【感想・書評】大学受験生のレジリエンス、回復力(非認知能力の1つ)を育むオススメ本3選

 

非認知能力とは?

非認知能力についてのポール・タフ氏の本

非認知能力を育むボーク重子さんの本

非認知能力の権威、ヘックマン教授の本

小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス)

非認知能力をエビデンスで語る:「学力」の経済学

やる気を育むオススメの本2選

GRIT、やり抜く力を育むオススメの本2選

 

【感想・書評】大学受験生のレジリエンス、回復力(非認知能力の1つ)を育む本3選

 

レジリエンスとは?

 レジリエンスとは,困難で脅威を与える状況にもかかわらず,うまく適応する過程や能力,および適応の結果のことで,精神的回復力とも訳される。従来,心理学においては,個人が困難な状況や脅威にさらされる状況を長い間経験することは,なんらかの問題を生じさせるものであるという考え方が通例であった。しかし,長期間にわたる大規模な追跡調査が行なわれるようになるにつれて,悲惨な出来事を経験しているからといって,必ずしもつねに不適応状態に陥るわけではないこと,そのような経験をしていたとしてもうまく適応する人びとが少なくない割合で存在していることが明らかにされた。(最新 心理学辞典より)

 

大学受験におけるレジリエンス(回復力)の重要性

 大学受験におけるレジリエンスとは、忍耐力、適応力、挫折から立ち直る力など、多面的な資質を指します。このような試験におけるレジリエンスの重要性は、さまざまな観点から理解することができます。

 

大学入試は難しい

 入試、特に名門校の入試は非常に難しいです。試験科目に関する知識だけでなく、時間管理、ストレス管理、プレッシャーの下で批判的に考える能力も試されることが多いです。レジリエンスは、受験生がこうした試練を乗り越えるのに役立ちます。

 

競争率が高い

 多くの大学入試では、限られた席数を何千人、何万人という受験生が争います。このような厳しい競争では、挫折や失望はほとんど避けられません。レジリエンスがあれば、受験生はやる気を失うことなく、こうした困難を乗り越えることができます。

 

失敗に対処する

 すべての生徒が初めての大学受験で成功するとは限りません。レジリエンスがあれば、生徒は失敗を乗り越えられない挫折としてではなく、学習経験としてとらえることができます。チャレンジは学び、成長する機会であるという成長思考を促します。

 

健康の維持

 受験勉強は精神的にも肉体的にも疲れるものです。レジリエンスは、ストレスに対処し、燃え尽き症候群を避け、必要なときにはサポートを求めることによって、受験生が幸福を維持できるようにする役割を果たします。

 

大学入試は長きにわたる勝負

 受験勉強は、最低でも数ヶ月、数年を費やす人もいます。この間、個人的な問題、学業上の苦闘、入試の傾向の変更など、複数の困難に直面することもあります。レジリエンスがあれば、このような困難にも負けず、目標に集中し続けることができる。

 

変化への対応

 大学入試の形式、出題傾向などが変わることがあります。レジリエンスのある学生は、このような変化に素早く適応し、それに応じて準備戦略を調整することができます。

 

大学受験以外のスキル

 大学受験準備中に培われるレジリエンスは、大学受験を乗り切るために役立つだけではありません。貴重なライフスキルも身につけることができます。大学やその先で、学生は困難に直面することになりますが、レジリエンスがあれば、それらをうまく切り抜けることができます。

 

粘り強さを促す

 レジリエンスのある人は、困難に直面してもあきらめません。この特性により、困難に直面しても全力を尽くすことができ、大学合格の可能性が高まります。

 

 要するに、大学受験で成功するためには、知性、受験勉強、資源がすべて不可欠ですが、レジリエンスは、特に逆境に直面したときに、これらの要素をまとめる基礎として機能します。レジリエンスは、受験生が受験勉強の過程における障害に対処し、挫折から立ち直ることを確実にするものであり、競争試験という文脈ではかけがえのない特性なのです。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(大和書房)

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』の著者の実績と信頼性

 『スタンフォードの自分を変える教室』(大和書房)がベストセラーになった、スタンフォード大学の心理学者、ケニー・マクゴニガルさんの著書です。実験や研究の裏づけがある、ちゃんとした本です。
 実績はあり、信頼性はエビデンスに基づくものです。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』の書評、感想:ストレスはレジリエンスを高める

 題名や下記の目次のように、ストレスは力に変えることができる、役に立つ、という本です。多くの人は、ストレスというとネガティブなイメージを持つことが一般的ですが、この本はそういった一般的な見方を覆す内容となっています。私自身も、読んでいく中で、これまでのストレスに対する固定観念が揺らぎ始めました。
 そもそも、ストレスによる反応は、なにか人類の生存にプラスだったから、今生きている私達にも備わっているのでしょう。太古の昔、たとえば人類が猛獣に出会うなど身の危険を感じたとき、「心拍数が上がり、呼吸が速くなり、筋肉が緊張して、瞬時に活動を起こせるように」できる、などのメリットがあったのでしょう。この「闘争・逃走反応のおかげで命拾いをしてきた」そうです。

 一方、現代社会では、ストレスは悪であると語られ、多くの人々は、ストレスを避けるためにあらゆる手段を講じる傾向があります。たしかに、科学的には「コルチゾール」というストレスホルモンが分泌され、慢性化すると免疫機能の低下、うつ病などの症状が表れる可能性があります。
 現代社会はストレスが慢性化しがちなのですね。大学受験生も、慢性的にストレスを感じていることでしょう。

 『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』によると、一時的なストレスについては私達の味方。「ストレスは良い効果がある」とマインドセット(心の持ちよう)を変えるだけで、コルチゾールの作用を抑制し、創傷の治癒を高め、免疫機能を高めるなどの働きがあるDHEAが多く分泌され、ストレスに強くなるそうです。つまり、回復力、レジリエンスを高めるということですね。
 一時的なプレッシャー、緊張、不安などには「ワクワクしてきた」などと考えるのがいいそうです。ぜひ、大学受験本番で緊張したときには、実践したいですね。

 さらに驚いたのは、ストレスの反応は「闘争・逃走反応」だけでなく、人との絆を強化する効果や、新たな学びや成長のキッカケを作る力も秘めていること。この一冊の本が、私たちの日常におけるストレスとの向き合い方を、よりポジティブに、そして健康的にするヒントを提供してくれたのです。

 この新しい視点は、ストレスとは一面的なものではなく、その多面性を理解することで、より良い日常を送るためのツールとして利用することができるのだと、深く感じました。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』まとめ

 『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』は私たちが普段感じるストレスという通常はネガティブな要素を、驚くべきことにポジティブなエネルギーへと逆転させる、つまり、レジリエンスを高める方法を明らかにしてくれる画期的な一冊です。この本は、ストレス反応の本質と、それを人間の利益に役立てる方法を紐解くことで、人生をより豊かで健康的なものにするための新しい道を示してくれます。もちろん、大学受験も有利になるでしょう。この本のページをめくるたび、ストレスの科学的な背景や、その真実の深淵を知ることができ、私たちの生活の中でのストレスの位置づけを再考させられます。

 本書を読むことで、ストレスは敵ではなく、時には私たちの最良の味方として機能することを学びます。この新しい視点は、日常生活におけるさまざまなストレスの状況をどのように受け止め、またどのように向き合っていくべきかのヒントを数多く提供してくれます。

 提案されているストレスに対する新しいアプローチを理解することは、ストレスに対処するための選択肢を増やすことができると思います。ストレスに対する受容的な態度を持ち、ストレスが人生においてポジティブな役割を果たすことができるという考え方により、ストレスを受けたときにパニックに陥ることなく、冷静に対処することができるようになると思います。

 特に印象的だったのは、ストレスの反応やそれをうまく利用する方法に関する具体的なケーススタディや研究結果の数々です。それらを通じて、私たちがストレスというものをどのように感じ取り、それにどう反応するかの心理的なメカニズムについて深く理解することができます。これにより、ストレスがもたらす肉体的・精神的な影響をよりよく知り、自らの生活に適切に取り入れることができると確信しています。

 また、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』では、ストレスに対するポジティブなアプローチが、学校や職場などの集団にも適用されることを強調しています。たとえば、学校や職場でのストレスに対処するためには、ストレスが学習や仕事の成果に寄与することを示すことが重要であり、さらには、ストレスを減らすための支援やリソースを提供することも必要だと思います。

 全体的に、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』は、ストレスについての一般的な見方を変え、より前向きなアプローチを与えてくれると思います。この本を読んで「ストレス」に対する認識が大きく変わりました。もはやストレスは避けて通れない敵ではなく、正しく理解し、適切に対処することで力に変えることが可能な存在と捉えることができると思います。ストレスを認識し、扱い、活用するためのツールを提供することにより、私たちはより健康的で幸福な人生を送ることができると感じました。ストレスを経験している人々、またはストレスに対して興味がある人々にとって、この本は非常に役立つと思います。

 これからのストレスフルな状況に対する新たな視点を得るために、ぜひこの本を手に取ってみてください。

 以下は、『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』には書いていない話です。
 とはいっても、現代社会はストレスが慢性化しがちです。そんなときは、一番手軽なのは、自然に触れ合うと、副交感神経が優位になり、唾液中のコルチゾール濃度も下がるという大学の研究があります。[1]
 本物の自然ではなく、自然の映像、音だけでも、かなりの効果があるという研究があります。

 

『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』の目次

Introduction-考え方を変えれば、人生が変わる
part1 ストレスを見直す
 1.全ては思い込み
 -「ストレスは役に立つ」と思うと現実もそうなる
 2.ストレス反応を最大の味方にする
 -レジリエンスを強化する
 3.ストレスの欠如は人を不幸にする
 -忙しい人ほど満足度が高い
part2 ストレスを力に変える
 4.向き合う
 -不安は困難に対処するのに役立つ
 5.つながる
 -いたわりがレジリエンスを生む
 6.成長する
 -逆境があなたを強くする
 7.おわりに
 -新しい考え方は、ひっそりと根を下ろす

 

脳を鍛えるには運動しかない!(NHK出版)

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2009年第1刷。

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の著者の実績と信頼性

 ハーバード大学医学部准教授(現在は教授らしい)のJohn J. Ratey先生です。他にも『GO WILD 野生の体を取り戻せ! 科学が教えるトレイルラン、低炭水化物食、マインドフルネス』といった著書があります。
 医学部の先生がおかしなことを言ったら、研究生命が絶たれますから、著者の実績と信頼性は絶大と言えます。

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の目次

1.革命へようこそ-運動と脳に関するケーススタディ
2.学習-脳細胞を育てよう
3.ストレス-最大の障害
4.不安-パニックを避ける
5.うつ-気分をよくする
6.注意欠陥障害-注意散漫から抜け出す
7.依存症-セルフコントロールのしくみを再生する
8.ホルモンの変化-女性の脳に及ぼす影響
9.加齢-賢く老いる
10.鍛錬-脳を作る

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の感想、書評:有酸素運動はレジリエンスを高める


 
この度、私が手に取った『脳を鍛えるには運動しかない!』は、単なる運動論の本ではなく、その根拠となる科学的なエビデンスが豊富に織り込まれています。著者は、行われたさまざまな実験や研究の結果をもとに、運動と脳の関係性を語っており、その中でも特に有酸素運動が脳に及ぼすポジティブな影響について詳しく解説しています。

 読み進める中で、私は運動時に身体で生成されるさまざまな化学物質の名称やその働き、そしてそれらが脳や心の健康にどのように影響するのかを学ぶことができました。これまで私たちが「運動は健康に良い」と感じていた理由が、これらの化学物質の働きによるものであることを知ると、ますます運動の大切さを実感することができました。

 本書の中で特に心に残ったのは、有酸素運動を行うことで学習能力が向上するという点です。大学受験も有利になるということですね。これは、運動をすることで脳の働きが活性化され、新しい情報を効率よく取り込むことができるようになるからです。また、ストレスや不安といったネガティブな感情に対しても、運動の力で克服することができるという内容も非常に興味深いものでした。

 そして、最も印象的だったのは、「レジリエンス」についての言及です。レジリエンスとは、困難な状況に直面しても、その状況を乗り越えるための心の強さや適応力を指す言葉です。運動をすることで、このレジリエンスが高まり、日常生活の中でのストレスや不安に立ち向かう力が増すというのは、非常に魅力的なポイントだと感じました。

 

走ることは苦しくないし、早足でもいい!

 学校時代の思い出をたどると、体育の授業は決して欠かせない時間でした。青い空の下、緑の校庭での球技や各種のアクティビティー。しかし、そんな楽しいと感じる時間でも、真剣に取り組む球技の合間の休憩や、指示を待つ時間など、実際に動いていない時間も少なくありませんでした。私たちが考える「体育の時間=運動の時間」というイメージに疑問を持つことは、あまりなかったのではないでしょうか。

 特に冬の季節、多くの学校で行われる「持久走」。冷たい空気を切り裂くように走る感覚は、一見健康的に感じられるものですが、全力で駆け抜けるその経験は、多くの生徒にとって苦しいものでした。その結果、走ること自体に対してネガティヴな感情を持つ人が増えてしまっているという現状に、私は少し心を痛めました。

 しかし、心地よい運動には、過度な負荷は必要ではありません。実際、早足のウォーキングだけでも、私たちの体には十分な効果があるのです。そして、その効果は単なる身体の健康だけに留まらず、セロトニンやBDNFといった、精神の安定や脳細胞の新生を助ける物質の生成にも繋がるのです。
 このセロトニンが生成されることで、私たちの心は安定します。ということは、困難な状況にも柔軟に対応する「レジリエンス」が高まるということです。
 また、BDNFにより脳細胞の新生が促進すれば、大学受験にも有利ですよね。

 さらに、日常の中で早足のウォーキングを習慣化してから、少しペースを上げてジョギングを取り入れる、または短時間の激しい運動をすることで、BDNFの生成が促進されるというのは驚きの事実です。 

 この、適度な運動が生み出す精神的安定や脳細胞の新生を促す力などは、驚くべき効果だと思いました。このことは、日々の生活の中で運動を取り入れるという行為が、ただの健康維持だけでなく、私たちの精神的な安定や脳の健康にまで大きな影響を与えることを示していると思いました。

 『脳を鍛えるには運動しかない!』は、読者にとって、自身の身体と脳の健康を最大限に引き出し、レジリエンスを高める一冊だと思います。多くの科学的知見に基づいて書かれているこの本は、運動が身体だけでなく、脳に対してもどのような効果をもたらすのかを深く理解するための鍵となると思います。

