなり似ていると思います。
 『基礎問題精講』(旺文社)は、問題が121問と絞られており、網羅性に欠けます。標準問題をつぶしたいのなら『新標準演習』。その他いろいろを考えて、化学に時間をかけられないなら『基礎問題精講』ということになると思います。

 

『化学の新標準演習』と『新研究』や『新演習』との違いは?

 同じ卜部吉庸先生の参考書問題集ですが、まったく異なります。
 『化学の新研究』(三省堂)は、問題集ではなく、参考書です。評判は高く、教科書を読んでいて「これはなぜだろう?」と思った時、『新研究』で調べると、だいたい載っていると思います。
 『化学の新演習』(三省堂)は、『新標準演習』に比べ、教科書~標準レベルまでが薄く、難関大学入試の応用問題で出そうなトピックが載っています。まずは『新標準演習』を完璧にすることが大切です。

 

オススメの補助教材

 大学受験化学は、無機のイオン分析などで「ゴロ合わせ」があると楽な分野がありますが、『新標準演習』は「ゴロ合わせ」がかなり弱いです。『宇宙一わかりやすい高校化学』(学研)『福間の無機』(旺文社)、『化学一問一答』(東進ブックス)あたりは、ゴロ合わせも充実しています。まあ、ググればいいのかもしれませんが。

 

『化学の新標準演習』の出版社の信頼性と実績

 『化学の新標準演習』の出版社は、三省堂です。
 まず、中学、高校の英語、国語の検定教科書を出版しています。英語は、超定番の『NEW CROWN』『CROWN』です。この時点で信頼性は抜群ですね。
 一般向けには、国語辞典、漢和辞典、英和辞典、六法全書なども出版しています。
 大学受験向けには、上記の『化学の新演習』『化学の新研究』が、もう20年ほどはハイレベルな大学受験化学において、超定番になっていて、信頼性と実績は抜群と言えます。

 

『化学の新標準演習』の著者の信頼性と実績

 著者は卜部吉庸先生です。卜部吉庸先生は、京都教育大学特修理学科卒業。長年、奈良の県立高校の先生を務められ、その後、私立高校の講師をされたようです。他の著書に、『化学の新研究』『化学の新演習』があります。両方とも、ハイレベルな受験生向けの化学の参考書、問題集として、20年ほどは超定番になっています。化学の参考書、問題集の分野での信頼性、実績は抜群と言えます。

 

『化学の新標準演習』は個別指導塾で使いやすい?

 主に、理解が難しい、理論化学について言うと、概念の理解、知識問題については、教科書や例題で解説したあとに『新標準演習』の問題に取り組むことができます。計算問題については、多くの場合、『新標準演習』の例題に類題が載っているので、それを解説し、載っていない場合は、他の計算問題の参考書で解説したあとで、問題に取り組むことができます。個別指導塾で使用すると、生徒の化学の成績を東大レベルに引き上げることができます。
 無機、有機については、暗記が中心なので、自分で勉強すれば成績が上がります。

 

『化学の新標準演習』の目次

01.物質の成分と元素
02.元素の構造と周期表
03.化学結合1
04.化学結合2
05.物質量と濃度
06.化学反応式と量的関係
07.酸と塩基
08.中和反応と塩
09.酸化還元反応
10.物質の状態変化
11.気体の法則
12.溶解と溶解度
13.希薄溶液の性質
14.コロイド
15.固体の構造
16.化学反応と熱
17.電池
18.電気分解
19.化学反応の速さ
20.化学平衡
21.電解質水溶液の平衡
22.非金属元素1
23.非金属元素2
24.典型金属元素
25.遷移金属元素
26.金属イオンの分離と検出
27.無機物質と人間生活
28.有機化合物の特徴と構造
29.脂肪族炭化水素
30.アルコールとカルボニル化合物
31.カルボン酸・エステルと油脂
32.芳香族化合物1
33.芳香族化合物2
34.有機化合物と人間生活
35.糖類(炭水化物)
36.アミノ酸とタンパク質、核酸
37.プラスチック・ゴム
38.繊維・機能性高分子

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【使い方】物理のエッセンス(河合出版) レベルと難易度は?

