【感想・書評】(千代田区立)麹町中学校の型破り校長 非常識な教え(工藤勇一、SB新書)

 

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【感想・書評】(千代田区立)麹町中学校の型破り校長 非常識な教え(工藤勇一、SB新書)

 

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『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』の感想、書評

2019年9月6日発売。SB新書。

 2020年3月まで千代田区立麹町中学校(大学受験塾チーム番町から1.2km)の校長を務められた工藤勇一先生の著書です。
 工藤勇一先生は、山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒業。山形県で中学の数学教諭を5年間務めた後、東京に移ってこられたそうです。その後、学校の現場のみならず、区や都の教育委員会の役職を歴任され、2014年に千代田区立麹町中学校長に就任されました。麹町中では、本書で書かれているような、各種の改革をされました。
 2022年現在は、私立の横浜創英中学・高等学校校長をされています。

 

工藤勇一先生の評判は?

 このキーワードで検索する方が一定数いらっしゃるので、リクエストにお応えしたいと思います。
 当塾には、麹町中で工藤勇一先生と在籍が重なっていた生徒が複数おります。おおむね、評判はいいのではないかと思います。
 ただ、著書や、ネット記事に書かれているようなことは、あまり保護者や生徒に向けては、発信されていなっていなかったようです(笑)。だからか、保護者や生徒には、工藤先生のお考えが、あまり浸透していないようです。
 たとえば、「工藤先生時代は良かった」と言っていた保護者が、工藤先生の教育方針に反するような過保護過干渉な言動をしていた結果、お子さんのほうが、かなりの進学校に行ったにも関わらず、テストで学年最下位に近い点数を取り、当塾に来たものの、親子でおかしな言動をくり返し、一度目の数学のテストで点を取れなかっただけで母親が退塾を決め(子供の方も、中学レベルの内容も、もう一つ理解していなかったし、そもそも、試験範囲でない部分を教えてくれと頼まれたことが多かった
)、退塾時の授業料も滞納した、といったこともありました。

 

宿題はいらない

 そもそも、宿題はなんのために存在するのでしょうか?
 脳科学では「脳は生存に不可欠なこと以外は忘れる」ということになっています。勉強を「生存に不可欠」だと理解していれば、宿題を出さなくても勉強するでしょう。逆に、宿題を出したところで、「生存に不可欠」だと思っていなければ、「単なる作業」となり、内容をマスターできないでしょう。
 また、世界陸上400mハードルで銅メダル2回の為末大さんは、「自分の人生を生きているという感覚」「何かを見てワーッと好奇心が湧いてくる」が一番の才能で、最も後天的に与えにくい、と語っています。先生が細かく範囲を指定した宿題を言われた通りにこなす。「自分の人生をいきているという感覚」とは正反対ですよね。また、人から強制されて勉強しているようでは、本来あるべき好奇心も、だんだん薄れていくでしょう。
 そして、自宅で勉強することを、自分で決めずに、先生が決めてしまうから、「主体性」「自己管理力」「自分の状況を把握する能力」「自分の理解度を把握する能力」といったものが育まれないのではないでしょうか。

 教育がうまくいっていない家庭ほど、表面的に「宿題を出してくれ」と言ってくる傾向があるように思います。逆に、宿題など出さなくても、塾長の生徒は、東大、国立医学部に合格するのに、全く困っていません。
 学校も塾も家庭も、「目的」と「手段」を取り違えている。また、家庭の「子供が机に向かっている」という「表面的な安心感」のニーズを満たすために宿題を出す。そんな「表面的な安心感」を欲するような、非論理的な家庭が、受験という理性が必要な勝負でうまくいくわけがないですよね。

 

わかっていることはやらなくていい

 テスト勉強、受験勉強は「できていないことをできるようにした」時に、成績が上がります。
できていないことにチェックをつけ、そこだけくり返せばいいのです。
 やはり、できていることを宿題に出されるのはムダですよね。

 

社会に適応する力、非認知スキル

 非認知スキルとは、課題発見力、課題解決力、挑戦意欲、といった、ペーパーテストでは計測できない能力のことです。
 『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』では、「社会に出たときにしっかり生きていける力」として、非認知スキルを語っているようです。つまり、非認知スキルとペーパーテストを二項対立的に語っているようです。
 しかし、非認知スキルが学歴に大きく影響することは、ノーベル経済学賞も受賞したヘックマン教授らの研究で明らかになっています。それは、挑戦意欲、自分の状況を把握する力、自分の理解度を把握する力、やり抜く力、といった非認知スキルが高いほうが、ペーパーテストの点数も高くなるのは当然ですよね。
 当塾の非認知スキルの解説ページはこちら。

「学歴」にも大きく影響する「非認知能力」とは?