 総じて、運動は、健康的な脳と身体のために必要不可欠なものであることがわかりました。また、私たちは運動に取り組むことで、健康上の利益だけでなく、精神的な健康にも多くの利益をもたらすことができることを学びました。私たちが運動を取り入れるモチベーションを高め、生活に変化を加える助けにもなると思いました。

 

『脳を鍛えるには運動しかない!』の出版社の実績と信頼性

 『脳を鍛えるには運動しかない!』の出版社は、NHK出版です。日本放送協会(NHK)の関連会社です。NHKEテレの番組用のテキストなどが有名です。本書のような、一般書も出しています。
 NHK出版の実績と信頼性は絶大と言えます。

 

世界のエリートがやっている最高の休息法(ダイヤモンド社)

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『世界のエリートがやっている最高の休息法』の著者の実績と信頼性

 イェール大学医学部精神神経科卒業の医師の久賀谷亮先生です。日本、イェール大学で先端脳科学研究に携わり、論文も多数、執筆されているのに加え、臨床医としての経験も豊富のようです。趣味はトライアスロンだそうです。
 著者の実績と信頼性は高いと思われます。

 

『世界のエリートがやっている最高の休息法』の書評、感想:マインドフルネス瞑想はレジリエンスを高める

 2016年7月発売。
 著者の久賀谷亮先生は、大学の役職は無いようですが、論文を多数執筆され、また、本書も巻末に引用した論文などがたくさん載っており、ありがちなトンデモ本ではなく、ちゃんとした本だと思います。
 そして、『世界のエリートがやっている最高の休息法』は、上記のように、科学的根拠に基づいた、難しい話になりがちです。それを、イェール大学の女性研究員とその伯父の経営するベーグル店をめぐるストーリー仕立てにして、わかりやすくしているのだと思います。(ゴーストライターは存在するかもしれないですね(笑)。) 

 日常の喧騒から時折距離を置き、自分をリセットすることの大切さを感じたことはありませんか?私たちが忙しい日常を送りつつも、心の安らぎを求めるとき、どのように自分を労って休むかは、非常に大切な課題です。そんな我々の心のオアシスとなるような指南書が、『世界のエリートがやっている最高の休息法』であります。この本は、現代の疲れた脳を労る、つまり、レジリエンスを高めるためのアドバイスが満載で、確かな科学的研究を元に、心地よい休息の方法を深掘りしています。

 初めてこの本のタイトルを目にしたとき、興味をひかれたのは私だけではないでしょう。『世界のエリートがやっている最高の休息法』というタイトルからは、トップランナーたちがどのようにして自分をリフレッシュしているのか、その秘密に迫ることができるのではないかと期待が膨らみます。そして、その期待を裏切ることなく、実際、グーグル、フェイスブック(現メタ)、といった、世界の超有名企業や、個人のエグゼクティブ、起業家が取り入れている様々な休息法が具体的に、そして分かりやすく紹介されています。

 驚かされるのは、我々が普段「休む」と感じている時間でも、脳は意外と働いているという事実。静かに部屋でぼんやりしている時間や、何も考えずに空を眺めている時間、その時の脳は実は「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」という機構が動いていると指摘されています。これは、休んでいるつもりでも、実際には脳が休まっていないという意味で、その発見には驚きを隠せませんでした。

 さて、真の休息を得るための手法として、この本が提唱するのが「マインドフルネス」という瞑想法。多くのトップ企業や成功者たちが実践しているその方法は、宗教的な要素を取り除いた純粋な瞑想法で、ここという瞬間、今という時間に意識を集中させることで、真の休息を追求するものです。心の中に湧き上がるさまざまな感情や考えを静かに観察し、そのままに受け入れる。このシンプルな行為が、驚くほどのリフレッシュ感をもたらしてくれるのです。

 「マインドフルネス」は、『世界のエリートがやっている最高の休息法』では「評価や判断を加えずに、いまここの経験に対して能動的に注意を向けること」としています。いわゆる一般的な瞑想のイメージは、座禅を組んで、呼吸という「いまここの経験」に「注意を向ける」ものでしょう。

 

食事瞑想、歩行瞑想で脳を休める

 『世界のエリートがやっている最高の休息法』では「食事瞑想」という新しい形の瞑想方法を提唱しています。
 上記のように座禅を組んで、呼吸という「いまここの経験」に「注意を向ける」のではなく、「食べている感覚に注意を向ける」。食事しながらできますから、ハードルが低いですよね。ベーグルを食べるときには

薄茶色でつるっとした表面。ところどころに凹凸がある。手にとって匂いを嗅ぐ。渇いていた口の中に、少し唾液が出たことに気づいた。ベーグルを口へ運ぶ。その時の筋肉の動きは?ベーグルを噛みちぎる。噛み切られたその欠片は、どんなふうに口の中を動いているだろうか?ベーグルが構内の粘膜に触れる感覚。唾液がさらに増える感じ。当然、味も感じられる。小麦、チーズ、玉ねぎ、いつもよりそれらの味わいに注意を向けた。最後にベーグルを飲み込む。喉を通るときの感覚、胃の中に落ちていく感じ。

といったように、「食べている感覚に注意を向ける」。
 この、食べるときの感覚を詳細に感じ取り、食べていることに集中するというこの手法は、我々が日常的に行う行為に新たな意味を付与してくれると思いました

 また、『世界のエリートがやっている最高の休息法』ではハードルが高いとされていますが、「歩行瞑想」が挙げられています。マインドフルネスを歩行中に行おうというものです。歩くと言っても、そのメカニズムはとても複雑です。だから、本書では「ハードルが高い」としているのでしょう。とりあえず、「足の裏が地面に着いた、離れた」だけにひたすら集中すればいいのではないでしょうか。私達は、一日のあらゆる場面で歩きますから、歩行のメカニズムは複雑とはいえ、お気軽にできると思います。

 これらを実践することにより、レジリエンスが高まるのだと思います。

 また、近年は、以前考えられていたよりも、脳は可塑性(変化できる)を持つとされています。『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋)にも、脳の可塑性について書かれていて、現在の自分より、ほんの少し上のトレーニングを続けることにより、脳の神経回路を構築すれば、物事は効果的に上達する、といったことが書かれています。これは、大学受験生をおおいに勇気づけると思います。

 

マインドフルネス瞑想はメタ認知、自制心も高める

 『世界のエリートがやっている最高の休息法』に載っている、研究に基づいたマインドフルネスによる脳の変化を挙げます。
・尾状核(不要な情報を除いて注意を向けることに関与)
・嗅内野(心がさまようのをとめることに関与)
・内側前頭前皮質(自己認識や統制に関与)
・大脳皮質(脳の表層の最も進化した部分)
・老化による脳の萎縮に対する効果
・左海馬、後帯状皮質、小脳で灰白質の密度増加(記憶に関連)
・前頭極(メタ意識)
・感覚野と島(身体感覚への気づき)
・前帯状皮質、眼窩前頭皮質(自己や感情の調整)
・上縦束と脳梁(左右の大脳半球の交通)
 これらは、脳という驚異的な器官の可能性を証明していると思いました。

 上記のうち、「自己認識」「メタ意識」は、自分の状況を把握する、自分の理解度を把握する「メタ認知」という非認知能力の1つと言えるでしょう。また、「自己統制」は「自制心」「忍耐」といった、非認知能力でしょう。マインドフルネス瞑想により、これらの非認知能力も高まりそうだ、ということです。

 本書に書いてあることを実行することにより、本書のテーマ通り、勉強しても疲れにくい脳を構築する、つまり、レジリエンスを高めることがことができるでしょう。また、上記のように、「注意を向ける」「記憶に関連」といった能力が高まれば、当然、大学受験にもプラスに働くと思います。   
 受験生は、本書のような、最先端の科学的知見を取り入れ、受験を少しでも有利に戦うことを心がけることが大切だと思います。

 『世界のエリートがやっている最高の休息法』は、深い洞察と具体的な実践方法を兼ね備えた一冊で、読んだ全ての人々が自分自身の休息法を見直すきっかけとなるでしょう。私自身、この本を読んで得た知識を活用し、より質の高い休息を得る、レジリエンスを高めるために努力を続けるつもりです。

 

『世界のエリートがやっている最高の休息法』の目次

0.先端脳科学が注目する「脳の休め方」
1.「疲れない心」を科学的につくるには?
 ー脳科学と瞑想のあいだ
2.「疲れやすい人」の脳の習慣
 ー「いま」から目をそらさない
3.「自動操縦」が脳を疲弊させる
 ー集中力を高める方法
4.脳を洗浄する「睡眠」×「瞑想」
 ーやさしさのメッタ
5.扁桃体は抑えつけるな
 ー疲れを溜め込まない「不安解消法」
6.さよなら、モンキーマインド
 ーこうして雑念は消える
7.「怒りと疲れ」の意外な関係性」
 ー「緊急モード」の脳科学
8.レジリエンスの脳科学
 ー瞑想が「折れない心」をつくる
9.脳から身体を治す
 ー副交感神経トレーニング
10.脳には脳の休め方がある
 ー人と組織に必要な「やさしさ」

 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【感想・書評】非認知能力をエビデンスで語る:「学力」の経済学(ディスカヴァー)

 

非認知能力とは?

非認知能力についてのポール・タフ氏の本

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【感想・書評】「学力」の経済学(ディスカヴァー):個人の経験よりエビデンスで学力向上へ

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 2015年6月18日発売。

 

『「学力」の経済学』の著者の実績と信頼性

 著者は、2022年現在、慶應義塾大学総合政策学部教授の中室牧子先生です。SFCでは、かの竹中平蔵先生の研究会で学ばれたそうです。その後、日本銀行に就職。コロンビア大学博士課程で教育経済学に出会い、現在のご専門にされています。
 全体としてエビデンスに基づいて論じられ、巻末に、引用した論文などがたくさん載っている、ちゃんとした本だと思います。
 著者の実績と信頼性は抜群だと思います。

 

『「学力」の経済学』の感想・書評

 

教育界はエビデンスより個人の経験で語られる現状

 『学力の経済学』という一見専門的なテーマを扱ったこの本が、多くの親や教育関係者にとって重要な意義を持つことを確信しています。私たちが普段目にする教育の成果や学習方法に対する一般的な考え方を、経済学という独特のレンズを通して再評価することで、新たな視点と洞察が得られると思います。

 『「学力」の経済学』の第1章は「他人の”成功体験”はわが子にも活かせるのか? データは個人の経験に勝る」と題されています。「どこかの誰かが子育てに成功したからといって、同じことをしたら自分の子どもも同じように成功するという保証は、どこにもありません」と述べています。一見すると直感的であるかもしれませんが、私たちが日常的に行っている教育行為に対する影響は深刻です。

 たとえば、お子さんを全員、ある超難関大学の超難関学部に合格させたママが、精力的に本を出し、講演などもされているそうですが、おそらく研究者となるであろうお子さん達は、ママの科学的根拠のないこの行動をどのように考えているのでしょう。
 塾長も何冊かこのママの著書を拝読しましたが、「身の回りのことをなんでもやってもらっている子は、自己管理ができず、だから成績が悪い場合が多いよな」と思います。個人の体験談は、家庭環境の違いなどが考慮されません。

 それに対し、塾長は、大学教授(主にアメリカ)の書いた、巻末に引用した論文がたくさん載っているような本もたくさん読んでいます。どうも、大学教授の書いた本のほうが、現場での感覚に当てはまることがほとんど、のようです。本書のテーマも科学的根拠(エビデンス)のようです。
 日本の経済財政諮問会議で、教育再生が議論に上った途端、財務大臣や経済再生大臣など、およそ教育の専門家と言えない人が「私の経験によると…」と主観的な持論を展開するそうです。財政政策や経済政策について、文部科学大臣が主観論を展開することなどありえないのに。
 そのような公の場のみならず、どうも、教育については、「1億総評論家」状態で、素人の思いつきで「自分の子供は東大や医学部に合格できる」と思いこんでいる場合がほとんどのような気がします。そして、多くの場合、家庭教育がうまくいっていない。

 たとえば、大学受験塾チーム番町から100mほどのところに、囲碁の総本山、日本棋院があります。囲碁というゲームは、盤に何も置かれていない対等な状態から、黒石と白石を交互に置き、勝負します。しかし、普通のアマチュアがプロ棋士と対局したら、100回やって100回全部、ボロボロに負けます。教育も同じだと思うのです。プロの名人からアマチュアの20級くらいまでの実力者があって、大差がつく。

 一方、アメリカで2001年に成立した「落ちこぼれ防止法」では、111回も「科学的根拠に基づく」という文言が使われているそうです。
 本書『学力の経済学』は、親や教育関係者、政策立案者にとって、どのように教育を再考し、子どもたちの学力を最大限に引き出すかという重要な問いに答えるための指南書と言えるでしょう。これまでの教育習慣に挑戦し、科学的根拠に基づく新たなアプローチを提供してくれる本書を、多くの人が読み、そのその洞察を活かすことを強く推奨します。

 

「勉強しなさい」はエネルギーの無駄遣いというエビデンス

 「勉強しなさい」と言うのが逆効果、というのは、気鋭の現場の指導者の中では通説になっていると思います。『「学力」の経済学』では、研究によると、母親が娘に言うのは逆効果、それ以外の場合もほぼ効果はない、としています。それなら、どうすればいいか、ということについて、述べられています。
 これは、伝統的な教育手法に対する挑戦であり、現代の教育現場でより効果的なアプローチを模索するための重要な手掛かりとなると思います。

 また、「友だちが与える影響」として、
・同じ学級や学年の子どもたちの平均的な学力から受ける影響
・優秀な同級生から受ける影響
・問題児から受ける影響
・習熟度別学級から受ける影響
について、エビデンスを基に、述べられています。
 これらの情報は、子どもたちの学力に影響を与える多様な要素を理解するための重要な手がかりを提供していると思います。
 エビデンスに基づいて書かれた他書でも、「成功」との相関係数は、「技術的なもの」よりも「自己効力感(自信)」のほうが大きい、などと書かれています。進学実績がやや良い高校の下位層よりも、進学実績がやや及ばない高校の上位層のほうが、大学受験で成功するのは、技術面以外に、心理面、自信の影響も大きいのだろうと思います。

 

非認知能力は大切というエビデンス

 『「学力」の経済学』の第3章では、「非認知能力」について述べられます。
 「非認知能力」として、ここでは、自己認識(自信、やり抜く力)、意欲、忍耐力、自制心、メタ認知ストラテジー(自分の状況を把握する)、社会的適性、回復力と対処能力、創造性、などが挙げられています。
 非認知能力はペーパーテストと対極なものとして語られがちですが、本書では「学歴」にも大きく影響することがノーベル経済学賞も受賞したヘックマン教授などの研究で明らかになっている、としています。
 まあ、そのような研究を待つまでもなく、やり抜く力、意欲、自分の状況を把握する、といった能力が高い人のほうが、大学受験の点数が高くなるのは当然ですよね。
 また、本書で挙げられている、これらの非認知能力は、教育やトレーニングで鍛えて伸ばせる、人から学び、獲得するものである、ということも大切でしょう。