 

【使い方】物理のエッセンス(河合出版) 個別指導塾で使える?レベルと難易度は?

 

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『物理のエッセンス』の著者の実績と信頼性

 著者は浜島清利先生です。著書は他に、

・物理講義の実況中継(語学春秋社)
・名問の森(河合出版)
・良問の風(河合出版)

があります。
 大学受験の物理の参考書では、特に、『物理のエッセンス』『名問の森』『良問の風』は超定番です。実績と信頼性は抜群と言えます。

 

塾長の実績と経験:『物理のエッセンス』のレベル 東大の偏差値を超えます

 検定教科書を理解し、教科書レベルの問題をスラスラ解ける人(『宇宙一わかりやすい高校物理』(学研)の説明を理解し、付属の別冊問題集を解ける人)なら、独習で使えると思います。
 レベルは、全問解けるようにすれば、河合全統記述模試、進研模試などの標準的な模試では、東大の偏差値を超えます。これらの模試と『物理のエッセンス』を見比べればわかることですし、塾長の生徒は達成しています。そして、東大、京大、医学部あたりに合格するための基本技法をほぼ網羅できます。

 

『物理のエッセンス』の使い方

 『物理のエッセンス』で大学受験物理の基本解法をほぼ網羅的にマスターできます。問題を全部解けるようにしましょう。

 まえがきにある通り、教科書に書いてある説明は簡潔に、教科書に書いていないが受験で使うことの説明は丁寧にされています。Amazonで低評価をつけている人は、このまえがきを読んでいないのではないでしょうか。つまり、教科書はわかっていることが前提の本です。

 『物理のエッセンス』のたとえば、鉛直面内の円運動(非等速円運動)の所には
1.力学的エネルギー保存則
2.遠心力を考えて、半径方向で力のつり合いの式をつくる
といった、物理の入試問題を解くために必要な抽象的なパターンが、バーンと書いてあります。

 また、たとえば、電磁気のコンデンサーの難しめの回路を解くテクニックに、
(ある極板上の電荷)=C×(自分の電位ー相手の電位)
というものがあります。『重要問題集』(数研出版)などの「問題集」では、説明なしに、解答にいきなりこの話が出てくるので、この話を聞いたことがない人は、わけがわからないと思います。一方で、『物理のエッセンス』では、しっかり原理から解説してくれています。

 『物理のエッセンス』は(教科書レベルのことの多くは省かれているものの、)入試問題を解くために理解しなければならないことは、しっかり解説してくれていて、かつ、入試で合格点を取るために必要な技法をマスターするための問題は、ほぼ網羅されている、という、非常にバランスの良い教材だと思います。

 問題の解説はやや素っ気ないですが、東大、京大、国立医学部あたりを目指すなら、泣き言は言えないでしょう。

 一方、以下のような親切な配慮も見られます。

・難しめの問題には、*、**がついている。得意でない人は、1周目は飛ばしてもいいかもしれない。ただ、『物理のエッセンス』に取り組む人は、最終的にはマスターすべき。

・誤りやすい誤答例を「miss!」として取り上げている。出題者の狙い目になっているので、クリアーを目指しましょう、とのこと。

・よく受ける質問、本質をつく疑問に「Q&A」として答えている。

・覚えなくてもよいが、知っておくと問題を解く上でずっと有利になる事柄を「知っておくとトク」として扱っている。

・物理が得意な人へのメッセージを「High」として扱っている。東大・京大・物理が難しい医学部あたりを受ける人は、理解すべきです。また、上位教材である『名問の森』では、これらを使う問題が出てきます。