 大学受験塾チーム番町は、本書の論調とは異なり、仮にペーパーテストで点数を取ることを第一に考えても、非認知スキルを育むことが大切だという考え方です。

 

学びとはカリキュラムをこなすことではない

 早期の英語教育、STEM教育を強制すると、子どもの主体性、意欲を奪うことになりマイナス、というのは、同じ意見です。お子さんに色々なことに触れてもらい、きっかけを作るくらいのことはいいでしょう。しかし、お子さんが、やりたくもないことを強制すると、上記のように「自分の人生を生きている感覚」「何かを見て好奇心がワーッと湧いてくる」といった一番の才能が失われてしまうと思います。
 また、高校生にもなって、塾に親が出てくるような家庭は、だいたい成績が悪いか、仮に最初はよくても、だんだん下がります。

 

一斉授業の非効率さ

 工藤先生は、一斉授業ではなく、ひとりひとりのモチベーションを優先した、個別最適化した授業、常に学び合いながら問題を解決していく双方向の授業を理想と考えているようです。1クラスに何十人もいる中学校では、なかなか難しいですよね。
 大学受験塾チーム番町は個別指導塾です。授業内容も塾生と話し合い、また、塾生との双方向性の授業を行っております。

 

時代遅れ

 塾長も、古文、漢文はほんのちょっと学ぶくらいでよく、大学受験のメイン科目にするのは、いかがなものか、と思います。おそらく、ほとんど、ほとんどの日本人は、古文、漢文を学ぶことにより、新たな付加価値を生み出すことはできないだろうからです。ほんのちょっと学んで、興味を持った人が、大学で学び、研究者に慣ればいいと思います。論語などは、現代語訳で学べばいいと思います。
 ただ、ヨーロッパのエリートなども、以外に、ラテン語など、役に立たなそうな時代遅れなことを学んでいるようです。なんなのでしょうね。

 

縦割りの限界

 工藤先生は、教科ごとの縦割りの限界を感じているようです。
 大学受験塾チーム番町では、塾長がすべての科目を指導しています。したがって、縦割りの弊害がありません。数学で指数関数が出てきたら、「何も対策をしないと、感染症の感染者数は指数関数的に増加するんだよ」と、生物学と絡めた話をすることが出来ます。微積分を学ぶときは、物理の教科書を見せながら、座標を微分すると速度に、速度を微分すると加速度になることや、面積を求めることと物理学と近代文明の関係などの話をすることができます。有機化学でピクリン酸が出てきたら、日本海海戦で日本が完勝した原因の1つであったことを話すことが出来ます。
 また、受験になると、各科目で「時間」という資源の奪い合いが始まります。受験というものは、各科目の総合点で合否が決まるのに、科目間の縦割りで、柔軟に苦手科目の対策をすることは出来ない。
 「いかなる部分最適も全体最適には勝てない」(P.F.ドラッカー)。受験は、全科目の合計点の勝負です。1人の指導者が全科目を指導すれば、全体最適が達成されます。

 

大人の成功体験の押しつけ

 『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』では紙の辞書へのこだわりの話ですが、先生にしろ、保護者にしろ、自分の成功体験を押しつける人がいます。サンプル数1の何の一般性のない話を人に押し付ける。その時点で、その人の知性の欠如が推し量られますね。
 大人は、子供に「勉強しなさい」と言う前に、自分が勉強しなければなりません。たとえば、本書を読むなど。

 

勉強は要領をつかむまでが勝負

 勉強は要領が大切だというのは、そうだと思います。
 ただ、『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』で挙げられている例は、「読むだけで覚えられる」「線を引いたら、もっと覚えられる」と、記憶の方法としては、やや非科学的な方法が語られます。工藤先生自身が、先述の「大人の成功体験の押し付け」をしているのは、残念です。
 現在の脳科学では、答を見ない状態で答えられるようにする「出力法」をすると、脳が「この知識はこんなに使う、生存に不可欠な知識なのか」と判断し、記憶に残りやすいとされます。また、ひたすら復習すると、やはり、生存に不可欠な知識だと判断し、記憶に残りやすいようです。

 