 

非認知能力の育み方のエビデンス

 『「学力」の経済学』では、やり抜く力については、『GRIT やり抜く力』(ダイヤモンド社)で有名なペンシルバニア大学の心理学者、ダックワース教授の名前も出てきます。やり抜く力に特化した解説の場合、『GRIT やり抜く力』を読むといいでしょう。課外活動を奨めている点も、本書と共通しています。また、マインドセット「やればできる!」の研究(草思社)の著者、スタンフォード大学の心理学者、キャロル・S・ドゥエック教授の名前も出てきます。マインドセット「やればできる!」の研究は、「能力は努力によって後天的に伸ばすことができる」という「しなやかマインドセット(心の持ちよう)」を持つことが大切であることが述べられています。
 その他、本書では「細かく計画を立て、記録し、達成度を自分で管理する」ことが、「自制心」を鍛えるのに有効であるという研究が多数ある、としています。普通の公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された、原田隆史先生は、生徒に「日誌」をつけるよう指導していました。つれづれに、思ったことを書く「日記」ではありません。1日のうちに、すべきことをあらかじめ書いておき、実際に実行できたかをチェックし、毎日、段差の小さい階段を登っていく。それを続けると、結局は、とんでもないところに到達できる、というものです。塾長は、「自制心」のみならず、「自分の状況を把握する力」も鍛えられるのではないか、と考えています。
 塾に保護者の方が出てくるようなご家庭は、日頃から、なんでも保護者の方がやってあげるので、子どもが「自分の状況を把握する力」が低い傾向があるように思います。したがって、大学受験の成績も上がらない。その他、意欲といった非認知能力についても、保護者の過干渉により、「興味、好奇心」「自分の人生を生きているという感覚」が失われているのではないか、というのが、気鋭の現場の指導者の中では通説になっていると思います。
 さらに、本書では、山形大学の窪田准教授らの研究により、しつけが「勤勉性」という非認知能力に因果関係を持つことが明らかになったことを紹介しています。『学力の経済学』は、教育における疑問に科学的な視点からアプローチを試み、教育についての誤解を解き明かしています。一見直接的な結果を示さないようなしつけでも、長期的な視点では子どもの成長に大きな影響を及ぼすことが示唆されます。
 塾長の経験からも、人間的にしっかりしている人は、大学受験の成績の伸びが大きいと思います。

 

エビデンスとは?

 教育については、世の中ではまずまず信頼に足るとされているようなメディアが、「専門家」などとして、平気で1塾講師の個人的見解を記事にしている事が多いです。また、情報源は、1東大生の親、1東大生であったりします。

 『「学力」の経済学』では最後に、科学的根拠、エビデンスの信頼性の階層について述べられます。読者は様々なエビデンスの信頼性を正確に理解することができると思います。
 本書では、最も信頼性の高いのは「ランダム化比較試験」としています。「ランダム化比較試験」は、クジや抽選でランダムに2つのグループに分け、介入を行うグループと行わないグループの差を計測するものです。更に上位に「複数のランダム化比較試験のメタ分析(複数の研究の分析)」を挙げる場合もあります。
 先述のアメリカの「落ちこぼれ防止法」では、「エビデンスとはランダム化比較試験に基づくもの」であると明言されているそうです。
 本書では、エビデンスの階層を

・ランダム化比較試験
・非ランダム化比較試験
・分析疫学研究
・症例報告
・論説・専門家の意見や考え

としています。「専門家の意見や考え」はエビデンスの最下層なのですね。専門家ですらない、東大、医学部合格者や、その関係者の個人的体験談などは、科学的根拠という面からは、論外なのですね。改めて、日本の教育、メディアはデタラメだなあ、と思いました。

 

『「学力」の経済学』の目次

1.他人の”成功体験”はわが子にも活かせるのか?
 データは個人の経験に勝る
2.子どもを”ご褒美”で釣ってはいけないのか?
 科学的根拠(エビデンス)に基づく子育て
3.”勉強は本当にそんなに大切なのか”
 人生の成功に重要な非認知能力
4.”少人数学級”には効果があるのか?
 科学的根拠(エビデンス)なき日本の教育政策
5.”いい先生”とはどんな先生なのか?
 日本の教育に欠けている教員の「質」という概念
補論:なぜ、教育に実験が必要なのか

 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅100m 東大卒の塾長による個別指導

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【感想・書評】小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス):非認知能力(自己肯定感、共感力)を育む

 

非認知能力とは?

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【感想・書評】小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス):非認知能力(自己肯定感、共感力)を育む

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『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』の著者の実績と信頼性

 2018年9月の新刊です。
 慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄先生の著書です。高橋孝雄先生は1957年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業です。アメリカのマサチューセッツ総合病院小児神経科で勤務したり、ハーバード大学医学部の神経学講師を務められたりもしました。
 特に論文が引用されているわけでも、エビデンスに基づいているわけでもありません。しかし、高橋孝雄先生は、慶應義塾大学医学部小児科教授という地位のある人なので、デタラメなことは書けないでしょう。高橋孝雄先生の経験と意見の書かれた本ではありますが、それは、医学部小児科教授として、多くのお子さんを見てきた経験と意見なので、信頼度は高い本だと思います。

 

『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』の書評、感想

 

まえがき

 まず、何より最初に、小児科医として子どものしあわせを願っていることが書かれています。
 これは、塾長も同じ思いです。受験というものは、子どもの幸せのための手段です。しかし、それが目的化してしまい、親子の断絶が生じ、幸せになるための手段であるはずの受験で、家庭が不幸になってしまう。あってはならないことが、世の中では多く起きていることに、悲しみを覚えます。

 

「トンビがタカを産む」は遺伝的にありえない?

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』では、「トンビがタカを産」んだように見える場合、実は、両親も「タカ」だった可能性が高い、と述べています。家庭の事情や時代状況などで、表に出なかった、と。「突然変異」にみえるものも、遺伝子の振り幅の範囲内にすぎない、と。

 一方、たとえば、同じ慶應義塾大学で行動遺伝学がご専門の文学部教授の安藤寿康先生は、著書『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』 (講談社現代新書)

テストの成績などは、遺伝50%、遺伝に還元されない家庭環境30%、教え方や本人の変化20%

と述べています。安藤寿康先生も、遺伝の影響が大きい、というニュアンスで述べているようです。しかし、遺伝以外の要因が残り半分もあるのに、あきらめていいのでしょうか?家庭に介入して、きちんとした勉強のしかたを教えれば、いいだけではありませんか。

 また、フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授の、巻末に引用論文、文献などがたくさん載っている、ちゃんとした著書『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋)では、現在の自分を少しだけ超える「限界的練習」を課すことにより、脳の神経回路は、かなり書き換えることができる、能力を伸ばすことができる、としています。

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』でも、後ろの方のページで、
・「遺伝子はON(発現)、OFFがあ」り、環境に順応することができる
・苦手なことも努力で克服できる余地がある
といったことを述べられています。
 高橋孝雄先生も、何事も遺伝の影響が大きいから、あきらめろ、と言いたいのではないのだと思います。

 

非認知能力:共感力、自己肯定感、意思決定力を育む

まず、「共感力」、「意思決定力」(自分のことは自分で決める)、「自己肯定感」が大事、などとおっしゃっています。これらは、学術的にも、認知能力(ペーパーテストで計測される能力)に対し、「非認知能力」と言われるものです。非認知能力が認知能力、学歴にも大きく影響することは、ノーベル経済学賞も受賞したヘックマン教授らの研究で明らかになっています。
 「意思決定力」については、世界陸上400mハードルで銅メダルを2回獲った、為末大さんは「自分の人生を生きている、という感覚が一番の才能で、後天的に最も与えにくい」と述べています。塾長も、いい歳をして塾に親が出てくる学業不振の高校生を見て、そうなのだろうな、と思います。今までの人生のどこかで、すでに「意思決定力」を喪失してしまったのだろう、と。
 「自己肯定感」と「自己効力感」は、似ていて、やや非なるものかと思いますが、「成功」との相関係数は、技術的なものよりも、自己効力感のほうが高いことが、数多くの研究から明らかになっています。

 

結局、高橋孝雄先生の言いたいことは?

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』のまえがきにあるように、子どものしあわせを願っているのだと思います。
 そのために、加熱しがちな早期教育や、保護者の方の過剰な不安をたしなめているのだと思います。

 全体として、子どもの個性、能力、才能は、多少のゆとり、揺らぎはあるものの、両親から受け継いだ遺伝子によるものだから、他人と比べて一喜一憂せず、成長を見守ることが大切だ、ということだと思います。

 「情報に振り回されるのは無意味」、「勉強しなさい」は逆効果、などともおっしゃっています。親が不安になって、早期教育に走ったり、口うるさく「勉強しなさい」とくり返しても、意味がない、むしろ、逆効果、ということですね。

 また、親は頑張りすぎない、きつかったらSOSを発する、といったこともおっしゃっています。お子さんが健全であるためには、何より、親が心身ともに健全であることが大切ですからね。

 塾長の経験からの私見ですが、受験で成功することを最優先に考えたとしても、上記のようなことは大切です。上記のようなご家庭であれば、大学受験塾チーム番町の技術があれば、ビックリするほど成績が伸びると思います。

 高橋孝雄先生は、4歳のときに、お父様を脳腫瘍で亡くされたそうです。その後は、母子家庭で、生活保護帯。慶應医学部と言えば、私大医学部で、授業料は高額のはずですが、学費免除の奨学金をもらったそうです。
 お母様は、「勉強しろ」とは一度も言わなかったそうです。だから、慶應医学部で授業料免除になる学力をつけることができたのでしょうね。現在、受験や学校の現場の先鋭的な指導者の中でも「勉強しなさい」は逆効果、というのは通説になっています。

 

書評、感想

 子育てとは、親と子が共に成長していく過程であり、その中での親の役割とは何か。この問いに対し、『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』は、独自の視点から鋭く迫ります。

 この本は、小児科医、大学教授としての視点から子育て論を展開し、親や教育者がどのように子どもと向き合うべきかを示します。遺伝や環境、才能や努力といった要素が子どもの成長にどのように影響するのか。そして、どのような育て方が子どもの可能性を最大限に引き出すのか。これらについて、具体的な事例とともに解説しています。

 子どもの成長においては遺伝子が大きな役割を果たすとともに、遺伝子がどのように発現するかは環境によっても変わります。つまり、親の影響が大きいのですが、その影響は必ずしも学業指導のみに限定されません。むしろ、共感力や意思決定力、自己肯定感といった非認知能力の育成が重要であると述べています。

 本書は、子育てに対する新たな視点を提供してくれます。遺伝子から環境、努力まで、子どもの成長に影響を与えるさまざまな要素について考察し、具体的な指導法を提示します。この本を読むことで、子どもの成長を支える親として、また教育者として、自身の役割を再認識し、適切なアプローチを見つけることができます。

 高橋先生の子育て論は、遺伝的な要素と環境、教育の要素が複雑に絡み合っていることを理解し、その全体像を見つめ直すきっかけを提供してくれます。さらに、遺伝と環境、それぞれが子どもの成長に及ぼす影響について理解し、子ども一人ひとりの個性や能力を最大限に引き出すための指導法を提示しています。

 『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』は、遺伝子、環境、教育といった多角的な視点から子育てを見つめ直すための一冊です。子どもの可能性を最大限に引き出すために、親や教育者がどのように関わるべきかを深く考えさせてくれる一冊で、これからの子育てに活かすことができることでしょう。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【感想・書評】非認知能力の権威、ヘックマン教授の著書:幼児教育の経済学(東洋経済新報社)

 

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【感想・書評】非認知能力の権威、ヘックマン教授の著書:幼児教育の経済学(東洋経済新報社)

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『幼児教育の経済学』の感想・書評

 2015年7月2日第1刷。
 著者は、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン教授です。ヘックマン教授は1965年にコロラド大学を卒業。1971年にプリンストン大学で経済学のPh.Dを取得。シカゴ大学ヘンリー・シュルツ特別待遇経済学教授です。
 本書の原題は『Giving Kids a Fair Chance』。
子供たちに公平な機会を与える、ということですね。

 ただ、本書は、ヘックマン教授による記述はあまり多くありません。最初にヘックマン教授が自身の研究と見解を述べます。次に、各分野の専門家が、ヘックマン教授の研究に対し、意見、問題点を述べます。最後に、ヘックマン教授が、各分野の専門家の意見に対し、再び見解を示します。このような構成となっています。

 

非認知能力の重要性

 『幼児教育の経済学』では、まず、ヘックマン教授は、今日のアメリカでは、どんな環境に生まれあわせるかが不平等の主要な原因の1つになっている、と問題提起します。専門的な技術を持つか持たないかは、乳幼児期の体験に根ざしていると。
 そして、これは、適切な社会政策を施せば是正できるのだが、適切な政策には科学的根拠が必要だ、と述べています。
 この教育政策についての科学的根拠という点は、慶應義塾大学総合政策学部教授で教育経済学がご専門の中室牧子先生も、著書「学力」の経済学(ディスカヴァー)で、アメリカでは進んでいて、日本に足りない部分だと述べています。日本の教育政策は、どうも、政治家の思いつきでいい加減らしいので、しっかりしなければならない部分だと思います。

 そして、科学的根拠を入念に検討したところ、人生で成功するかどうかは、認知的スキル(ペーパーテストの点数)だけでは決まらず、根気強さ、注意深さ、意欲、自信といった「非認知スキル」も貢献していて、その後の学歴、収入、健康管理、犯罪率などに影響を与えることを明らかにしました。しかも、非認知スキルはペーパーテストの成績にも影響する、と述べています。当塾は、大学受験塾なので、仮にペーパーテストの点数を最優先したとしても、それは、根気強さ、注意深さ、意欲、自信といった非認知スキルが高い人のほうが、ペーパーテストの点数も高くなるだろうと思います。
 そして、幼少期の介入により、非認知スキルを育むことが、成人教育プログラムなどよりも、はるかに、費用対効果の面で、効果が高い、としています。

 また、他の学者の研究を引用し、ひとり親家庭では、うつ病や妊婦の薬物使用や喫煙が多く、母乳育児や語りかけによる刺激が少ない。家庭内暴力、虐待、ネグレクトといった小児期の悲惨な体験は、成人してからの病気や医療費の多さ、うつ病や自殺の増加、アルコールや麻薬の乱用、労働能力や社会的機能の貧しさ、能力的な障害などと相関関係があることがわかっている、としています。これは、神経学的にも筋が通っていて、脳の発達に異常が生じる、とのことです。本書には、極度にネグレクトされた3歳時の標準より著しく小さく、萎縮した脳の頭部スキャン画像が載っており、衝撃的でした。