 河合全統記述など、標準的な記述模試では、これで東大の偏差値を超えます。学校の定期テストでも、東大合格レベルの順位に入れると思います。

 東大、京大、医学部入試も、この内容が基礎になります。

 『物理のエッセンス』と実際の入試との違いは、『物理のエッセンス』の問題は、入試問題を解くためのバラの技法のマスターに重点が置かれ、解答が長くないのに対し、実際の入試問題は、もう少し複雑で、小問が続く、ということです。
 ただ、それでも、デカルトが「困難は分割せよ」と言ったように、東大や医学部を目指す人でも、「困難を分割し」、『物理のエッセンス』でバラの技法をマスターしたあとに、入試レベルの問題に取り組んだほうが、遅いようで早く、また、到達点も高いと思います。

 

『物理のエッセンス』が合わない、使いにくい、わかりにくい人

 教科書を理解していない人です。また、東大、京大、医学部あたりを目指さず、入試に使う技法に少々抜けが出てもいい人は、もう少し解説の親切な参考書を使ったほうがいいです。おそらく、Amazonで低評価をつけているのは、このような人達だと思います。

 

『物理のエッセンス』は共通テスト対策になる?

 物理のエッセンスが完璧なら、共通テストでも、かなりの高得点を取ることができるはずです。ただし、共通テストは、国立二次、私大とは異なる角度から問うてくる問題や定性的理解(計算で数値を求めるのではなく、性質を理解する)を求めるもあり、医学部などで高得点が必要な場合、共通テスト型の問題で慣れることが大切だと思います。
 一方、共通テストでそこそこの点数でいいという人は、共通テストは共通テスト向けの教材を使い、国立二次、私大も、もう少し解説がわかりやすいものを使ったほうがいいと思います。

 

『物理のエッセンス』は個別指導塾で使える?

 東大や医学部に数十人受かるような高校の中位層以上なら、塾長が教科書で基本を解説し、『物理のエッセンス』の例題を解説すると、生徒はスムーズに『物理のエッセンス』の問題に取り組めるようです。かなり効率的に、生徒を東大レベルに連れて行ってあげることができます。このような学校でも、下位層だと、まずは、教科書の解説+『リードLightノート』の問題、あたりがいいのかな、と思います。

 

『物理のエッセンス』をマスターした後は?

 物理は、数学とは異なり、分野横断的な出題は少なく、「力学」の分野では「力学」しか出題されないことも多いです。したがって、『物理のエッセンス』のある分野を終えたら、いきなり大学の過去問のその分野の問題に取り組むことができます。正解できないまでも、解説を読んで理解できる力はついているはずです。

 あるいは、同じ浜島先生の『名問の森』(河合出版)は、『物理のエッセンス』でマスターした技法を難関大レベルの問題で使いこなす学習に最適です。『物理のエッセンス』で少し抜けている、入試に頻出の内容も補うことができます。

 

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名問の森(河合出版) 

 

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『名問の森』のレベル、難易度

検定教科書を理解し、教科書レベルの問題をスラスラ解け
 ↓
『物理のエッセンス』(河合出版)を理解し、問題を全問スラスラ解け、
(ここまでで、河合全統記述模試や進研模試など、標準レベルの記述模試なら東大の偏差値を超えます。)
旧帝大、医学部、東工大、早慶などを目指す人

 

『名問の森』の使い方

 『名問の森』は『物理のエッセンス』(河合出版)と著者が同じ姉妹書です。難関大向けの問題集のわりには、解説が親切です。

 『名問の森』は『物理のエッセンス』でマスターした受験に必要な基本ツールを、東大や医学部で合否を分けるレベルの生の入試問題でどのように使いこなすかの訓練、と考えるといいと思います。
 入試問題について、なにを考えれば解けるかという「着眼点」「目のつけどころ」といったものがあると思います。一度は、わからなかったら答を見て、実際に手を動かして解いてみたほうがいいと思いますが、その後の復習は、「着眼点」がパッと思い浮かんだらOK、ということでいいと思います。
 『名問の森』の全部の問題について「着眼点」がパッと思い浮かんだら、東大や京大や医学部でも合格レベルになります。

 『名問の森』は『物理のエッセンス』に少しだけ抜けている、入試によく出る設定の問題も、適切に補われていると思います。

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他レビューへの疑問

 

『物理のエッセンス』のレベルは基礎固め?最低限の基本問題?