麹町中で配る、手帳を使う

 大阪の普通の公立中学の陸上部で、7年間に13回の日本一を達成された、原田隆史先生という方がいらっしゃいます。原田隆史先生は「成功は作るもの」「成功は技術」とおっしゃいます。そして、その方法を書籍で紹介しています。
 その方法の一つに「日誌」があります。「日記」と「日誌」は異なります。「日記」は「日々の出来事をつれづれなるままに書くもの」。「日誌」は、スケジュール表に予定を書き込み、1日の終りにできたかできなかったかを振り返るためのツールです。1日1日こなすべきことをこなし、1日1日成長することをくり返す。そうすると、何年も後には、大きく成長しています。塾長の過去の生徒にも、毎日日誌を書き、とある上位進学校の下位層から、京大大学院にトップ合格、国家公務員試験総合職で経済産業省に合格、という人もいました。
 麹町中学校では、手帳を、スケジュール管理に使う目的で配っているそうです。また、本書では、学習計画のために手帳を使うことをオススメしています。
 また、日誌や手帳といったものをつけることによって、「自分の状況を把握する」といった「メタ認知能力」を鍛えることができるというのも、同意見です。

 

「ルールを守らせる」に必死な大人

 工藤勇一先生の口ぐせの1つに「目的と手段を履き違えるな」というものがあります。この項でも、問題の本質を見つめることの大切さが述べられます。
 この項では「置き勉」、つまり、学校に教科書を置いていくことの禁止について語られています。工藤勇一先生は若手時代、「置き勉禁止」に疑問を持っておられたそうです。実は、塾長も中学時代、学習委員会に所属しており、「置き勉禁止」を守らせる側でした。しかし、塾長自身も、なぜ置き勉がいけないのか理解できず、「置き勉禁止」に反対していたことがあります。
 また、生徒に対してではなく、先生自身が、ルールを守ること自体が自己目的化するケースも多いようです。たとえば、まずまずの進学校の数学の授業で、教科書を使わず、自作のプリントを作ること自体が自己目的化した結果、教科書と教科書準拠問題集を使った授業のほうが遥かにマシ、というケースは、日本全国で多いのではないでしょうか。

 

どこまで厳しく叱ればよいか

 工藤先生は、これも「何を目的として子供を叱ろうとしているんだっけ?」と冷静に考えることによって解決するとおっしゃいます。
 『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』でも「叱る優先順位を決めれば、叱る頻度が減り、大人も子供も不要なストレスを抱えなくてすむ」としています。他の著書では、一番の優先順位は「命」だろう、としています。
 ただし、工藤先生は、生徒がかかとを潰して上履きを履くことは、別にいいだろう、と思っているようです。しかし私は、そのあたりから、きちんとすることが、全てに通じると考えていて、この件については工藤先生に反対です。上記の原田隆史先生も、同じようにおっしゃるはずです。

 

多数決に頼らない生徒に育てる

 日本国憲法では、直接民主主義を3つの場合に限っています。
・憲法改正の承認の是非を問う国民投票
・最高裁判所裁判官の国民審査制
・地方特別法の住民投票
 これは、憲法学では、単純に多数決で決めるのではなく、選挙で選んだ議員に十分に話し合ってもらい、少数者の人権を尊重するため、とされます。塾長の小・中・高時代の担任の先生で、1人だけ、単純に多数決で決めるのではないことを指導されていた先生がいらっしゃいました。本書でも、少数派の意見を尊重することが述べられています。

 

麹町中の改革、固定担任制をやめる

 麹町中では、クラスの固定担任制をやめました。
 進学校の下位層の生徒に多く見られる特徴の1つは、主体性に欠け、他人のせいにする傾向があることです。「うちの担任は頼りにならない」「今の化学の先生はクラスの他の人からも評判が悪い」。いやいや、それよりも頼りないのは、君自身でしょうと。君自身が成長しなさい。

 

最後の最後は「家族全体の幸せ」

 『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』のこの項で明確に述べられているわけではありませんが、やはり、ここも「目的と手段を履き違えない」ということだと思います。
 そもそも、なぜ勉強するのか、受験をするのか。
 幸せになるための手段だからだと思います。
 勉強をめぐって、受験によって、家庭が不幸になるようなら、本末転倒でしょう。しかし、進学校の下位層、また、入学直後は上位でも、だんだん成績が悪くなっているような家庭は、受験によって不幸になっているようなケースが多いようです。

 

この記事を書いた人

大学受験塾チーム番町(麹町中から1.2km)代表。東大卒。
指導した塾生の進学先は、東大、京大、国立医学部など。
指導した塾生の大学卒業後の進路は、医師、国家公務員総合職(キャリア官僚)、研究者など。学会(日本解剖学会、セラミックス協会など)でアカデミックな賞を受賞した人も複数おります。
40人クラスの33位での入塾から、東大模試全国14位になった塾生もいました。

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