 

ヘックマン教授への提言

 『幼児教育の経済学』の中盤では、他の大学の先生、教育関係者による、ヘックマン教授への提言が書かれています。

 1つ目は、ヘックマン教授の提案も支持するものの、成人の職業訓練プログラムも成果を発揮することが研究で明らかになっている旨の、大学教授の主張です。幼児期にプログラムを受けられなかった場合、第二弾が用意されているべきだ、ということでしょう。
 たしかに、成人の職業訓練プログラムも用意されていた方がいいに決まっていますが、冒頭でヘックマン教授も述べているように、政策には費用が必要であり、なかなか難しい問題だな、と思いました。

 2つ目は、やはり、ヘックマン教授の提案を有望であるとするものの、子供側だけでなく、シングルマザー側も危機的状況にあることを見落としている、また、子育てのにおける母親の役割を奇妙なほど重要視し、父親についてあまり論じていない、さらに、ややもすると、一部の女性が子育てに適していないと烙印を押すかの発言に思われる、という旨の、大学教授の主張です。
 まあ、最初の2つについては、そうかも知れません。しかし、最後の「烙印」については、「言葉狩り」といった印象を受けます。塾長は、「受験がうまくいかないレベル」でも、ご家庭への介入は必要であると考えます。本書で論じられているような家庭は、どこ大学に入るか、といった問題よりも、はるかに悲惨な状況を想定しており、なおさら、家庭への介入は大切ではないかと考えます。

 3つ目は、ヘックマン教授が引用する「ペリー就学前プロジェクト」のサンプル数が少ない。逆に、幼児期の介入の効果に否定的な報告もある、という旨の、研究所の研究員の主張です。これについては、今後の研究を待つしかないと思いますが、塾長は、塾を主催している経験上、幼児期の非認知能力を育むための介入には効果があるのではないか、と考えています。

 4つ目には、マインドセット「やればできる!」の研究の著者、スタンフォード大学の心理学のキャロル・S・ドゥエック教授が登場します。ヘックマン教授の貢献は多大、かつ、論理的だが、思春期の子供への介入も効果的で、かつ、安価であるという主張です。
 たしかに、先述のドゥエック教授の著書を読むと、たとえば、保護者や学校の先生1人1人が、日頃の発言に気をつけるだけで、非認知能力をかなり育むことができそうだ、という気はします。

 5つ目は、財源に限りはあるが、質の違いよりも、すべての子がプログラムを受けられることが大事、である旨の大学の先生の主張です。これまでの研究者や政策立案者は、プログラムの質の向上ばかりに注意を集中しすぎていたと。
 これについては、たしかに、恵まれない子供のすべてがプログラムを受けられることが理想であり、簡潔、かつ、効果の高いプログラムが望まれるのだと思います。たとえば、先述のキャロル・S・ドゥエック教授の著書や、後述のポール・タフさんの著書を読むと、そのことは可能なのではないか、と思います。

 6つ目は、「ペリー就学前プロジェクト」の成果は比較的小さい旨の、研究所の副所長の主張です。ただし、「ペリー就学前プロジェクト」の時期に比べ、非認知能力をめぐる研究は進歩しているので、少予算で、かつ、効果の大きい幼児期の介入を行うことが期待できるのではないかと考えます。

 7つ目は、学業成績や収入は大事だが、人生の全てではない旨の大学の先生の主張です。
 もちろん、お金持ちにも不幸な人は多い、というのは、よく言われていることです。しかし、そういう人達は、お金を持っているのだから、本人にその気があれば、コーチをつけたり、カウンセラーに相談したり、問題解決の方法を持っているわけです。(そう考えると、お金を持っていて、不幸な人というのは、なんなのでしょう。)一方で、本書は貧困の連鎖、それに起因する脳の発達障害、萎縮などを問題にしています。自分で断ち切る手段を持たないから、連鎖なのです。この主張は、ちょっと論点がずれているのではないか、という気がします。

 8つ目は、良いプログラムは何が違うのかを研究し続ける必要がある旨の教育関係者の主張です。これは、ごもっともです。そして、現在も、非認知能力についての研究は、以前よりさかんに続けられているでしょうし、上記でくり返しているように、「ペリー就学前プロジェクト」の時期に比べ、非認知能力をめぐる研究は進歩しているので、良いプログラムのための材料は揃いつつあるのではないかと思います。

 9つ目は、恵まれない人々の文化的価値感に配慮した介入を、という旨の大学の先生の主張です。これも、ごもっともで、異なる文化的価値観を一方的に押し付けたところで、保護者は納得しないでしょう。これは、貧困層のみならず、日本で中学受験をするような、経済的に余裕がある層でもそうです。まあ、文化というよりは、個人的な思い込み、それが単なる思い込みであることを知らされた時の自尊心の喪失、それに伴う激しい怒り。中学受験層で、教育が上手くいかない家庭は、だいたいこのような感じでしょう。

 10番目は、就学前の親への教育と「考え方を変えること」が子供たちを救う、旨のなにかの団体の代表の主張です。これは、その通りで、家庭への介入の一種でしょう。当塾も、保護者の方が、教育が上手くいっていない保護者の特徴を持っている場合、修正してもらうよう、指摘しています。

 

非認知能力を育むためには?

 『幼児教育の経済学』は、非認知能力を育むための具体的方法については、ほとんど書かれていません。そのようなノウハウを手っ取り早く知りたい、という場合には、

SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法(祥伝社)

世界最高の子育て 「全米最優秀女子高生」を育てた教育法(ダイヤモンド社)

といった本を最初から読んだほうがいいと思います。上記2冊の著書はボーク重子さんという一般人ですが、大学などのリサーチを研究して書いた本なので、ありがちな母親の独りよがりな教育本ではなく、かなりまともな本だと思います。ビジネスなどでは有名な手法も載っています。

 

非認知能力について、背景を知りたい人は?

成功する子 失敗する子 何が「その後の人生」を決めるのか(英知出版)

私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む(英知出版)

といった本を読んだほうがいいかと思います。一方で、特に、上記2冊は、大学の研究をベースにした、かなり信頼性が高いと思われる本ではありますが、著者は大学の先生ではなく、ポール・タフさんというジャーナリストです。

 

 ただ、ネットなどが発達し、情報の信頼性が問題になっている現在において、『幼児教育の経済学』のような、「非認知能力」の研究者自身が書いた文章を読んでおくこと、その研究者に対する、研究者による批判を知ること、は大切な姿勢であると考えます。

 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【感想・書評】大学受験生の非認知能力を育むボーク重子さんの本

 

非認知能力についてのポール・タフ氏の本

非認知能力の権威、ヘックマン教授の本

小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス)

非認知能力をエビデンスで語る:「学力」の経済学

レジリエンス、回復力を育む本3選

やる気を育むオススメの本2選

 

【感想・書評】大学受験生の非認知能力を育むボーク重子さんの本

 

ボーク重子さんの実績と信頼性

 ボーク重子さんは、娘さんが「全米最優秀女子高生」に選ばれた、です。ボーク重子さんはメディアにも登場していますね。メディアでは「パッション、パッション」言っている、変なお姉さま、という印象ですが、実際に「パッション」は大切だと思います。
 プロフィールに「科学的データ」「大学での研究」などを「詳細にリサーチ」とあるように、著書の内容は、ボーク重子さんの独りよがりではなく、研究に基づく他の本と重なるものが多いです。したがって、内容の信頼性は、東大生、東大卒やその関係者が書いた独りよがりのものよりは、高めだと思います。

 

『世界最高の子育て』の感想、書評

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 IQや学力テストなどで計測される能力を「認知能力」と言います。私たちの成績や職業能力の指標としてしばしば取り上げられます。この数字は黒白明瞭で、私たちがどれだけそのテストの範囲内で知識や技能を持っているかを示します。
 それに対し、その背後に隠れているもう一つの能力、自信、協調性、自制心、責任感、共感力、コミュニケーション力といった、ペーパーテストで計測できない能力を「非認知能力」と言います。実際の人生の中でどれだけ重要であるかに驚かされることが多いです。私たちの日常生活や仕事、人間関係において非常に重要な要素が含まれている。

 ボーク重子さんが重視しているのも「非認知能力」です。

大学受験塾チーム番町による非認知能力の解説はこちら

 塾長の経験上、「非認知能力」が高い人のほうが、ペーパーテストの成績も伸びやすいです。まあ、自制心や責任感が高いのだから、ペーパーテストでも点数を取りやすいでしょう。
 しかし、逆のケースも存在します。塾長は、一部の進学校の下位層の生徒たちがペーパーテストでなかなか点数を取れない背景には、「非認知能力」が低いことが原因であることが多いと考えています。

 もちろん、学生時代だけでなく、むしろ、大学を卒業し一般企業で働く際にも、この「非認知能力」は非常に重要です。特に、リーダーシップを取る立場になると、この能力の有無が明確に現れるでしょう。『世界最高の子育て』では、効果的なコミュニケーションやプレゼンテーション、対話の技術、さらには逆境時の回復力やチームでの協働力、他者への共感、そしてリーダーシップなど、さまざまな非認知能力が詳細に解説されています。

 『世界最高の子育て』を通して、「非認知能力」の重要性と、それを育む方法についての深い洞察を得ることができるでしょう。

 

世界最高の思考力の教育法

 『世界最高の子育て』という題名の本を手に取った瞬間、多くの親や教育者の期待が高まることでしょう。第1章では、目を引くキャッチフレーズとして「世界水準の思考力を養う」と記載されています。この言葉を目にしたとき、私の胸も高鳴りました。思考力とは、単に知識を蓄えるだけでなく、それを活用し、新しい発想やアイデアを生み出す能力のこと。そういった能力があれば、日本の大学入試はもちろん、その後の人生においても大きな武器となるでしょう。本書においては、そんな思考力を培うための手法として、3つの具体的な思考法が紹介されています。

・自分で考える力
 子供たちが自らの意思で物事を考え、判断する能力は非常に価値があります。しかし、今の時代、保護者が過度に手を出してしまうことで、子供たちの自主性が失われることがあります。特に教育の場では、この問題が深刻です。大学受験塾チーム番町では、子供たちの自分で考える力を大切にし、保護者面談を行わないという大胆な取り組みをしています。
 本書では、イエス、ノーで答えられない質問を問いかけることをおすすめしています。大学受験塾チーム番町でも、世の中には論理的でない人が多いので、塾内でも「なぜ?」とくり返し問うことが多いですし(論理的でない人は、途中で論理的でない返答になる。)、ご家庭でもおすすめしています。

・実行機能
 ただ知識を持っているだけでは、社会で成功するのは難しい。それを実行に移すスキル、すなわち実行機能が必要です。自分で計画し、それを実行し、最後に結果を出す。この一連の流れができる子供は、大人になっても成功することが多いですよね。しかし、これも保護者や先生が過度に干渉してしまうと、子供の自主性が損なわれてしまいます。したがって、大学受験塾チーム番町では、「こうやれば東大や医学部に合格する」という大枠は示しますが、宿題などは出しません。
 本書では、子供が望むトピックに合わせて、まず大人が手本を示し、小さく分割させ(デカルトも「困難は分割せよ」と言っていますね)子供にやってもらうことをおすすめしています。

・クリティカルシンキング
 問題解決のために情報を集め、事実を確認し、分析し、推論を立て、反証し、自分の中にある偏見やバイアスに挑戦しながら、思い込みに惑わされることなく論理的に良い結論を導くことです。たとえば、なんとなく、そのあたりの予備校に通うのではなく、論理的に判断して、大学受験塾チーム番町に入ってくる、といったことですね(笑)。
 『世界最高の子育て』では、賛否両論の表を作ることで、物事の良い点と悪い点をしっかりと見極める方法が紹介されています。

 

世界最高のコミュニケーション力の教育法

 『世界最高の子育て』の第2章は、双方向の「コミュニケーション力」を養う、です。この章を読むことで、私たちの心に響くメッセージがたくさん詰まっているのが分かります。
 コミュニケーションという言葉を耳にすると、多くの人が思い浮かべるのは、お互いに話すこと、相手の気持ちを理解することでしょう。実際、この章でも「双方向のコミュニケーション力」に重きを置いています。しかし、このコミュニケーション力は単なる言葉のやりとりだけではないです。それは、人と人との繋がりを深め、社会においての自分の存在価値を高めるための非常に大切なスキルです。コミュニケーション力、社会性も非認知能力の1つです。
 これは、ペーパーテストの大学入試を考えると、受験生側にはあまり関係ないかもしれないですね。むしろ、保護者がお子さんとのコミュニケーション力を養うと、受験がうまくいくでしょう。ただ、日本でも、東大、医学部以外の入試では、AO型の入試が増えています。これは、単に学力だけでなく、人としての総合的な能力や個性を評価するためのものです。そのような入試を希望する人は、参考にするといいでしょう。
 さらに、コミュニケーション力が高い人は、受験の場面においても、他の人からのサポートを受ける機会が増えるため、有利になることが予想されます。この点においても、コミュニケーション力を磨くことの重要性が改めて認識されます。 

 このように、『世界最高の子育て』の第2章は、受験生や保護者、さらには教育者にとっても非常に参考になる内容となっており、私たちの日常生活においても、コミュニケーションの大切さを再認識させてくれる1章となっています。

 

世界最高のレジリエンスの教育法

 『世界最高の子育て』の第3章は、心が折れない「回復力」をつける、です。レジリエンスとも呼ばれますね。レジリエンスも非認知能力の1つです。もちろん、心が折れない人のほうが、大学入試に成功しやすいですよね。
 本書では、その日の終わりに、その日の良かったことを3つ書き出す、ことをおすすめしています。これは、荒れた公立中学の陸上部で7年間に13回の日本一を達成された、原田隆史先生の日誌にも、この欄があります。また、家庭が安心できる場であること、親自身が幸せであること、をおすすめしています。これも、非認知能力についての書籍のはしりであろうポール・タフさんの著書にも、脳の映像など、科学的根拠とともに書かれています。

 

世界最高の長所の教育法

 『世界最高の子育て』の第4章は、その子だけの「長所」を徹底的にのばす、です。日本のペーパーテストの大学入試は、特に、東大、医学部受験は、各科目のバランスの良い得点が要求されがちなので、表題からは、大学入試には関係なさそうです。 
 一方、本章では、ボーク重子さんがメディアで連呼する「パッション」(情熱)の話が出てきます。「好奇心」と言い換えることもできるでしょう。そして、好奇心はアクションリストを実行することにより、高めることができることが、南メソジスト大学の実験により、わかっています。好奇心が高い人のほうが、色々なことを勉強しようと思い、勉強したことを忘れにくいでしょうから、東大、医学部受験に強いですよね。

 本書を参考に、日々の行動を変えれば、東大、医学部合格に近づくことは、間違いないでしょう。

 

『世界最高の子育て』の目次

第1章 世界水準の「思考力」を養う
1.レスポンシブ・クラスルームで考える力を育てる
2.実行機能 自分からやる子を育てる
3.クリティカルシンキング 高い問題解決能力を持つ子になる

第2章 双方向の「コミュニケーション力」を養う
1.プレゼン力を鍛える
2.対話力を鍛える
3.表現する「自信」を育む

第3章 心が折れない「回復力」をつける
1.心をポジティブに保つ
2.想像力で選択肢を広げる
3.良好な人間関係を築く

第4章 その子だけの「長所」を徹底的にのばす
1.「出る杭」の持つ人間的な魅力
2.「好き」を真剣にやらせる環境づくり 6つのコツ
3.「出る杭は打たれる」という恐怖を克服する

第5章 「協働する力」こそが未来を切り開く
1.コミュニティーの一員として協働力を鍛える
2.国際化、多様化の中の共感力を鍛える
3.21世紀のリーダーシップとは

 

SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法(祥伝社)の感想、書評

 

 この書籍は、親子関係や教育に対する新たな視点を提示しており、読者にはその科学的根拠と共に、具体的で実践的なツールを提供していると思います。『SMARTゴール』は、育児に関わるすべての人々にとって有益なガイドブックとなることでしょう。私自身もこの書籍から多くを学び、生徒指導に生かしていきたいと感じました。

 

理想的な親のタイプは?