 たしかに、ある程度以上の実際の入試問題は、『物理のエッセンス』よりも設定が複雑で、小問が続きます。
 一方で、『物理のエッセンス』は、見た目は問題が短く終わりますが、たとえば、GMARCHあたりでは出題されない、解けなくても合否を分けないような「バラの技法」が結構たくさん載っています。このような教材を「基礎固め」「最低限の基本問題」と呼ぶのは、おかしいと思います。
 実際、『物理のエッセンス』を全問解けるようにすれば、進研模試や河合全統記述模試などの、物理の問題の設定が複雑でない、標準レベルの記述模試では、東大の偏差値を超えます。また、実際の東大、京大あたりの入試でも、正解に必要な技法は、ほぼ物理のエッセンスに載っています。
 物理で「基礎固め」「最低限の基本問題」と呼ぶのが適切なのは、『宇宙一わかりやすい』シリーズ(学研)や『らくらくマスター』(河合出版)あたりだと思います。『物理のエッセンス』は、これらよりは、かなり高度な技法まで載っています。

 

『物理のエッセンス』は教科書を読んでいない状態からでも取り組むことができます?

 先述のように、『物理のエッセンス』のまえがきでは、著者の浜島先生ご自身が『物理のエッセンス』に書かれているのは「教科書に書かれていないけど大切なこと」、「用語の説明など必要だけれど退屈な所は教科書にまかせ」と書かれています。
 つまり、教科書を読むことは、大前提の本だと、著者の浜島先生ご自身がおっしゃっていると思います。

 

『物理のエッセンス』のレベル 到達偏差値は、河合全統記述記述模試で55前後?

 先述のように、『物理のエッセンス』は実際の難関大入試とは異なり、「バラの技法」を習得するために、問題が短く、設定も複雑ではありません。ただ、河合全統記述模試の物理も、それほど設定は複雑ではありません。また、先述のように、『物理のエッセンス』は、東大入試まで含めて、正解に必要な「バラの技法」は、ほぼ網羅されています。
 実際に、到達偏差値は、低く見ても河合全統記述模試で東大の67.5は行けると思います。

 

『物理のエッセンス』の出版社の信頼性と実績

 『物理のエッセンス』の出版社は、河合出版です。予備校の河合塾の傘下です。河合塾は、模試が学校採用される場合が多く、河合全統記述模試や共通テスト型模試は、数十万人が受験します。
 河合出版の参考書、問題集も『物理のエッセンス』『数学良問のプラチカ』『入試現代文のアクセス』など、受験界で超定番のものが何冊もあります。また、予備校系の参考書としては、ビジュアルの良さに定評があると思います。
 出版社の信頼性、実績は抜群と言えます。
 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

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【答えは?】リードLightノート(数研出版)生物基礎、生物:医学部対策になる?

 

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東大・医学部受験の生物の勉強法

 

【答えは?】リードLightノート(数研出版)生物基礎、生物 使い方、レベルは?

 

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『リードLightノート』生物基礎、生物の解答、答えは?

 『リードLightノート』生物基礎、生物は、高校生、大学受験生向けの問題集です。おそらく、多くの高校で採用され、カリキュラムの一部となっています。下記で解説するように、優れた問題集だと思います。
 学校で配布される『リードLightノート』は、解答をもらえないことも多いようです。これは、先生が高校生に対して、自分自身で答えを見つけるプロセスを重視し、解答に頼らずに思考力を養うことを目的としていると思われます。
 一方で、『リードLightノート』は書店やamazonでも購入でき、そちらは解答つきとなっています。
 本記事の筆者は、学校採用教材は、解答が配られたほうがいいのではないかと考えます。『リードLightノート』が学校採用され、解答をもらえない場合、市販の物を買ってもいいと思います。

 

『リードLightノート』生物基礎、生物はこんな人におすすめ、レベル

・ゼロから生物を始める人
・生物の知識問題で失点がある人

 

『リードLightノート』生物基礎、生物の使い方

 教科書レベルの穴埋め問題集です。
 リードAの部分では、教科書のような解説に、ところどころ穴埋めがあります。ここだけでもかなり理解をすることができます。
 リードBの部分は用語の一問一答です。
 リードCの部分は問題形式です。