 『SMARTゴール』の第1章「子供の成功は親のタイプで決まる」では、まず、「子供の成長を決めるのは遺伝が49%、育て方などの環境が51%」という研究が示されます。この数字は、慶應義塾双生児研究の安藤寿康教授の著書『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)では、行動遺伝学の研究によると、テストの成績などは、遺伝50%、遺伝に還元されない家庭環境30%、教え方や本人の変化20%、とされます。

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 そうすると、遺伝に還元されない家庭環境、つまり、親のあり方がかなり大きな要素だ、ということになります。
 『SMARTゴール』では、「ベストな親のタイプ」は「民主型」。「子供主体のニーズを満たす親」、「コントロールと期待水準が高い+子供の気持ちとニーズを汲み取る暖かさが高い」としています。「コントロール」も押し付けではなく、あくまでもお子さんの主体性を尊重したものです。
 この件の根拠は、本書では「あらゆる調査」としています。たとえば、ペンシルベニア大学心理学部教授の著書で、研究などに基づいて書かれた『GRIT やり抜く力』(ダイヤモンド社)では、「さらなる研究が必要だ」としつつも「賢明な子育て」の科学的結論が、ほぼ本書と同様に述べられます。
 たとえば、本書では「服従型」というタイプ分けがあります。まあ、読んで字のごとくです。例えば、医師の親が、子どもの意に反して、医学部受験を強要する、といったケースです。本書では、『タイガー・マザー』という服従型教育の著書が紹介されます。一定期間の賛否両論の後、著者は13歳の娘の反抗に遭い、スパルタ教育からの撤退を決意したそうです。

 第1章では、親と子の関係性に光を当て、科学的データや大学での研究に基づいた育児法を語っています。読者に新しい視点を提供すると共に、親が子供の成長に対してどのような影響を与えているかを考察する機会を提供していると思います。
 これらの結果は、子供の教育方法や親としてのあり方が、子供の未来に及ぼす影響の大きさを物語っていると思います。著者が推奨する「民主型」の親のスタイルは、読者に新鮮な洞察を与えていると思います。

 

「SMART」とは?

 『SMARTゴール』の第2章以降に登場する「SMART」という目標達成のツールも、ジョージ・T・ドラン氏が提唱して、ビジネスでは有名な手法であり、ボーク重子さんのオリジナルではありません。
Specific(具体的)
Measurable(計測可能)
Actionable(自力で達成可能)
Realistic(現実的)
Time limited(時間制限付き)
の頭文字です。
 たとえば、とりあえず、大学受験という目標は具体的ですね。大学卒業後にやりたいことが具体的なら、さらにいいと思います。そして、テストは点数が出るので、計測可能です。1日レベルまで細分化して「問題を○○問解けるようにする」でもいいでしょう。大学合格という目標は、自力で達成可能です。現実的とは、目標を下げる、ということではありません。自分らしいということです。そして、テストや入試までは時間制限があります。目標を1週間、1日レベルまで細分化して、時間制限をつけるのもいいと思います。
 人生全般の目標達成に役立つツールと言えると思います。

 

子どもの可能性を潰さないために

 『SMARTゴール』の第5章、第6章では、子供の夢、可能性をつぶす、親、他人について書かれます。
 お子さんに気の向かないことを押し付ける親がいる一方で、たしかに、お子さんを過小評価し可能性の芽を摘んでいる親も存在します。たとえば、塾長の生徒は、まったく成績が足りていない状況から、東大、京大、医学部に入った人も多いです。一方で、入塾面談で保護者の方が、そのあたりの大学には絶対入れないと思いこんでいて、もう少し入りやすい大学の志望を希望する、といったケースも有りました。
 また、家族以外にも友人、はたまた、学校の先生の進路指導などもネガティヴなことを言って可能性を摘んでしまうかもしれません。

 そのような場合に、どのように対処すればいいかの参考になるでしょう。親として、または成長する子供として、どういった態度や行動が自己の可能性を損なうかを認識し、避けるための手引きを提供していると思います。

 

『SMARTゴール』の目次

1.子供の成功は親のタイプで決まる
 民主型
 服従型
 寛容型
 無関心型

2.能力を最大限に引き出すツール SMARTゴール
 主体性と行動力と責任感が身につく
 Specific
 Measurable
 Actionable
 Realistic
 Time Limited

3.「SMARTノート」を使ってSMARTゴールを実践する
 SMARTゴールの細分化で、ゴールを毎日の行動にまで分解
 SMARTな夢を目指し毎日行動する自分をモニターする
 「何のために?」という目的が確実に達成に導く
 心の筋トレは続ければ必ず力になる

4.だれでも「民主型」の親になれるツールとの出会い
 私の人生を変えた1つ目の質問
 「I think I can!」と言って遊ぶ子供たちに衝撃
 「ベストな子育て」探しに私を駆り立てた2つ目の問いかけ
 起業系セミナーで出会った意外なツール、SMARTゴール
 SMARTゴールは親も子供も育てるツール

5.親の「心のブレーキ」は子供に感染する
 「成功=出る杭」という「心のブレーキ」を外す
 「失敗=やり直しがきかない」という「心のブレーキ」を外す
 まずは行動ありき。「考えるだけ」という「心のブレーキ」を外す
 「私には無理」という「心のブレーキ」を外す
 「どうせ無理」から「きっと大丈夫」に脳を訓練する
 「みんなと同じがいい」という「心のブレーキ」を外す
 「他人との比較」という「心のブレーキ」を外す
 「論理的思考」と「自分基準」で比較をやめる
 「苦手を克服する」ことをやめる
 強みにフォーカスする

6.元気泥棒に気をつけて
 必要なのは心のメンテナンス
 簡単にできる心のエネルギーの効率化

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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【感想・書評】大学受験に大切な非認知能力についてのポール・タフ氏の本

 

非認知能力とは?

非認知能力を育むボーク重子さんの本

非認知能力の権威、ヘックマン教授の本

小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て(マガジンハウス)

非認知能力をエビデンスで語る:「学力」の経済学

レジリエンス、回復力を育む本3選

やる気を育むオススメの本2選

GRIT、やり抜く力を育むオススメの本2選

 

【感想・書評】大学受験に大切な非認知能力についてのポール・タフ氏の本

 

ポール・タフ氏の実績と信頼性

 ポール・タフさんは、アメリカのジャーナリストです。大学の先生ではありませんが、著書は大学の研究に基づいた話が多く、巻末には引用論文が掲載されており、かなりちゃんとした本だと思います。

 

成功する子 失敗する子(英知出版)の感想、書評

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非認知能力は学歴、大学受験に影響する

 原題は『How Children Succeed Grit, Curiosity, and the Hidden Power of Character』。ポール・タフ氏の著作です。Gritはやり抜く力、Curiosityは好奇心。いわゆる「非認知能力」がメインテーマです。
 IQや学力テストで計測される「認知能力」に対し、「やり抜く力」「自制心」「自信」といったものを「非認知能力」といいます。学力テストで計測されないだけで、「非認知能力」は、学歴にも大きく影響することが、ノーベル経済学賞も受賞したヘックマン教授などの研究で明らかになっています。つまり、大学受験にも大切だということです。

 

非認知能力と家庭環境

 『成功する子 失敗する子』の第1章では、子供時代の暴力、虐待、ネグレクト、両親の離婚・別居、などの逆境が、成人してからのネガティヴな結果と非常に深い相関関係があることが述べられます。科学者の意見はおおむね一致していて、逆境によるストレスが、発達段階の体や脳にダメージを与える、とのことです。
 強く印象に残ったのは子供時代の逆境が成人期にどれほど大きな影響を与えるか、という事実です。私たちの多くは、子供時代の体験が後の人生に深く影響を与えることを感じているでしょうが、それが科学的に裏付けられていることを改めて認識すると、その影響の深刻さと広がりに驚かされます。

 とりわけ心に残ったのは、子供の頃の困難が身体や心に残る影響についての説明です。それは、育成の過程における外的要素が子供の発達に与えるダメージを具体的に描き出しています。この点は、科学的な視点から子供の成長と発達に対する深い理解を得るために、非常に有益な視点を提供します。
 さらに、この章は私たちが子供たちの環境を理解し、向上させるための重要な知識を提供しています。これは、親や教育者、さらには政策立案者にとって、子供たちの将来の成功にどのように貢献できるかという重要な指針となるでしょう。
 全体として、この章でポール・タフ氏は、私たちが子供の発達と成長の過程を理解する上で大変有益な洞察について述べています。それは、子供たちが直面する可能性のある困難とその後の人生にどのように影響するかを理解することで、彼らの将来をより良いものにするための道筋を示してくれています。

 

非認知能力についての詳しい解説

 『成功する子 失敗する子』の第2章では、いわゆる「非認知能力」の要素について述べられます。
 本書では、『GRIT やり抜く力』(ダイヤモンド社)の著者、アンジェラ・ダックワース教授が、多すぎると教育システムに取り入れるのが難しいため、
・やり抜く力
・自制心
・意欲
・社会的知性
・感謝の気持ち
・オプティミズム(楽観主義)
・好奇心
の7つに絞り込んだエピソードが紹介されます。(他の要素が挙げられることもあります。)ポールタフ氏は、このようなことが大切であるという価値観を教育することを提案しています。
 この章を読み、その洞察力と具体性に非常に感銘を受けました。子供の成功に対して、非認知能力がいかに重要な役割を果たすかを理解するための貴重なガイドラインがポール・タフ氏により描かれていると感じました。
 この章で特に興味深いと思ったのは、特定の非認知能力の要素が子供の成長と成功にとってどれほど重要であるかを明示している点です。それは課題を達成するための執念や、自己制御、または人間関係を理解する能力といった要素が、教育の一部として強調されています。
 また、ポール・タフ氏は、それらの要素がいかに多様であるかを示しており、これら全てが教育プロセスに組み込まれるべきだという提案は、我々の教育に対する視野を広げるものでした。これらの要素が、伝統的な教育システムではしばしば見落とされがちな、子供たちが成熟して成功するために必要なスキルを強調しているからです。
 この章が示す一連の要素とその重要性を理解することは、教育者だけでなく、親やメンターにとっても有益であると感じました。それは、子供たちが成長し、自己実現を達成するために必要な能力を育むのに役立つ、具体的な指針を提供してくれるからです。
 全体として、ポール・タフ氏により、この章は非認知能力の重要性を明らかにし、それらを子供たちの教育にどのように組み込むべきかについて具体的な提案をしています。これらの洞察が私たちが子供たちの成長と成功を支える方法についての理解を深めるのに貴重なガイドとなると感じました。

 

チェスの反省が非認知能力を高める?

 『成功する子 失敗する子』の第3章で、ポール・タフ氏は、過半数が低所得者層の中学校のチェスチームの話を紹介しています。顧問の先生は、チェスの試合の後、たとえば、なぜ負けたか、どうすれば勝てたかについて、詳細に検討します。ポール・タフ氏は、この検討が、メタ認知(自分自身を把握する能力)、実行機能(混乱していたり予測がつきづらかったりする状況や情報に対処する能力、問題解決能力、既存の枠組みにとらわれずに考える能力)と関係があるのではないか、とします。 
 第3章の描写は、教育の枠を超えて子供たちの成長と成功を如何に促進するかという洞察に富んでいると感じました。特に、チェスチームの活動を通じて、子供たちが自己反省や問題解決の能力を学び、それがどのように彼らの発展に寄与するかという視点は、教育方法を再考するための重要な示唆を提供しています。
 この章で最も興味深いと感じたのは、ゲームの結果を検討することが子供たちのメタ認知や実行機能にどのように影響するかという提案です。これは、自己認識と問題解決の能力という重要な非認知能力を育むことの重要性を強調しています。これは教育の場においては時として見過ごされがちな能力であり、この本がこれを明確に示していることに感銘を受けました。
 この章は、教育者や親が子供たちの成功を支援するために必要な具体的な方法を提供しています。それは、一見すると単なるゲームであるチェスが、実は子供たちが未来に向けて必要な能力を育むための効果的なツールとなり得るという示唆に満ちています。
 全体として、この章でポール・タフ氏は、我々が子供たちの教育に取り組む方法を再考するための有益な洞察を提供してくれました。非認知能力の育成に焦点を当て、その発達を促進するための具体的な手法を示してくれることで、子供たちが自己認識と問題解決の能力を強化する助けとなると感じました。

 大学受験塾チーム番町では、本書のチェスチームと同様に、学校のテストや模試について、どうすれば十分な成績を取ることができたか、詳細な検討をします。自画自賛で恐縮ですが、塾長の生徒は、成績が大躍進します。

 

非認知能力は大学卒業、人生において大切

 『成功する子 失敗する子』の第4章で、ポール・タフ氏は、大学をきちんと卒業するのにも「非認知能力」が大切だ、と述べます。

 全体として、『成功する子 失敗する子』は学業成績だけでなく、人生における成功に必要なスキルや資質について、示唆に富む洞察に富んだ内容であると感じました。ポール・タフ氏が提示する研究や逸話は、こうした本質的なスキルを身につけるために子どもたちをよりよくサポートする方法について、貴重な視点を提供してくると思います。