 意外に問題数が多いかと思うかもしれませんが、大切なことはリードA~Cまでくり返し出題され、自然にくり返しの回数を取れるようになっています。ただ、それでも多いと思う人は、とりあえず『らくらくマスター』生物基礎+生物(河合出版)あたりを仕上げるといいでしょう。
 さらに、できなかった問題は✓マークを付け、勉強法の基本の(1)短答問題型の方法で復習し、全問できるようにしましょう。
 リードA、Bはすぐ下に答があります。リードCの答は別冊なので、オレンジペンで答を書き込み、赤下敷きで隠すといいでしょう。

 東大、京大、国立医学部などで合否を分けるのは考察問題ですが、まずはこのレベルの基本がスラスラできることは大前提でしょう。
 教科書などのテキストを熟読することも大切ですが、初中級者の勉強法としては受動的なので、この問題集が完璧になるまでは、この問題集を基幹教材にして、わからないことを教科書などで調べる、といった勉強が成績が伸びやすいと思います。

 

『リードLightノート』は医学部対策になる?

 医学部受験生でも、成績が足りない人は、『リードLightノート』を仕上げることによって、成績を上げることができます。
 さらに、特に、国立医学部の場合、基本的な穴埋め問題と、考察問題の割合が多いケースも多いと思います。すると、物事を根本から理解しようという姿勢がある人は、『リードLightノート』までで、合格点を取れてしまう可能性もあると思います。もちろん、できれば、上位教材や過去問などで、特に、考察問題対策をしたほうがいい人が多いとは思います。
 一方、私大医学部の場合、知識問題は、ひねって問われることが多いので、実際にそのような問題集、過去問をこなさないと、厳しいかな、と思います。

 

『リードLightノート』の後はどうする?

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 リードLightノートでは、入試に必要な知識をかなり習得することができます。一方、問題の形式が入試とはかけ離れているので、入試、模試で点数を取りたい場合、実際の形式に近いもので慣れたほうがいいです。そういう場合、まずは、この2冊が、リードLightノートからの接続が良いと思います。
 『入門』は易しいです。知識はリードLightノートレベルで、出題形式が入試っぽい程度です。解説が非常に親切です。
 『基礎』は、必要な知識自体はほぼ変わりませんが、論述問題、考察問題なども少し入ってきて、ややレベルが上がります。やはり、本文の問題の解説はかなり親切です。

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『生物基礎問題精講』のレベル、難易度

・『リードLightノート』(数研出版)がスラスラできる人
・論述問題、考察問題の初心者

 

『生物基礎問題精講』の使い方

 レベルは、書き込み式ノートである『リードLightノート』(数研出版)とほぼ変わらないと思います。ただし、問題の形式が入試問題らしくなり、論述問題が増えます。
考察問題もあります。

 『リードLightノート』でマスターした基礎知識を入試問題形式で確認する。穴埋め問題ができても論述問題ができない人は多いと思われるので、論述問題の入門として使う。難関大の入試生物は考察問題が合否を分けるので、考察問題の入門編として使う。
といった使い方が考えられます。

 「必修基礎問」が78題。「実践基礎問』が28題。章末の演習問題が47題あります。

 章末の演習問題以外は、問題のすぐ近くに解説と答があるので、使いやすいです。解説も、章末の演習問題ではない、本文の問題は、二色刷りで見やすいです。また、同レベルの問題集の中では、解説の分量が多く、わかりやすいと思います。さらに、解説中に「Point」として、覚えるべきこと、理解すべきことが簡潔にまとまっているコーナーがあることがあります。
 章末の演習問題は、解説が簡潔です。ただし、本文の問題の問題番号とのリンクが付いていて、本書1冊で理解がはかどりそうではあります。
 『リードLightノート』でインプットした知識を、模試、入試の点数に変えるための1冊目として、オススメできます。
 できなかった問題に✓マークをつけ、できるまでひたすらくり返しましょう。

 

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『生物標準問題精講』はどんな人におすすめ?

・『リードLightノート』(数研出版)がスラスラできる人。
・志望大学の過去問を分析し終えて、考察問題、論述問題に慣れたり、難関大でよく出るテーマを知ったりしたい人。

 

『生物標準問題精講』の使い方、レベル、難易度は?

 難関大学の入試生物では、基本知識問題を正解できるのは前提として、考察問題が合否を分けます。
 『リードLightノート』(数研出版)がスラスラできれば、東大、京大、医学部まで含めて、志望大学の生物の入試問題を理解することができると思います。
 知らない用語が出てきた場合、それは考察問題で、出題者も受験生にその用語をあらかじめ知っておくことを要求していない場合が多いと思います。
 まずは、考察問題も、志望大学の過去問を通して慣れると、一石二鳥だと思います。
 その上で、考察問題のトレーニングを積みたい、という場合、『標準問題精講』がいいと思います。

 また、難関大学の入試生物で出やすいテーマというものはあります。
 考察問題の場合、基本知識を元に、初見のテーマに対応することを求められる場合も多いので、問題と答の丸覚えをしたり、的中を期待したりはしないほうがいいかもしれませんが、あらかじめテーマを知っておくと有利になる場合もあると思います。

 問題と解答が別冊になっているので、勉強しやすいと思います。解答、解説は2色刷りです。解説の文字数も多く、図解も親切だと思います。

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 入試標準問題までの難易度が安定していると思います。ここまでを全問解ければ、進研記述模試や河合全統記述模試などの標準レベルの記述模試では、東大の偏差値に近いところまで行くのではないでしょうか。

 

高校生物をわかりやすく教えてください(学研)

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 問題集ではなく、解説書です。生物のそれなりのレベルの解説書では、一番わかりやすいのではないかと思います。ただし、2冊とも分厚いので、通読しようとすると自爆します。あくまでも、わからないことがあったときの調べ物用として使いましょう。
 生物基礎の分野の一部が載っていませんが、載っていないのは、わかりやすい分野ですし、生物基礎については『宇宙一わかりやすい生物基礎』を使うという選択肢もあります。

 

『リードLightノート』の出版社の実績と信頼性

 『リードLightノート』の出版社は数研出版です。
 まず、高校数学の検定教科書の進学校での採用率は圧倒的だと思います。その他、各科目の検定教科書を出版しています。高校理科あたりは、比較的有名だと思います。
 市販の参考書では、数研出版と言えば、数学の『チャート式』が超定番です。他にも追随する類書はありますが、知名度の面からは、『チャート式』が最も有名でしょう。
 数研出版の実績と信頼性は絶大といえます。

 

『リードLightノート』の解答とニーチェ

 ニーチェは、「力への意志」を重視しました。それは、自らの潜在能力を最大限に発揮し、困難に立ち向かう勇気と情熱です。解答なしで学習することは、生徒たちにとって大きな試練となるでしょう。しかし、その試練を乗り越えることで、彼らは真の理解と知識を手に入れることができるのです。ニーチェは、「苦難は人を強くする」と述べましたが、まさにこの状況は、生徒たちを強くする機会と言えます。

 一方、解答付きの市販版の存在は、「パースペクティヴィズム」の観点から考察できます。ニーチェは、物事には多様な見方があり、絶対的な真理などないと説きました。解答の有無という二つの選択肢は、学習に対する異なる視点を提示しているのです。生徒たちは、自分にとってどちらの方法が適しているかを見極め、主体的に選択する必要があります。

 また、ニーチェは「超人」の概念を提唱しました。それは、既存の価値観に囚われず、自ら新たな価値を創造する人間像です。解答なしで学ぶ生徒たちは、自分自身で知識を構築していく過程で、まさに「超人」への第一歩を踏み出しているのかもしれません。彼らは、受動的に解答を与えられるのではなく、能動的に真理を探求する姿勢を身につけているのです。