 

『私たちは子どもに何ができるのか 非認知能力を育み、格差に挑む』(英知出版)の感想、書評

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 2017年9月6日発売。
 原題は『HELPING CHILDREN SUCCEED』。つまり、子どもが成功するのを助ける、ということです。ポール・タフ氏の著作です。

 内容は、日本語の副題の通り、「非認知能力」についてが多いです。
 IQや学力テストで計測される「認知能力」に対し、「やり抜く力」「自制心」「自信」といったものを「非認知能力」といいます。学力テストで計測されないだけで、「非認知能力」は、学歴にも大きく影響することが、ノーベル経済学賞も受賞したヘックマン教授などの研究で明らかになっています。そして、非認知能力が高い人は、犯罪率が低く、生活保護率が低く、年収が高い。

 

貧困の連鎖と非認知能力

 子どもの貧困は、上記のように、一生の財産になる非認知能力を獲得する機会を奪い取ってしまいます。そして、そのような子どもは、大人になった後に、仕事や生活面でより多くの機会を失う可能性が高い。結果として、大人になってからも貧困に陥ってしまう。ポール・タフ氏は、このような貧困の連鎖を問題提起しています。
 この貧困の負の連鎖は、断ち切らなければならないと思いました。当然、この負の連鎖には、大学受験、大学への進学も含まれるでしょう。

 

エビデンス(科学的根拠)と非認知能力

 先述のように、『私たちは子どもに何ができるのか』の巻末には、多くの論文が引用されています。
 非認知能力への取り組みが、低所得層の子供たちの成果を改善する上でのエビデンスが、神経科学、小児科学の分野にも見られるそうです。過酷な、あるいは、不安定な環境が、成長過程にある幼少期の子供たちの脳や体に生物学的変化をもたらす。そうした変化は、思考や感情を制御する能力の発達を損なう。すると、情報を処理したり、感情を制御したりすることが困難になり、学校生活を上手くこなすことが難しくなる。当然、大学受験にも悪影響が出る、ということですね。

 子ども時代の環境がその後の生活に深く影響を与えるという視点から、我々が子どもたちにどのような教育を施すべきかという問いへの回答を探ることは、人間の未来そのものに対する問いに他ならないと思います。

 たしかに、進学校の下位層は(低所得層とはいえませんが)、保護者が過干渉で、勉強をするようにガミガミ強いられた結果、なにか、精神的に幼い、という場合が多いように思います。脳に何らかの不健全な変化が生じているケースもあるのかもしれませんし、単に、人間教育の欠如の結果なのかもしれません。

 本書では、ポール・タフ氏は、非認知能力は「子供をとりまく環境の産物」と考えたほうが、より正確であり、有益である、としています。ということは、子供本人よりも、環境に働きかけなければならない。

 

ストレスと非認知能力

 研究者らの結論によれば、環境による影響のなかで子供の発達をもっとも左右するものは、ストレスだとのことです。体内の複雑なストレス反応のネットワーク(脳と免疫システムと内分泌システムを結ぶネットワーク)の発達に強い影響を及ぼすそうです。
 また、幼い時期の高レベルのストレスは、前頭前皮質、つまり、知的機能をつかさどる最も繊細で複雑な脳の部位の発達を阻害し、感情面や認知面での制御能力が育つのを妨げるようです。家庭でのストレスが非認知能力に大切な脳の発達に悪影響を与える。知的機能ということは、大学受験におおいに関係がある、ということですね。
 感情面でも、失望や怒りへの反応を抑えることができなくなり、小さな挫折を圧倒的な敗北と感じるようになってしまう。
 学校生活でも、つねに脅威を警戒し続ける極度に敏感なストレス反応システムは、けんか、口ごたえ、教室内でのわがままな振る舞い、大人から差し伸べられた手を拒むようになる、などの自滅的な行動パターンを引き起こす、としています。
 認知面では、前頭前皮質が制御する、実行機能(脳の働きを監督する航空管制官に例えらる高次の知的能力で、作業記憶、自己調整、認識の柔軟性などを含む)の発達が阻害されるとのことです。これも大学受験に大切そうですね。

 そして、子供にとって、一番大きな環境は、親、家族、家庭です。まあ、そうだろうというところですが、親のあり方が子どもに大きく影響するということです。

 子どもの貧困と非認知能力に関わる問題の解決策は、教育者や親が子どもたちの自律感や有能感、関係性を育むこと、そして、子どもたちが自分自身の能力を信じ、困難に立ち向かう勇気を持つことを支える環境を整えることにあると言えると思います。これは、教育者や親、そして社会全体が子どもたちの未来を真剣に考え、対策を練る必要がある大きな課題であると感じます。また、これは、子どもたち一人一人が自身の可能性を信じ、自己の力を最大限に発揮できる社会をつくるための一つの方向ともいえるでしょう。非認知能力は、一般的な知識や技能を超えて、人間の成長と社会的成功に大きな影響を与える能力である。だからこそ、子どもたちが非認知能力を最大限に伸ばすことができるような環境を提供することは、子どもたちの未来を明るくするための重要な一歩となると思います。

 高校の先生や、大学受験界の、気鋭の現場の指導者の中では、「家庭はリラックスできる場でなければならない」というのが通説になっていると思います。ポール・タフ氏は本書で、そのことを、脳神経科学などの観点から、科学的にも述べている、ということですね。
 大学受験塾チーム番町でも、ご家庭での保護者の方の振る舞い方は、指導させていただいております。保護者の方が「うちの子は云々」という場合、たいてい、そう言う保護者の方のほうにに、なにか、精神的幼稚さを感じる、40年も50年も生きてきたのに、自己修養を怠ってきたのだろうなあと思う、ケースが多いです。

 

インセンティブ、モチベーションで格差は縮まるか?

 2018年8月、大阪市では、学力テストの成績を上げた先生へのボーナスを導入する考えだと発表しました。学力テストの成績が上がるということは、大学受験にプラスですね。
 しかし、『私たちは子どもに何ができるのか』でポール・タフ氏は、大学の研究を紹介し、教師、生徒、保護者へのご褒美は効果がないとします。そして、モチベーションのためには
・有能感(やり遂げるのに難度がちょうどいいタスク)
・自律感(生徒が自分で選び、自分の意志で行う)
・関係性(人とのつながり)
が大切だとします。

 有能感は、自信、自己効力感とも言い換えられるでしょう。これらが、大切だということは、エビデンスに基づく大学教授の著書や、気鋭の現場の指導者の著書などの類書で、多く述べられていることです。塾長もそう思います。
 自律感もそうです。世界陸上400mハードルで銅メダル2回の為末大さんは、「自分の人生を生きているという感覚」が、一番の才能であり、最も後から与えにくい、としています。やはり、似たようなことは、多くの類書で述べられています。塾長もそう思います。

 

結局、非認知能力を育むためには?

 『私たちは子どもに何ができるのか』でポール・タフ氏は、面白いことに、生徒から非認知能力を上手く引き出すことのできる教育者たちは、非認知能力の話を教室ですることはない、と述べています。
 たとえば、『成功する子 失敗する子』(英知出版)に登場するチェスの顧問の先生です。彼女は、低所得層の割合が多い、公立高校の先生で、チェスクラブを強豪チームに育てました。彼女は、チェスの話しかしませんでしたが、その実、チェスの知識だけではなく、
・チームへの帰属意識
・目標を高く持つこと
・自身を持つこと
・粘り強く難題に取り組む
・失敗やストレスに対処するレジリエンス
なども教えていた、と考察しています。彼女は、生徒の対局を生徒と一緒に熱心に分析し、生徒のミスを率直に話し、どうしたら良かったかを理解させることにより、生徒の生活全般の取り組みまでを変えた、と考察しています。

 ここに挙げた教育者たちの成功例を見ると、非認知能力の育成は教室の中だけでなく、生活全般に関わる課題であるということがわかります。家庭環境、学校環境、そして社会環境、これらすべてが連携し、子どもたち一人一人の可能性を最大限に引き出すためのサポートを提供することが必要だと感じます。 
 さらに、非認知能力の育成は、教育者や親だけでなく、子ども自身が自分の力を信じ、自分の意志で行動を選択することが重要であることを忘れてはならないと思います。自律性や自己効力感を育てることで、子どもたちは自分自身の力で困難を乗り越え、成功に向けて進んでいくことができると思います。

 大学受験塾チーム番町では、生徒の学校のテストや模試の反省を通して、上記のチェスの先生と同じような反省をしています。たとえば、数学なら、どの教材の何ページをマスターできていればこの問題が解けたか。共通テスト型現代文なら、どのように考えれば、正しい選択肢にたどり着けたのか。これにより、生徒の非認知能力をも育むことができているのなら、素晴らしいことだな、と思います。

 また、本書には、『GRIT やり抜く力』の著者、ペンシルベニア大学心理学部のアンジェラ・ダックワース教授も登場します。 やり抜く力も、非認知能力の1つとされます。本書の引用している研究によれば、やり抜く力を強めるには
・学校への帰属意識
・能力は努力によって伸びる
・自分は成功できる
・この勉強は私にとって価値がある
といった信念が大切だとしています。

 

まとめ

 最後に、子どもの貧困問題はただの経済的な問題だけではありません。それは、社会的な環境、教育環境、家庭環境といったさまざまな要素が絡み合った複雑な問題であり、その解決には、それぞれの要素が結びついて動くことが求められます。そして、その中でも特に、非認知能力の育成に重点を置くことが、子どもたちが自分の力を信じ、自己の可能性を最大限に引き出すための一つのキーとなるのではないかと思います。

 これらの考察から、私は非認知能力の育成が子どもの貧困問題の解決に向けた重要な要素であると確信しています。そして、そのためには、教育者や親、そして社会全体が連携して、子どもたちが自己の可能性を最大限に引き出すことができる環境を作り上げることが求められると考えます。その環境とは、物質的な裕福さだけでなく、精神的な安定感や自己肯定感、適切なチャレンジと失敗からの復活力などを育む環境であるべきです。

 私たちは教育者、親、そして社会の一員として、子どもたちが自分自身の力を発揮し、自分の人生を積極的に切り開いていくためのサポートを提供すべきです。それには、教育者が非認知能力を育む教育手法を研究し、それを現場で実践することが必要です。また、親としては、家庭での教育やコミュニケーションを通じて、子どもの非認知能力を育む環境を整えることが大切だと思います。

 本書は、私たちすべてに対する一つの挑戦だと感じています。それは、子どもたち一人一人の可能性を信じ、その可能性を最大限に引き出すための環境を作り上げるという挑戦です。この挑戦に立ち向かい、一人でも多くの子どもたちが自分の可能性を信じて一歩を踏み出すことができるよう、私たちは全力で支えていくべきです。また、子どもたち自身に対しても、自分自身の可能性を信じ、その可能性を最大限に引き出すための挑戦を自分自身に課すことが重要だと感じます。

 そして、その可能性を最大限に引き出すことが、私たち一人一人がより豊かで充実した人生を送るための重要な鍵であると私は確信しています。私たちが自己の非認知能力を信じ、その力を最大限に引き出すことができれば、私たちはどんな困難にも立ち向かい、成功へと進んでいくことができるでしょう。

 私たちは、子どもたちだけでなく、私たち自身もまた、自己の非認知能力を信じてその力を最大限に引き出すための挑戦を受け入れるべきだと感じます。それが、私たちが子どもたちに対して提供できる最大の支援であり、また、私たち自身が自己の可能性を最大限に引き出し、より豊かで充実した人生を送るための重要なステップだと信じています。

 

日本の算数、数学教育への意外な評価 

 非認知能力とはあまり関係なさそうですが、意外な話。
 日本の算数、数学教育は、計算の基本的な反復が多い、といった批判を聞きます。しかし、『私たちは子どもに何ができるのか』でポール・タフ氏は、それはアメリカでより顕著で、日本では、生徒に自分で考えさせ、小グループやクラスでの話し合いが行われる、といった創造的な活動が多い、と述べています。
 まあ、日本にも、アメリカにも、様々な学校があり、それぞれ、どのような学校を対象とした調査なのかは、よく見極める必要があるのだと思います。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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漠然かきっちりか:個別指導塾の生徒と先生の性格と相性を活かすコツ

 

漠然かきっちりか:個別指導塾の生徒と先生の性格と相性を活かすコツ

 

 世界陸上2001年エドモントン大会、2005年ヘルシンキ大会の400mハードルで銅メダルを獲得された為末大さんがYouTubeチャンネル「為末大学」を開設しています。2022年7月11日に「選手の性格を見極めて効果的に指導するコーチング術」という動画をアップしています。

 

 為末さんは、選手とコーチの相性の大きな問題として、
「大枠を漠然とコーチしたいコーチ」と
「具体的に細部に指導したいコーチ」とがいると言います。

 

大雑把な個別指導塾の先生の場合

 「大枠を漠然とコーチしたいコーチ」が「大枠が漠然と行きたい選手」と合うかというと、そうでもないそうです。むしろ、「細かいところを緻密に行きたい選手」のほうが「大枠を漠然とコーチしたいコーチ」と相性が良かったりするそうです。なぜなら、たとえば2人での共同生活をイメージするとわかりやすいですが、きっちりしたい人同士だと、物を置く場所1つをとっても、衝突が生じやすいからです。
 大学受験だと、特に、進学校の成績が半分より上くらいの女子は、非常にきっちりしていることが多く、テスト勉強も、細部まで詰めるのが得意なことが多いです。この場合、細部を詰めるのは、彼女たちに任せておいて、ただ、それが大局観を失っている場合に、軌道修正する、大枠を意識させてあげると、大学受験がとてもうまくいきます。

 

きっちりの個別指導塾の先生の場合

 逆に、選手が漠然と行きたいが、コーチがきっちりやりたいタイプ、というのが生じるはずですね。為末さんによると、これもうまくいかない場合が多いそうです。これが上手くいく場合は、コーチが、具体的な指示を出すものの、選手は漠然と行きたいので、半分くらいは無視して(笑)、半分くらいは参考にしてやる、というパターンだそうです。
 そして、きっちりやりたいタイプのコーチが、きっちりやらないといけないと思っている場合、だいたいダメになるそうです。選手は自我があるのに、コーチが押し付けるので、関係が破綻するからだそうです。

 もう1つ、選手もコーチも具体的にきっちりやりたいタイプというパターンが生じるはずですが、これはすでに、上で、2人での共同生活をイメージして論じていますね。衝突が生じてうまく行きにくいようです。

 つまり、生徒が、具体的にきっちり行きたいタイプであれ、漠然と行きたいタイプであれ、個別指導塾の先生が、具体的にきっちりやらないといけないと思っている場合、上手くいかない、ということになります。
 個別指導塾の先生のパターンは、「漠然と大枠を指導する型」に限られる、ということになりそうです。

 

「管理型」の個別指導塾?