 ニーチェは、「教育」の在り方についても独自の見解を持っていました。彼は、既存の教育システムを批判し、個人の潜在能力を引き出す教育の重要性を訴えました。解答なしの学習は、生徒一人一人の思考力を最大限に引き出す試みと言えるでしょう。それは、画一的な知識の詰め込みではなく、生徒自身が知識を能動的に構築していく過程なのです。

 ただし、ニーチェは「ニヒリズム」の危険性についても警鐘を鳴らしました。解答がないことで、生徒たちが虚無感に陥る可能性もあります。そこで重要なのは、教師の適切な指導と支援です。生徒たちの挑戦を励まし、時には助言を与えることで、彼らの「力への意志」を支えていく必要があるでしょう。

 リードLightノート生物の解答の有無は、ニーチェの思想を通して見ると、教育の本質的な問いを投げかけています。それは、生徒たちをどのように導くべきかという問いです。解答なしの学習は、生徒たちに大きな試練を与えますが、同時に大きな成長の機会も与えます。一方、解答付きの市販版は、学習に対する別の視点を提供しています。

 重要なのは、生徒一人一人が自分の道を主体的に選択し、歩んでいくことです。ニーチェは、「人間とは乗り越えられるべき何かである」と述べました。生徒たちには、自分自身と向き合い、乗り越えていく勇気が求められています。そして、教師には、その勇気ある挑戦を支える役割が求められているのです。

 リードLightノート生物をめぐる問題は、単なる解答の有無の問題ではありません。それは、教育の本質と、人間の成長の可能性を問う、哲学的な問いなのです。ニーチェの思想は、この問いに向き合う上で、大きな示唆を与えてくれます。生徒たちが、自らの「力への意志」を発揮し、「超人」への道を歩んでいけるよう、私たち教師は、知恵と情熱を持って彼らを導いていかなければならないのです。

 

『リードLightノート』の解答と構造主義

 高校という教育機関は、知識の伝達と評価という役割を担っており、そのために問題集を使用するという行為が行われます。しかし、その問題集の解答の有無によって、生徒たちの間に不平等が生じるという事態が発生しています。これは、教育制度という構造の中で、問題集という要素が持つ意味合いが、文脈によって異なるために生じる矛盾だと言えます。

 学校での使用を前提とした問題集であるにもかかわらず、市販されているという事実は、教育という営みが、商業主義の論理に侵食されていることを示唆しています。知識の獲得という本来の目的よりも、問題集の販売という経済的利益が優先されているのです。このような状況は、教育制度が、資本主義という大きな構造の中に組み込まれていることを浮き彫りにしています。

 さらに、解答の有無という違いが、生徒たちの間に不公平感を生み出しているという点も重要です。これは、教育制度という構造の中で、生徒たちが置かれている立場の違いが、知識へのアクセスの差異につながっていることを示しています。構造の中で優位に立つ者は、知識を独占することができるのに対し、そうでない者は不利な立場に置かれてしまうのです。

 以上のように、『リードLightノート生物』をめぐる問題は、教育制度という構造の中で生じる矛盾や不平等を浮き彫りにしています。これは、構造の中で個人が置かれている立場によって、知識へのアクセスに差異が生じるという、構造主義的な問題系に通じるものがあります。私たちは、このような構造的矛盾を認識し、その解決に向けて努力していく必要があるのではないでしょうか。

 

『リードLightノート』の解答とハイデガー

 この問題は、ハイデガーの思想の観点から見ると、教育という世界の中で生徒という現存在(Dasein)が直面する本来性(Eigentlichkeit)と非本来性(Uneigentlichkeit)の問題として捉えることができます。

 生徒たちは、学校という世界の中に「投げ込まれ」、そこで様々な課題に取り組むことを求められています。『リードLightノート生物』という教材は、その課題の一つとして生徒たちに与えられているのです。しかし、学校が解答を配布しないのに対し、同じ教材が解答付きで市販されているという状況は、生徒たちを非本来的な在り方へと誘惑しているとも言えます。

 ハイデガーは、現存在が日常的に没入している世界の平均的な在り方を「世人性(das Man)」と呼び、それが現存在の本来的な在り方を覆い隠してしまうと批判しました。解答付きの教材を手に入れることで、生徒たちは自ら思考することを放棄し、世人性の規範に従属してしまう危険性があるのです。

 しかし、ハイデガーは同時に、現存在が本来的な在り方を取り戻すためには、「良心の呼び声(Ruf des Gewissens)」に耳を傾ける必要があるとも説いています。生徒たちもまた、自らの良心の声に従って、解答に頼ることなく自ら思考し、理解を深めていく道を選択することができるはずです。その過程では、時に困難に直面することもあるでしょう。しかし、そうした困難を乗り越えていくことこそが、現存在としての生徒たちが自らの存在の本来性を実現していく道なのです。

 また、ハイデガーは、現存在が本来的な在り方を取り戻すためには、「死への先駆的決意性(Vorlaufen zum Tode)」が必要だとも説いています。これは、自らの有限性を直視し、そこから逆照的に自らの存在の意味を見出すことを意味します。生徒たちもまた、自らの学びの有限性を認識し、与えられた時間の中で何をなすべきかを主体的に決断していく必要があるのです。

 教師もまた、生徒たちが本来的な在り方を取り戻すための「呼び声」となる存在であるべきでしょう。解答を安易に与えるのではなく、生徒たちが自ら思考し、理解を深めていくことを励まし、支援していくことが求められています。

 このように、『リードLightノート生物』をめぐる問題は、教育という世界の中で生徒という現存在が自らの存在の意味を問い、本来的な在り方を追求していく過程の一つの局面として捉えることができます。生徒たちには、世人性の誘惑に惑わされることなく、良心の呼び声に従って自ら学び、思考していく姿勢が求められているのです。

 

『リードLightノート』の解答とデリダ

 『リードLightノート生物』という高校採用問題集をめぐる状況は、一見、教育現場での公平性や平等性の問題として捉えられがちです。解答の有無によって、学習環境に差異が生じているように見えます。しかし、この状況の背後には、「教育」や「学習」という概念そのものの脱構築を促す様々な力学が潜んでいます。

 まず、「解答」という存在が示唆するのは、知識の固定化や権威化です。解答は、ある問題に対する唯一の正解を提示し、それ以外の可能性を排除します。しかし、果たして知識とは、そのように固定化され、権威化されるべきものなのでしょうか。むしろ、知識は常に問い直され、書き換えられていくものではないでしょうか。解答の有無という問題は、知識の在り方をめぐる根源的な問いを突きつけています。

 また、「学習」という行為は、しばしば既存の知識を受動的に吸収することと捉えられがちです。解答がついている市販の問題集は、そのような学習観を助長しているように見えます。しかし、真の学習とは、既存の知識を批判的に検討し、新たな知見を創造していく能動的な営みなのではないでしょうか。解答の不在は、学習者に自ら思考し、探究することを要求します。それは、受動的な学習観を脱構築し、能動的な学習の可能性を切り拓く契機となり得るのです。

 さらに、高校による解答の配布の有無は、教育の標準化や画一化の問題を浮かび上がらせます。全ての学習者に同じ解答を提示することは、多様な視点や解釈の可能性を抑圧し、学習を均質化します。しかし、教育とは本来、個々の学習者の特性に応じて多様に展開されるべきものではないでしょうか。解答の配布をめぐる差異は、教育の標準化に抗う契機として捉え直すことができます。

 以上のように、『リードLightノート生物』をめぐる状況は、知識の在り方、学習観の転換、教育の多様性など、様々な問題系を孕んでいます。これらの問題系を脱構築的に読み解くことで、教育の根源的な問い直しが可能になります。解答という存在を相対化し、知識の生成的な性質を肯定すること。受動的な学習観を脱構築し、能動的な探究の可能性を拓くこと。そして教育の標準化に抗い、多様性を育むこと。そのような営みを通して、教育はその可能性を更新していくのです。解答の有無という一見些細な差異が、教育の在り方を根底から問い直す契機となります。そこにこそ、脱構築の生産的な力が宿っているのです。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

 

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