 あれ、世の中には、「管理型」、「計画を塾が立てててあげる」ことをウリにしている個別指導塾がありますよね。今まで論じてきたことからすると、このような個別指導塾は、「具体的にきっちりやりたい生徒」とも「漠然と行きたい生徒」とも上手くいかないことになりそうです。そういう塾でたまたま大学に合格するのは、おそらく、主体性を失った、誰かの言いなりで生きていくことに疑問を感じない人達なのでしょう。そして「管理型」の塾に自分のお子さん通わせる保護者の方々は、どのようなお考えなのでしょうか。恐ろしいですね。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅100m 東大卒の塾長による個別指導

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【2022】東京慈恵会医科大学医学部英語 傾向と対策と勉強法:英文読解力と穴埋め問題対策

 

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅66m 東大卒の塾長による個別指導

東大・医学部受験の英語の勉強法

東京慈恵会医科大学医学部数学

 

【2022】東京慈恵会医科大学医学部英語 傾向と対策と勉強法:英文読解力と穴埋め問題対策

 

慈恵医学部の英語で悩んでいる人へ

 慈恵医学部英語の難易度、また、どのような参考書をマスターすれば合格点を取れるかがわからずに、悩んでいませんか?
 実は、慈恵医学部英語は、基本的な文法、熟語をマスターし、前後の文脈から判断する姿勢を大切にすれば、満点近く取れます。
 この記事を読むと、慈恵医学部英語の難易度、どのように勉強すれば合格点を取れるか、どこまで解ければいいのか、を知ることができます。

 

慈恵医学部英語の傾向と勉強法と対策

・穴埋め問題対策
・内容把握問題対策

 根本的な英文読解力を鍛え、文脈を把握できるようにしましょう。
 また、単語の穴埋めは、やや単語レベルが高いことがあります。まあ、入試は満点を取る必要はなく、内容把握問題が易しめなことが多いので、少々単語の穴埋めは落としてもいいかもしれません。一方、医学に関する単語は押さえておいたほうがいいかもしれません。
大問1
問1(B)taint「汚染する」
  (E)subside「収束する」
などです。

 英語長文に強くなる勉強法・参考書

・自由英作文
 大学受験用の自由英作文の参考書も色々とあります。
 また、英検準1級あたりのライティングの教材を使うのもいいでしょう。

 英作文の勉強法・参考書

 

大問1

 19世紀半ばにコレラの研究をしていた医師の話です。ロンドンで勉強をしていて、その医師の疫学手法を知った高木兼寛先生が、東京慈恵会医科大学を設立したそうです。語数は695語です。

問1
空所に選択肢から穴埋めする問題です。

(A)
is generally(credited)as being the father of epidemiology
creditはここでは「功績、名誉などを~に帰する」という意味です。

(B)
food or water(tainted)with feces
taintは「汚染する」といった意です。

(C)易
A few doctors(suspected)that cholera might be caused by bacteria.
日本語では同じ「疑う」でも、doubtはnot think、suspectはthinkに近いことに注意しましょう。

(D)易
it was(unlikely)that bad air was the culprit.
文脈から、空気は犯人ではなさそうだ、ということでいいでしょう。

(E)
the outbreak was already(subsiding)naturally
文脈から、発生が自然に収まった、でいいでしょう。
選択肢に、日本語だと似たような意味の単語が複数あるので、医学英語に親しんでいたほうがいいでしょう。

(F)
the health records of two otherwise(similar)London neighborhoods that were served by different water companies
異なる水道会社から水を引いている、2つのその他の点では似たロンドン近郊の健康記録、ということでいいと思います。otherwiseは主な使い方が3つほどあるので、押さえておきましょう。

問2
「疫学を説明するのに最適な答えはどれですか?」
最終段落の最初に With these two investigations, the field of epidemiology was born. とあります。そこまでを読めていれば、3の「病気が人々の集団の中でどのように広がっていくかを研究する学問」を選べます。

問3
「John Snowが調査をしていた当時、コレラについて一般的に信じられていたことは何だったか?」
第3段落に the most popular theory was that it was caused by miasma, or bad air, that came from people living close together in dirty conditions とあります。ということは、2の「腐敗した空気や不衛生な環境で広がる非細菌性の病気であった。」が正解です。

問4
「なぜ、医師たちはコレラの原因が細菌以外のものであると考えたのか?」
やはり第3段落に doctors who treated cholera patients did not catch the disease とあります。したがって、1の「接触による感染はないようだった」が正解です。

問5
「ブロードストリートで発生した事件について、John Snowの推測はどのようだったか?」

ブロードストリートの話は第4段落に出てきます。そして、段落の最初に Snow theorized that cholera was spread through water. とあるので、3の「感染は自治体の飲料水を通して行われた」が正解です。

問6
「何がJohn Snowにコレラの流行について以前から考えていた説が正しいと確信させたか?」
第6段落の最後に Snow’s analysis showed that the people who got their water from the dirty part of the Thames had a higher incidence of cholera. とあります。したがって、3の「コレラの犠牲者は皆、同じ水源から水を汲んでいることがわかった。」が正解です。

問7
「John Snowはどのようにして水質が病気のリスク要因であることを立証できたのか?」
問6と同様に、第6段落に書いてあります。したがって1の「彼は、水がきれいな近隣地とそうでない近隣地のコレラの発生率を比較した。」が正解です。

 

大問2

空所を選択肢から補充する問題です。

(A)
この段落の最後に、 Surprisingly, the executives rated the advice from the dormant ties as contributing more value than the advice from the current ties. とあるので、(to what extent did it help them)solve problems が正解です。to some extent「ある程度」は、someに何種類か違う単語が入って、この手の文章にはよく出ます。

(B)
この段落の半ばに I feel comfortable とあります。また、最後に The executives didn’t need to invest in building a relationship from the start with their dormant ties, as they would with weak ties. とあり、weak tiesが休眠中ではない、新たな関係を構築しなければならない弱いつながり、と一体であることがわかります。したがって、novel information that weak ties(afford, but without the discomfort). が正解です。

(C)
When we need new information, we may(run out of weak ties quickly), but we have a large pool of dormant ties that prove to be helpful. と休眠中のつながりと、弱いつながりを二項対立的に論じていることがわかります。pool「蓄え」という単語も鍵になるでしょう。

(D)
直前の groaned は、上の方で、When one executive learned of the assignment, “I groaned. ともあり、つまり、休眠中の人脈を再活性化することに不平を言っていた経営者のことです。The executive who groaned(about reconnecting admitted that)it “has been eye-opening for me… が正解です。 

(X)
前の文から考えて、適切な疑問文を考えて、自分で書く問題です。直前は、「休眠中の人脈があるのなら、なにか理由があってのことでしょう?」といった意味です。そこで、「なぜ、彼らと連絡を取らなければならないんだ?」といった意味の英語を書けばいいでしょう。

 

大問3

サンクコストについての英文です。経済学では有名ですね。

問1
下線部の単語と同じ意味の単語を選択肢から選ぶ問題です。

(1)
expend「消費する」なので4が正解です。cost などとあるので、文脈判断も十分できます。

(2)
oblige「強制する」なので3が正解です。単語としても基本的ですし、文法書などでも oblige(compell)O to do の例文が並んでいることがあるのではないでしょうか。

(3)
salvage「回収する」なので4が正解です。本文中のsalvageは、salvage our earlier investment in time or money から文脈判断できそうですが、retrieveのほうは覚えておかないといけないですね。

(4)
finite「有限の」なので1が正解です。否定の接頭辞がついた infinity「無限」が有名なので正解したいです。

問2
「本文によると、サンクコストとは何でしょうか?」
第2段落最初に it is gone and we can never get it back とあるので1が正解です。

問3
「本文によると、なぜ人はサンクコストの誤謬に陥ってしまうのでしょうか。」
第7段落最初に People have many reasons for falling for the sunk cost fallacy. とあります。その後、We think that if we continue what we are doing we might still be able to salvage our earlier investment in time or money. とあります。4が正解です。

問4
「本文によると、将来何をするかを決めるときにサンクコストを考慮することが間違いであるのはなぜか。」
第8段落最初に The only way to avoid the sunk cost fallacy is to realize that the sunk cost is gone and can never be recovered. とあります。2が正解です。

問5
「本文によると、サンクコストの誤謬は、有益かもしれないプロジェクトの継続や中止について、何を教えてくれるのでしょうか。」
第8段落に The sunk cost fallacy can even apply to projects that have potential value if the effort or money put into those projects are preventing us from doing something else that is even more worthwhile. とあります。3が正解です。

問6
自由英作文です。
「 私たちは通常、サンクコストの誤謬に陥ることは否定的だと考えています。もはや有益とは思えないサンクコストを追求することが、最終的にプラスになる可能性はあるのでしょうか。理由と例を挙げて、自分の意見を支持すること。架空の例でもかまいません。」

 It is possible that pursuing a sunk cost that initially seems unbeneficial could turn out positive in the end. For instance, a business owner might invest in a struggling project due to its sunk costs. This persistence could lead to unexpected innovation, a new market, or increased motivation to turn things around. A fictional example is a movie producer who continues investing in a costly film despite challenges. The final movie might become very popular among a small group of fans or inspire future filmmakers, proving that the continued investment was worthwhile despite early concerns.

 

 

2019年東京慈恵会医科大学英語

 

大問1

The Timesからの出題です。
女性の心胸外科医の話です。
語数は約420語です。

最後の方に、fight-or-flight response「闘争逃走反応」という言葉が出てきます。
ストレスは、もともとは、人類が猛獣などに出会ったとき、猛スピードで逃げ、噛まれてもあまり地が出ないようにする、など、一時的にパフォーマンスを上げるためのものでした。
しかし、現代ではストレスが慢性化しがちなので、負の部分が顕在化しています。
大学受験塾チーム番町のサイトでは、大学での研究を踏まえて

受験生の理想的な生活習慣 【睡眠・運動・食事・ストレス緩和】

というページを用意しています。

ここで述べられているようなことを知っていると、わかりやすかったかもしれません。

いきなり
cardiothoracic 心臓と胸部の
という医学部入試特有の単語が出てきますが、問題に解答するのには影響がないと思います。
心臓外科医なのかな、というのは後を読めばわかりそうですよね。

 

大問2

人体の順応性についての英文です。
語数は約480語です。
embryo 胚
anatomy 解剖学
anatomize 解剖する
といった単語は、医学部入試対策で知っておいたほうがいいでしょう。
一方、
thorax 胸郭
sternum  胸骨
tendon 腱
といった単語は、問題を正解するのに影響はなかったと思います。
問1の単語問題は、上記を踏まえた上で、その他は、文脈から判断する姿勢も大切です。

 

大問3

語数は約700語です。
たとえば、風呂で溺死するよりもサメに食われて死ぬリスクを高く判断するといった、人間が犯す判断のエラー、バイアスについての英文です。
バイアスについての英文は、2019年、日本医科大学の大問2でも出題されています。
研究医、臨床医の卵としては、知っておかなければならない知識でしょう。
心理学者、行動経済学者のダニエル・カーネマン教授は、このような研究で2002年に、いわゆる、ノーベル経済学賞を受賞しています。

ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(早川書房)

 

大問4

和文英訳問題です。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町(麹町中から1.2km)代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

 

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【大学受験英語】ディクテーションのおすすめ教材とやり方、勉強法

 

東大・医学部受験の英語の勉強法

 

【大学受験英語】ディクテーションのおすすめ教材とやり方、勉強法

 

ディクテーションとは?

英語を聴いて、書き取ることです。

 

ディクテーションは効果はあるの?

 集中力を必要とし、書くというアウトプットをするので、リスニングのトレーニング効果が高いのではないかという仮説を持っています。大学受験、TOEIC、英検など、試験にリスニングがある全ての人はすべきだと思います。
 また、読むという刺激のみではなく、聴く、書くという刺激による適応も期待できるので、リスニングのみならず、読解にも効くのではないかと考えています。

 

ディクテーションのやり方は?

・実力に応じて、数語で止める、わからない語をカタカナで書く、ゆっくり再生するなどしてもいいと思います。

・素材のレベルの上限は、大学入試の英作文レベル、つまり、読解だと高校初級レベルのものが、英作文との相乗効果もあり、良いかと思います。それ以上は、書かずに、音読系でいいかと思います。

 

ディクテーションのおすすめ教材は?

 

下に行くほど、レベルが上がります。

中学英文法 Fine(Z会出版)

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高校入試、英検3~準2級レベル。
中学英文法の解説書です。
見出し例文のみ、音声を用意できます。
文法の解説が詳しく、論理的なのがいいと思います。
文法、英作文との一石三鳥を狙えます。

 

99パターンでわかる中学英語文型の総整理(学研)

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¥1,200 (2025/04/01 16:44:43時点 Amazon調べ-詳細)

高校入試、英検3~準2級レベル。
構文集です。文法の解説は弱いです。例文の数は多いです。
文法、英作文との一石三鳥を狙えます。

東大にそれなりに合格するような進学校の英語の下位層の特徴の1つは、(日本語を見て)英語で書くのが苦手、そのような訓練を中学時代にしてこなかった、ということでした。中学~高校初級の英文をスラスラ書けることは、高校レベルの読解には影響が大きいのかもしれません。

 

ラーナーズ高校英語(数研出版)

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高校英文法基礎~標準。
見出し例文のみ音声を用意できます。
英文法総合参考書の白チャート。
学校配布の文法書の例文は、英作文用としては、ハードルが高いケースも多いです。
本書は、類書に比べ、例文が易しめで、ディクテーション、文法、英作文と一石三鳥も期待できます。
文法は絞られつつも、解説は論理的でいいです。

 

スクランブル英文法・語法Basic(旺文社)

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旺文社
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高校英文法基礎~標準。
ありがちな文法問題羅列問題集です。『Basic』でない無印のものは、数年前は、かなり、トップ進学校で採用されていたようです。(現在はVintageがシェアを伸ばしているようです。)
類書の中では、文法事項が絞られ、単語が易しめなので、ディクテーション、英作文、文法と一石三鳥を期待できます。
文法の解説は弱めなので、高校英文法の全体像を把握できていない人は、まず、上記『ラーナーズ高校英語』をこなすといいでしょう。
この1冊を解ける、音声のスピードで理解、ディクテーション、など、ひたすらマスターすれば、まあ、高校英文法の基本の全体像を把握したと言え、それなりの成績になっているでしょう。

 

Future Globe 表現のための英文法・語法問題(桐原書店)

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高校英文法基礎~標準。
2021年8月発売。
レベルは上記『スクランブルBasic』と同じくらいですが、設問、文がかなり会話寄りです。
文法の体系をやや崩した配列なので、高校文法の全体像を把握していないと使いにくいかもしれません。
会話調のリスニングが苦手な人などにはいいのかもしれません。
たとえば、
・国立医学部志望で、どうしても、共通テストのリスニングで高得点を取らなければならない人
・英検、TOEICのリスニングが弱い人
などです。

 

英作文が面白いほど書ける本(KADOKAWA)

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KADOKAWA
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英作文基礎→和文英訳型入試。
和文英訳が出題される、京都大学、東京工業大学、東北大学、などの大学を受験する人は、本書をこなすと、リスニング、英作文の一石二鳥が狙えるでしょう
英作文の本なので、当然、書ける必要があります。

 

大学入試の自由英作文、英検の英作文・面接の参考書

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大学入試の自由英作文対策。
東大、一橋大など、上位国立大学では、自由英作文が出題されます。そして、英検の自由英作文、面接と出題傾向が似ていることも多いです。
リスニング、自由英作文の一石二鳥が狙えるでしょう。

これらの対策教材は、近年、多くが音声を利用できるようになっています。やはり、英作文の本なので、書ける必要があります。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
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イントロダクション

 ディクテーションは、英語学習において非常に効果的な方法です。初心者の方でも取り組めるように、本記事ではディクテーションのやり方と効果的な練習方法をわかりやすく解説します。専門用語や難しい話については、補足説明や例え話を交えながら説明しますので、どなたでも理解しやすい内容となっています。

 

ディクテーションとは何か?

 ディクテーションとは、英語の音声を聞いてそれを書き起こす作業のことです。この方法は、主にリスニングスキルの向上や英語力全体の向上を目指すために使用されます。ディクテーションの主な目的は、正確な聞き取り能力の開発と書き表現の向上です。

 ディクテーションは、実際の英語の音声を聞き取り、それを文字に起こすことで、リスニングスキルを鍛えるための効果的な方法です。正確に聞き取るためには、スピーカーの発音やイントネーションに集中し、言葉やフレーズの意味を正確に理解する必要があります。

 ディクテーションを行うことによって、以下のような効果を得ることができます。

リスニングスキルの向上

 ディクテーションは、英語の音声を正確に聞き取る能力を向上させます。リスニングスキルは、日常会話や講演など、さまざまな状況での英語の理解力に直結します。

苦手な分野の特定

 ディクテーションを繰り返し行うことで、自分が聞き取りにくいと感じる分野や表現を特定することができます。その分野に集中的に取り組むことで、苦手意識を克服し、理解力を向上させることができます。

文法力の強化

 ディクテーションでは、文法の正確さや文の構造にも注意を払う必要があります。正確な書き起こしを行うためには、文法の知識と理解が求められます。ディクテーションを続けることで、文法力が向上し、正確な表現ができるようになります。

ディクテーションのやり方は以下の手順に従って行われます。

音声全体を一通り聞く

 最初に、ディクテーションする音声を全体的に聞きます。この段階では、内容の理解よりも全体の流れを把握することに重点を置きます。

聞きながら書き起こす

 音声を再生しながら、聞き取った内容を書き起こします。正確なスペルや文法に気をつけながら、可能な限り正確に書き写すようにします。数語で止めてもいいです。分からない英語は、カタカナでもいいです。

全体チェックと答え合わせをする

 書き終わったら、書き起こしたテキストを全体的にチェックします。原文と照らし合わせながら、間違いや欠けている部分を修正します。

聞き取れなかった原因を分析する

 ディクテーション中に聞き取れなかった箇所について、なぜ聞き取れなかったのかを考えます。発音の問題や聞き取りにくい単語やフレーズを特定し、改善策を見つけます。

ディクテーションをより効果的に行うためのコツもあります。

基礎的な文法や単語の勉強から始める

 ディクテーションは正確な文法や単語の知識を要求します。基礎的な文法や単語の学習を進めてから取り組むことで、より効果的な学習が可能です。

穴埋めではなく全文を書き起こす

 ディクテーションでは、単語やフレーズだけでなく、文章全体を正確に書き起こすことが重要です。穴埋め形式の教材よりも、全文を書き起こす形式を選ぶことをおすすめします。

勉強しやすい教材を選ぶ

 自分のレベルや興味に合った教材を選ぶことが重要です。音声の速度や難易度が調整可能な教材を選ぶことで、より効果的な学習ができます。

音読やシャドーイングを併用する

 ディクテーションだけでなく、音読やシャドーイングと併用することで、より自然な発音やリズム感を身につけることができます。

聞き取れなかった原因に合わせて対処法を考える

 ディクテーション中に聞き取れなかった箇所には様々な原因があります。発音の問題であれば発音の練習を、語彙の問題であれば語彙の学習を重点的に行うなど、個々の問題に対して対処法を考えましょう。

 これらのコツと手順に従ってディクテーションを継続的に行うことで、リスニングスキルや文法力を向上させることができます。繰り返し練習することで、徐々に聞き取り能力が向上し、自信を持って英語を理解できるようになるでしょう。

 

ディクテーションの注意点

聞き返すのは最大でも10回にとどめる

 ディクテーション中に聞き取れなかった部分がある場合、一度や二度なら聞き返しても構いません。しかし、過度に聞き返してしまうと学習の効果が薄れます。最大でも10回程度に制限しましょう。その際には、何度も同じ箇所を聞き返すのではなく、次に進んで他の部分にも取り組むことが大切です。

いきなり長時間行わない

 ディクテーションは集中力と忍耐力を要求する作業です。初心者の方は、長時間のディクテーションに取り組むことは難しいかもしれません。最初は短いセッションから始めて徐々に時間を延ばしていくことをおすすめします。例えば、5分から10分程度のセッションからスタートし、慣れてきたら時間を徐々に増やしていきましょう。自分のペースに合わせた学習が重要です。

ディクテーションだけをやり続けない

 ディクテーションは効果的な学習方法ですが、総合的な英語力を身につけるためには他のスキルや教材も併用することが重要です。リーディング、スピーキング、ライティングなど、他のスキルにもバランスよく取り組みましょう。また、ディクテーションだけでなく、リスニングの幅を広げるために英語の音楽やポッドキャストを聴く、英語の映画やドラマを視聴するなど、多様な学習方法を取り入れることで、より実践的な英語力を養うことができます。

 ディクテーションを取り入れながらも、バランスの取れた学習を心がけることで、より効果的に英語力を向上させることができます。ディクテーションをメインの学習方法として活用しながら、他のスキルとの組み合わせや多様な学習方法の探求を行いましょう。

ずっと聞き続けない

 ディクテーションは集中力を要する作業ですが、長時間一気に取り組むと疲れてしまい、効果が薄れることがあります。長時間のディクテーションを行う場合は、適度な休憩を挟みながら取り組むことが重要です。たとえば、20分のディクテーションを行った後に5分程度の休憩を取り、頭をリフレッシュさせると良いでしょう。集中力を保ちながら効率的な学習を行いましょう。

スペルにこだわり過ぎない

 ディクテーションでは正確なスペルを書くことも重要ですが、初心者の方は最初から完璧を求める必要はありません。ディクテーションは主にリスニング力の向上を目的として行いますので、スペルの正確さよりも聞き取り能力に焦点を当てましょう。最初は大まかな単語やフレーズを書き起こし、徐々に正確さを高めていくことが重要です。スペルの習得は時間と経験が必要ですので、焦らずに取り組んでください。

なぜ聞き取れなかったかを明らかにする

 ディクテーション中に聞き取れなかった部分があった場合、なぜ聞き取れなかったのかを分析しましょう。原因を特定することで、適切な対策を立てることができます。以下に、よくある聞き取りの問題とそれぞれの対策を紹介します。

単語のリスニング力不足

 聞き取れなかった単語がある場合は、その単語のリスニング力を強化する必要があります。関連する単語やフレーズを反復して聞く練習や、単語の発音を確認するために辞書やオンラインの音声素材を活用しましょう。

文法的な問題

 ディクテーション中に文法的な問題が生じた場合は、文法の知識や文法書を参考にして正しい表現を学びましょう。特に、聞き取りにくい部分がある文法項目に注目し、積極的に学習していきましょう。

スピードの速さ

 スピーカーの話すスピードが速すぎて聞き取れない場合は、まずはゆっくり話すスピードの音声から始めましょう。徐々にスピードを上げていくことで、慣れていくことができます。

  聞き取りの問題に対する対策を立てることも重要です。自分が聞き取りにくいと感じる部分を具体的に把握し、それに対する対策を工夫して取り組みましょう。ディクテーションの練習において、聞き取りの問題に向き合い、改善していくことが重要です。

 

ディクテーションのメリット

英語が聞き取れるようになる

 ディクテーションを継続的に行うことで、リスニング力が向上します。英語の音声を正確に聞き取る力を養うため、実際の会話や講演などの音声をより理解しやすくなります。ディクテーションを通じて、スピーカーの発音やイントネーションに慣れることで、日常会話や英語の文書をより正確に理解することができます。

発音の知識がつく

 ディクテーションは正確な発音にも注力します。音声を聞き取りながら書き起こすことで、英語の発音のルールや特徴を身につけることができます。正確な発音を学ぶことで、自分自身の発音の改善や、ネイティブスピーカーとのコミュニケーションにおいてより自然な発音を実現することができます。

文法力がつく

 ディクテーションは文法力の向上にも寄与します。文法的な構造や文のつながりを理解するため、文法のルールやパターンを学ぶことができます。ディクテーションを通じて、正しい文法表現や文の構成を身につけることで、自分自身の英文の組み立てや文章の正確性を向上させることができます。これは、英語でのコミュニケーションや文章作成において重要なスキルです。

 ディクテーションは、ステップバイステップで取り組むことで効果を最大限に引き出すことができます。正しい手順に沿って練習を行い、自分の英語力向上のためのツールとして積極的に活用しましょう。継続的なディクテーションの実践によって、リスニング力や発音の正確性、文法力を高めることができます。

【レベル】チャート式ラーナーズ高校英語(数研出版):文法が絞られ、全体像を把握

 

東大・医学部受験の英語の勉強法

 

【レベル】チャート式ラーナーズ高校英語(数研出版):文法が絞られ、全体像を把握

 

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『ラーナーズ高校英語』のレベルは?

 高校生、大学受験生向けの英文法の参考書です。
 高校数学に白チャート、黄チャート、青チャートがあるように、高校英文法の総合参考書にも、白チャート、黄チャート、青チャートがあります。

 ラーナーズ高校英語は、その中で、もっとも易しい、白チャートです。高校英文法の基礎~標準レベルを学習したい人に向いているでしょう

 

『ラーナーズ高校英語』の使い方は?

 ラーナーズ高校英語は、黄チャートや青チャートに比べ、扱う文法が絞られています。細かいことは後回しにして、とりあえず、高校英文法の全体像を把握したい、という人には向いているでしょう。「パレートの法則」と言って、「大切な順に2割終わらせると、すべきことの8割を終えている」という法則があります。高校英文法の全体像を把握していない人にとって、コストパフォーマンスは良いでしょう。
 ほとんどの場合、このような、英文法の総合参考書を通読しようとすると、挫折すると思います。通読できるとしたら、内容が絞られているラーナーズかな、と思います。

 ラーナーズ高校英語は、扱う文法は絞られていますが、たとえば、前置詞+関係代名詞、関係副詞で2文を1文にするメカニズムや、分詞構文の作り方などは、しっかり論理的に解説されています。この、初級者向けなのに、理論的なことも、かなりしっかり学べるのがいいところだと思います。

 また、ラーナーズ高校英語は、黄チャートや青チャートに比べ、例文が易しいです。これは、英作文にも使いやすいということです。類書の例文は、英作文に使うには、ハードルが高いことも多いです。
 見出し例文のみ、音声をダウンロードできます。この音声を使い、ディクテーション(聴いて書き取る)をすれば、文法、リスニング、英作文と一石三鳥を狙えます。

 本文中の「Check」の問題や、章末問題を解くと、理解度を確認でき、学習した文法の定着度が高まるでしょう。

 

『ラーナーズ高校英語』のレイアウト

 多色刷りでカラフルなので、女子なども勉強するモチベーションが上がると思います。
 まず、各章の最初に、中学レベルの文法を確認するページがあります。
 本文に入ると、まず、見出しの例文が囲まれています(音声付き)。その下に、全く同じ文法の例文や、関連した文法の例文、その解説、和訳などが載っています。
 文法事項で間違いやすい部分は「注意!」というコーナーで囲まれ、まとまっています。
 ところどころで「Review(復習)まとめておこう!」というコーナーがあります。たとえば、推量の助動詞など、いくつも出てきて、解説が長くなりますが、この部分を見れば、よくまとまっているので、記憶の定着を助けると思います。
 先述のように、『ラーナーズ高校英語』は基礎~標準レベルの文法参考書です。したがって、見出しの例文も、その下の例文も、文法事項が絞られています。そこからは外れたが、重要な事項は「Step Up!」というコーナーに載っています。実は、トップレベルの人達でもない限り、「白チャート」を使っても、コスパ良く「青チャート」あたりと同じくらいの到達点に達することができます。
 問題は、各章の途中にいくつもあり、また、章末問題もあります。解説が全くありませんが、途中の問題は、すぐ前の文法から出題されているのでわかります。章末問題については、別冊の解答冊子に、1aなど、本文のどこに載っているかが書いてあるので、やはり、そこを見直せば、理解できると思います。

 

『ラーナーズ高校英語』の出版社の実績と信頼性

 『ラーナーズ高校英語』の出版社は数研出版です。
 まず、高校数学の検定教科書の進学校での採用率は圧倒的だと思います。その他、各科目の検定教科書を出版しています。高校理科あたりは、比較的有名だと思います。
 数研出版と言えば、本書は英語ですが、数学の『チャート式』が超定番です。他にも追随する類書はありますが、知名度の面からは、『チャート式』が最も有名でしょう。
 数研出版の実績と信頼性は絶大といえます。

 

『ラーナーズ高校英語』の目次

00 学習に必要な基礎知識
01 文の種類
02 疑問詞と疑問文
03 動詞と時制(1)
04 動詞と時制(2)
05 助動詞
06 文の型
07 受動態
08 不定詞
09 動名詞
10 分詞
11 比較
12 関係詞
13 仮定法
14 接続詞
15 時制の一致と話法
16 否定
17 注意すべき構文
18 前置詞
19 名詞
20 冠詞
21 代名詞
22 形容詞
23 副詞

 

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

大学受験塾チーム番町 市ヶ谷駅100m 東大卒の塾長による個別指導

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